第51話 商人

 エルフの里に向かう。

 嫁たちの里帰り、エルフ嫁は現在3人。

 後、2人追加予定。‥‥本当に良いのか?


 俺の目的は、交易とご両親へのご挨拶。

 トゥミのご両親には前回ご挨拶した。

 更にヴィトンがトゥミの祖父ちゃんなので、話も早かった。

 今回は、サラとシャルの親御さんだが、シャルはお母さんだけだど聞いている。

 お父さんは別の集落の人だと。‥‥別の集落在ったんですね!当たり前ですが。

 サラの両親については何も聞いていない。その話題はサラが避けるのだ。

 無理して聞かないが、行ってから考えようと行き当たりばったりな事を考えている。


 交易の方は、今回は目玉がある。

 この世界では稀少とされる海産物が大量にある。本来、塩の供給を考えましょう!だったが、飛び越えて海産物の搬入なので、反応が楽しみである。

 それに、人間の商人に法外な価格で搾取されている現状を打開したい。


 前回の訪問から1ヶ月は経ってるから、人間の商人も来ただろう。

 どんな取引だったのか、聞いて見ようと思う。



 森の中を飛ぶ!駆ける!彼らの移動速度は他の追従を許さないだろう。

 木を渡る牙猿たちと、地を駆ける魔狼たち。

 おんぶ紐が無ければ、ボスの背中からとっくに飛ばされてるんだろう。

 金〇が縮み上がる!とは、正にこの事である!


 朝出て、昼には到着!

 この世界の移動手段として、これ以上は無いだろう。

 アルファとシャマルは、あの速度で駆けているのに、普通に会話している様だったが、そう言うもんなのか?


 イメージとしては、ラリーカーでグラベル全力疾走なのに普通に会話してるような感じか?エンジン音が無いから聞こえるのか?

 ターマックは無いが、草原疾走中はそんなイメージかな?風の音だけでも凄いが、ヘルメットも被って無いし‥‥どうでも良い事を考えている。


 牙猿の背中は‥‥ジェットコースターだな。

 今の俺は、世界有数のジェットコースターでも笑って居られると思う。

 考えて見て欲しい。森の木々の間を、木を足場に飛んでいく。

 慣れて来ると、次はあの木か?と見ていても、いきなり落ちて別の木を足場に飛んで行く。予想した木には大蛇が居たりして、一瞬たりとも気が抜けない。

 よくその速度で、そんな状況判断が出来るものだと感心する。



 そんな中、ボスとアルファは突然止まった。

 互いに頷きあい、

「主、誰かが襲われている。」


「誰か?襲ってるのは分かるか?」


「多分、雑魚。」

「あぁ、雑魚だな。何やってんだ?」


 ボスとアルファは分かってる様だが、牙猿と魔狼は相手が分かって弛緩している。


「雑魚とは?分かる様に説明しろ。」


「すいません。主は見た事無いかも知れませんね。」

「そういう事か。主、襲ってるのはゴブリンです。襲われてるのは、多分人間ですね。」


「人間が襲われてるのか?じゃあ助けよう!」


「「はいっ!」」


 少し走ると、直ぐに開けた場所に出た。

 ここは、人間が広げた道か?

 その先で、馬車が横転して人間‥‥男が二人に女が一人、剣と弓で応戦している。

 ゴブリンは20匹位は居て、棍棒や粗末な武器で取り囲んでいた。

 中には、ちょっと立派な格好をしたデカいゴブリンが居て、驚愕の表情でこっちを見ていた。


「主、耳を。」


「あぁ。トゥミ、サラ、シャル、シャマル、耳を。」


 吠えた!

「グアォォォォォーーー~~~ッッ!!」


 ゴブリンたちが固まった。

 全員が驚愕の表情でガクガクと跪いた。土下座の様な格好で、デカいゴブリンを筆頭に蹲っている。


「居ね!」


 ボスの一言でゴブリンたちは、失禁の後を残して、我先に走り去った。

 残された人間は、泣きながら土下座して命乞いをしている。

 決して助かったと思っては無い様だ。


 面倒くさいから、人間はトゥミ達に任せてボス達と馬車を起こしてやった。

 馬は逃げたらしく、付いてきていた牙狼戦隊(牙猿と魔狼の戦隊コンビなので、格好良い名前を付けてやった!)が宥めて連れて来た。


 普通の馬だったが、牙猿に馬が宥められるのが衝撃だった!だって絶対怖いよ?

 普通の馬を見て和んでしまった。

 樽を出して水をやり、牛達の牧草を出したら食べてくれた。

 ユニコーンと違ってカワイイもんだ。


 そうこうしてる間に、人間たちも落ち着いてきたようだ。

 ただ、周囲に牙猿とデカい狼が居るのでアワアワしているが。


「よし、落ち着いてきたら話は出来るな?」


 三人ともコクコクと首を上下させている。


「俺は、真悟人と言う(もう面倒くさいから家名は言わない)お前たちの名は?」


「ぼ、僕は、ジャ、ジャニーです。」


「僕は、次男のフェ、フェブです。」


「私は、じ、次女でメイです。」


「何だ、兄弟なのか?」


「は、はい。兄弟で商人をやってるんです。」


 商人と聞いて、こいつらが搾取してる奴らか?思っていたら、サラが聞いている。


「貴方達、見ない顔だけど、何時から来てるの?」


「ぼ、僕たちは初めて来たんです。今まで来た人たちが突然この交易を譲ってくれると言い出して‥‥」

「エルフとの交易は、正直言ってかなり儲かるんです。だから、おかしいな?と思ったんですけど。」


 悔しそうに唇を噛む。何かあったのか?


「私たちには借金があって、返済のために上の姉さんを預かるって、それでエルフの交易で稼いで返せって言われて来たんです。」


 ムカついた。滅茶苦茶ムカついた。

 エルフが商品を買わなくなって、旨味が薄くなった。

 だから、こいつらの姉さんを借金のカタに縛って、代わりに交易させると。

 自分達は、女を手に入れて‥‥

 許せねぇ。


「それはいつの話だ?」


「ここに来る前なので、もう一週間になります。準備やら仕入れやらで、更に借金する必要もあって。‥‥」


「そうか。何を仕入れてきたんだ?」


 聞いて見ると、塩や香辛料などを中心に服や鍋や雑貨もある。

 馬車が横転したので、一部壊れているが、まだまだ十分に使えるだろう。

 値段を聞くと、言われた値段は普通の5倍以上で、余りにも酷いと感じたので、往復の輸送を考えて市価の3倍くらいです。と、おいおいそんなん正直に言っちゃうんだ?と思ったが、商売がしたいので、搾取したい訳じゃ無いと。


「俺は、嫁の里帰りの途中だ。エルフの里まで送ってやろう。」


「ま、真悟人様は人間ですよね?」


「様はやめろ。」


「あ、はい。あ、あの、周りの牙猿たちは?」


 ボスに見られて、ヒッ!と声を上げている。

 牙猿と魔狼は、俺の村の住人だ。と言うと。


「ま、魔狼‥‥お、お助け下さい‥‥‥」


 跪いて祈り出してしまった。

 アルファが気まずそうにそっぽを向いていて、ボスが嬉しそうにニヤニヤしている。

 気付いたアルファは、悔しそうにボスを睨み付けているが、ボスはメチャ楽しそうだ。

 グルグルと低く唸りながら、「覚えておれ?」と唸っている。


 見かねたシャマルが、商人に

「大丈夫です。うちのアルファは怖くないです!」

「怖いのは顔だけです!だから怖くないです!」


 それを聞いて吹き出したボスは、ワフワンと抱き合いながらプルプルと震えていた。

 魔狼達もブフッと吹き出し掛けて、そっぽを向いて震えている。


「まぁ、そう言う訳だ。敵対しなきゃ怖くないので、嫌わないでやってくれ。」


 アルファは真っ赤になって納得行かなそうだったが、顔抱えて頭をよしよしと撫でて、庇ってくれた姫の顔を立ててやれと宥めた。


「ま、真悟人様、いや、真悟人さんの村に彼らは住んでるんですか?」


「そうだな。他に牛の姐さん達やスライム先生も居るぞ。」


 商人3人は顔を見合わせて、ど、何処の村ですか?と聞かれたが、もっと奥にある、俺が作った村だ!と言ったら、この奥に村があるなんて初めて聞いたと。

 エルフの里でも命懸けなのに!とか、軍隊でも森の開拓は無理だったのに!とか言っている。どんだけの森なんだろうか?

 因みに迷宮魔女の森と言われているらしい。

 トゥミ達に聞いたら、聞いた事あるような?無いような?

 どうでも良いカンジですね。

 迷宮魔女って‥‥‥どう考えても祖母ちゃんの仕業だろう‥‥‥


 エルフの里が見えてきた。

 今回は騒ぎを起こしてる奴も無く、伝令が伝えてたらしく、ヴィトンを筆頭に整列して出迎えてくれた。

 久しぶり!と、握手を交わしている。


 当の商人たちは、普段歓待される事なんて無いので、真悟人達が出迎えられるのを唖然と見ていた。


 しかし、さすがのエルフの里でも魔狼の登場によってプチパニックになっている。

 魔狼に牙猿で、跪く者続出である。

 当初の予定の、アルファ達に乗って登場は、人間の商人の登場ですっかり忘れられていた。


 もう今さらである。


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