第52話 演説と商売
牙猿と魔狼の登場によって、エルフの里はプチパニックになってしまった。
しょうがないので、ヴィトンに言って皆を集めた。
牙猿と魔狼は仲間であること。
今後も彼らは自分たちと共にある事。
仲間の印は、服だ! 牙猿たちは普通に服を着ている。
アルファ達、魔狼は、首にバンダナ?大きさ的にシーツ?を巻いている。
最初はブツブツ言っていたが、首輪と違って何気に気に入っているのを俺は知っている。クスクス♪
これが無い牙猿や魔狼は、仲間じゃない!直ぐに教える様に!
絶対に近づいてはならない!周知徹底するようにと伝えた。
俺らは全員一旦里に入る。
俺も牙猿も魔狼も、一緒に来た全員が入る。
俺はトゥミの旦那で、一応、長老の孫娘の旦那である。だから、長老の孫扱い!
今回、ここに拘ったのは訳がある。
全員の前に立つ。息を大きく吸って皆に告げる。
「人間の商人が来た。
人間は個人の能力や器量は図れない。だから肩書を気にする。糞の役にも立たない肩書きが全て!それが糞の役にも立たない人間の実態だ。」
「仲間かどうかより自分にとって得になるか?それが人間の行動原理であり、付け入る隙なんだよ。一部の人間では当て嵌まらない奴も居る。しかし人間は欲深い生き物で、仲間なんて平気で裏切るんだ!繁殖力も旺盛で他の種族を駆逐して蔓延るのが人間だ!覚えて置け!」
全員が固まった。・・・・・
人間のあんたが言うか?‥‥心の声が聞こえて来る。
俺は皆を見渡して続きを告げる。
「そうやって、同じ人間に騙されて、ここで魔物に襲われて、命を落し掛けたのが、今ここに居るこいつ等だ。」・・・・・商人たちは固まってしまっている。
「皆どう思う?同じ人間に騙されて、ここの危険も知らされず、今日ここに初めて来たこの人間たちを?」
「人間の汚さを皆に教えてやる!---こいつらは商人で、今まで来てた商人に騙されたんだ!エルフとの交易は儲かると。儲かるから借金してもやるべきだと!今まで買ってた塩や香辛料や色々はな、市価の5倍以上で買わされてんだよ。移動の手間入れても倍以上で搾取されてたんだ。今まで売ってたリンゴや他の果物も、本当の価値の10分の1だって信じられるか?そんな奴らに騙されてたんだ。」
全員が息を呑んだ。じわじわと怒りが込み上げて来る。
「最近は、俺が来て本当の価値で品物を並べただろ?皆安いって買ってくれただろ?
安くねーんだよ本当の価値なんだよ。本当の価値を知らないのを良い事に人間の商人に搾取されてたんだ。」
「だから!本当の価値を皆に知って欲しかった。騙されて欲しくなかったんだ。」
「そしたら、今度はこれだ!?同じ人間で、同じ商人なのに、自分の身内を人質に取られてまで遣らされたんだ!騙されて家族を売られそうになってんだよ!・・・何でだ!?・・・俺のせいだよ。俺が、エルフの皆が人間から搾取されるのがイヤだったんだ!!だから人間との取引を止めたかったんだ。」
「そしたら今度は、こいつらの姉さんを借金のカタにとって、エルフとの交易で借金を返せと‥‥‥」
悔しくて、ムカついて、悔しくて‥‥‥
「俺はぁ!エルフの里で必要な物は全て用意する!!もう人間に頼らずに済むように!前にも言ったが、何が必要かを教えてくれ!もう、人間に騙されないぞぉ!!」
「「「「「「「「「「おおぉぉぉぉーーー!!!」」」」」」」」」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
演説は決まらなかった。
慣れない事はするもんじゃない。
ヴィトンに肩を叩かれた。
「相変わらず無茶するのう。」
「ヴィトンか、つい熱くなっちまった。」
「熱くなるのは若い証拠だが、あれじゃ益々人間との確執を深めるの。」
「‥‥そうだった。敵対したい訳じゃなかった。‥‥しかし、エルフの女を攫って売り飛ばしたり、騙して搾取したり、そんな輩が後を絶たないんじゃ、いっそのこと敵対した方が関わらなくて良くないか?」
「逆じゃの。敵対すれば、今まで以上にやりたい放題やって来るだろう。安心して暮らせなくなるぞ?」
「うぅ‥‥どうしたら?俺に出来るのは、目指してるのは、エルフの生活を豊かにして幸せに暮らしたいのに・・・」
「直ぐにどうこうはならんじゃろ?焦る事は無い。出来る事をやって行けば、自ずと変わって来るもんじゃ。」
「そうか。出来る事をやっていくか。‥‥そうだな。ヴィトン、ありがとう。」
「何々、儂とお主の仲じゃろ?」
「あぁ。今夜の酒は楽しみにしててくれ。」
二人でニヤリと笑いあう。
出来る事をやるとするか。
エルフの皆がどう思ったかは分からない。
エルフの皆に不利益が被らない様にしようとは思う。
ジャニ、フェブ、メイの三人の所へ行く。
俺が余計な演説をしたせいで、居心地が悪そうだ。
「ごめんな。居心地悪くなっちまったな。」
三人はフルフルと頭を振りながら、
「いえ、本当の事ですから。」
人間社会の中でも、悪辣な商人は多くて色々問題になっていると。
特に商業ギルドは、物資、物流を牛耳っているので、領主でも意見しずらいらしい。
そりゃ、悪い輩が蔓延る訳だ。
「お前たちの運んだ物資は、俺が買い取ってやる。全部で幾らになる?」
「全部!?」
「あぁ、全部だ。」
「こ、今回は余り借金できなくて、金貨1枚分しか持って来れなかったんです。」
「金貨1枚? それは売値か?」
「し、仕入れ値です。」
「ふぅ~。客に仕入れ値なんて言うもんじゃないよ。そんで売値は幾らになるんだ?」
「金貨3枚です。」
「そうか、金貨3枚っと。」
懐から出すふりをして、アイテムBOXから金貨を出した。
もう少し、異世界の通貨に換金しておかないとダメだな。
「それで、お前たちに頼みがある。」
「此処の物を売ってきて欲しい。」
「此処で仕入れて行くと言う事ですね?最初からそのつもりでしたので大丈夫です。ただ、金貨3枚分しか仕入れられませんが。」
長男のジャニが苦笑しながら仕入れを承諾してくれるが、
「いや、此処の物を運んで、売って欲しいんだ。仕入れて売るのではなく、代わりに売って来て欲しい。それなら、仕入れの金が無くても好きなだけ持って行けるだろ?」
「えっ?でもそれじゃ、売ったお金はどうするんですか?後、持ち逃げとか盗賊とかを考えないと?」
「街の手前までは護衛を付けてやる。それと売った金の2割を手数料として渡そう。金貨1枚で売れれば、銀貨2枚がお前たちの取り分だ。どうだ?やるか?」
「兄さんやろうよ!ギルドの奴らだって私たちの事、どうせ儲けられないって見下してたんだよ!仕入れ値が無ければ、沢山運べるんだし。ね?」
「あの、良いお話なんですが、此処から何を運べば良いんですか?聞いた話だと、果実は飛竜便で運ぶし、他には生地があると聞きましたが、最近余り、出回らないと言うか‥‥」
なるほど、持って来たものは高く売れるが、帰りは大して旨味が無くなっていたのか。
「見て貰った方が早いな。」
商人の馬車も一緒に移動する。
里に作った「牙狼商店」へ案内する。
・・・いつ、名前を付けたかって?今付けたんだよ。
トゥミ達が苦笑している。サラなんか肩を震わせているが、後でお話が必要なようだな?
「中の商品を確認してくれ。‥‥‥まず塩だな。」
「えっ?僕らも塩を運んで来たんですが?」
「あぁ、次回から塩は要らないぞ。何が必要かは、その都度相談しよう。」
店の責任者をやっている、トゥミの両親であるヴェルとケイトが出てきた。
「やぁ、真悟人!やっと来てくれたな。だいぶ商品が少なくなって困ってたんだ。」
「やぁ、ヴェルさん、ケイトさん。ご無沙汰してました。」
二人にも状況を説明して、協力してもらう事にした。
此処から人間の街まで馬車で3日ほど、生鮮食品は難しいが、芋やカボチャなどは問題無いし、塩や香辛料も大丈夫だろう。
そして、塩を見せる。
「こ!これは!こんな真っ白でサラサラの塩があるなんて!!」
「他には、こっちの胡椒だな。他にも各種香辛料と‥‥ん?どした?」
「胡椒!?胡椒ですって!!胡椒なんて、同量の金貨が・・・こんなに??」
「他にも、ほれ。こんなのもあるぞ!」
「こ、れは?これは!!これって!砂糖じゃないですか!!!それもこんな不純物の無い砂糖が!!・・・こっちのは!?黒糖!!スゴイ!!初めて見た!!」
彼らの狂乱が収まるには暫くの時間を要した。
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