第37話 指輪

 家に帰って、購入品のチェックを行う。

 毎回、一番大量なのが食料品である。

 特に今回は、塩や香辛料を売りに出すつもりだ。

 小分けではなく卸の袋のまま、量り売りをしようと思う。

 塩と砂糖と胡椒は量り売り。

 砂糖はさすがにグラニュー糖じゃマズいだろう。お菓子作る訳じゃ無し。

 三温糖と黒糖を大量に仕入れた。

 黒糖ブロックはお菓子にもなるし、ご褒美にも使えるかな?

 他の香辛料は多分ほとんど売れないだろうから、小袋で置いてある。


 米や小麦粉も大量に用意した。

 粉類は自分で使うものがほとんどだが、小麦粉は異世界でもあるだろう。ただ、人間からじゃ無いと買えないようなので、売ることを考えて大量に仕入れた訳だ。


 片栗粉やもち粉、カレー粉やだしの素など、絶対に自分しか使わない。

 豆類も、食う分と植える分。大豆は来年は大々的に増やしたいと思っている。


 米麹と麦麹、味噌や醤油造りも挑戦したいが、あれやこれやで人手が足りない。

 出来たら日本酒も作りたいと夢は広がる♪


 酒も、そりゃもう大量に仕入れた。ワイン樽やウイスキーから日本酒や焼酎、ジンやウォッカ、テキーラまで!

 酒の原料も用意してみた。米にブドウに麦、サツマイモからトウモロコシやリュウゼツラン?サボテンか?

 酒用に畑を拡張する勢いである。しかし、水田もまだだし早まったかな?

 酒になる麹菌を培養するのが難しいらしい。樽に着く?ので上手く着くと酒になるという話です。上手く出来れば、人間に高額で売り捌きたいですね!いひひ♪


 種や苗は持ち込んでいる。では、動物はどうか?その辺りは祖母ちゃんに聞いて見た。


「ん~~。基本的には進めないね。家畜として飼う分だけとしても、逃げ出さないとは限らないし、外から来て交尾するのも良くある話だね。

 ミルク採るためにホルスタイン種の牛を入れても、バッファローに見つかったらどうなるか分からん。結構繊細な動物らしいからミルク出さないなんて普通にあるらしいじゃないか。環境を考えても、現地で探すんだね。」


 やはり、動物は厳しい様だ。せめてヒヨコ位は試してみるか?

 これには、祖母ちゃんも、


「ちゃんと襲われない小屋で飼ってやるんだね。日本でだってイタチやネズミに齧られたりするんだ。イタチは穴も掘るからね。良く考えて小屋を作ってやりな。」


 外敵が多いし、敵から逃げれない小屋の中だから絶対に入れない対策が必要か?ちょっと研究してみよう。


 そんなことをしてる間に、一通りの品物が納品された。

 今回の仕入れで抜けは無いか?チェックも澄まして異世界へ帰る。

 珍しく祖母ちゃんも見送ってくれる。


 じゃあ祖母ちゃん。また来るね。

 あぁ。気を付けて行っておいで。


 ‥‥‥‥‥‥覚悟ヨシ!


 ・・・・・・・・・飛べ!・・・・・・・・・・・


 酩酊感と浮遊感・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふぅ。着いたかな。」


「真悟人!」


「トゥミ!ただいま!」


「‥‥‥お帰りなさい。」


 トゥミの目元にじわっと涙が浮かぶ。

 抱き着いてきて、胸に顔を埋めている。

 ゆっくりと髪を撫でながら、しばらくそうしている。

 落ち着いてきたトゥミが顔を上げる。


「ちゃんと帰って来るって分かってるんだけど、ちょっと不安になっちゃうの。」


「うん。大丈夫だよ。ちゃんと帰って来たでしょ?」


「うん。‥‥うん。」


 また顔を埋めてしまった。


「トゥミにお土産があるんだよ」


「私に?」


「はい。これ。開けて見て」


「スゴイ!真悟人スゴイ!この箱!リボンも付いて!どうなってるの?」


 トゥミは包装された箱がお土産と思った様だ。


「開けてあげるよ。貸して?」


 大事に手渡してくれる。リボンを解くと、あっ!と残念そうな声を上げたので、大丈夫だよ。ちゃんと元に戻せるからと言えば、安心した様だ。

 包装紙を破らないように開くと、それは紙なの?こんな紙見たことない。スゴイよ!と興奮してる。紙をはがすと中から箱が出て来る。

 その箱にも、もしかして紙の箱!?こんな厚い紙なんて!それも箱になってるよ!スゴイスゴイと興奮しきりである。

 箱の蓋を開けると、中から紅色のビロードの箱が出る。

 トゥミはもう黙ってゴクリと喉を鳴らしている。


 ビロードの箱をパカっと開けると2つ並んだリングが刺さっている。

 トゥミは俺の顔を見て、これは?という顔である。


 小さいほうのリングを取り、トゥミの左手を握る。


「これはね、俺の生まれた世界での習わしで、結婚の証なんだよ。」


 トゥミの左手の薬指にゆっくりと指輪を嵌める。サイズも丁度良かった。


「リングはね、終わりのない永遠の象徴。左手の薬指は心臓に繋がっていて、互いの心に繋がるものと信じられていたんだ。永遠に互いの心が繋がっていますように!という意味で、互いの左手の薬指にお揃いのリングを付けるんだよ。そして、左手の薬指に指輪を付けてる人は、パートナーが居ますって他人から見ても分かるようになってるのさ。浮気出来ないようにね!」


「真悟人も付けるの?」


「あぁ、付けてくれるか?」


 トゥミは少し震える手で俺の薬指に指輪を嵌めてくれた。


「これで、お互いが夫婦ですって証だよ。」


「うん。‥‥ありがとう‥‥‥うん。」


 また、泣き出してしまった。ゆっくり抱き締めて、そのまま余韻に浸っていたら、


「真悟人は後4つ指輪をしなきゃいけないね。左手の薬指に入りきるかなぁ?」


「はっ?突然なにを?」


「だってサラ達もお嫁さんになるんだから、後4つは要るでしょ?入りきらなくなったらどの指に付けるの?」


「ハハッ、アハハッ‥‥‥さぁねぇ?」


 そんな事言い出すとは、思わなかった‥‥異世界の常識、甘く見てたぜ!


「この中指に付けてる指輪も誰かと結婚してる意味があるの?」


「いやいや!違うから。この指輪は違うからね!この指輪のお陰で俺はココに居るんだよ。」


「ふ~ん。魔道具なんでしょ?」


「はい?なんですと?」


「指輪のお陰で異界に飛べるなら、魔道具なのかな?って。」


「あの、トゥミさん?」


「ん?」


「このことは内密に頼むよ。」


「ん?みんな知ってるよ?分かる人は指輪が魔力持ってるの分かるし、アイテムBOXもその指輪でしょ?皆の前で普通に使ってるから隠してないと思ってた。」


「がーーーーーーーーん!‥‥知らなかった。皆知ってるのを知らなかった。」


「隠していたかったの?でも今さらだね~。」


 カワイイ声でコロコロと笑っているが、明かされた真実にショックが‥‥

 ねぇねぇと、指輪の包装紙を持ってくる。もう一度キレイに包装してリボンを掛ける。元に戻った小箱を見て大喜びのトゥミ。

 これも、貰ってイイでしょ~~?と皆の所へ駆けて行った。


 もしかして、指輪より小箱の方が喜んでないか?

 指輪を送って良かったのか?悪かったのか?

 複雑な気分で、自問自答するのであった。



 一方、トゥミは、

「ほら!これ貰っちゃった♪」


 指輪ではなく小箱を見せびらかしていた。


「スゴーイ!リボン着いてるね~!」


「これ、紙なんだよ!中に厚い紙の箱が入ってるの!」


「「へーー!、ほ~~!!」」


「紙の箱には何か入ってたの?」


「すっごいキレイな紅色の布が巻いた、パカッと開く箱が入ってた!」


 手でパカッと開くジェスチャーをするトゥミ。


「「「「ん????」」」」


「そのパカッと開く箱の中は??」


「これ!」


 左手のリングを見せる。真悟人が説明してくれたことを皆に説明すると


「「「「・・・・・・・・・・」」」」


「そっちが本命かい」


「今日ほど真悟人を不憫に思った事ないわ」


「やっぱりトゥミだった‥‥」


「真悟人、慰めに行くかな‥‥」


「なになに?その反応?」


「「「「いつも通りのトゥミで安心したよ。」」」」


「なんで~~~~???」






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