第34話 クーデターからの‥‥

 翌朝、エルフの里に向かって出発した。

 俺は、ボスの背中に、トゥミはワフワンの背中に乗って、おんぶしてもらって、おんぶ紐で繋いでもらう。

 メッッチャ速い!速い速い!木の上から間から、飛び捲りである。

 気付いたら、昼にはエルフの里の前に着いた。


「はやっ!前に歩いたのとでは比べ物になんねぇな。」


「私もこんなに早いと思わなかった。2日掛かってたのが、半日だもん。」


 トゥミと俺の二人で来た。

 ボスとワフワンに送って貰って、彼らは近くで待機してくれる。

 一緒に行こうと言ったが、間違いなく怖がられるので、一旦近くで待機してるそうだ。万が一、襲われたら、返り討ちにして構わない。ただ、一応話して見てくれと言ってある。


 トゥミはちょっと複雑そうであったが、いきなり大事にはならないと思った様だ。


 トゥミと二人、エルフの里に近づいてみると、警備の者が、槍を向けてくる。


「トゥミ様!お帰りで!‥‥この人間は?」


 トゥミは分かるようだが、いきなり感じ悪かった。


「槍を下げなさい。この方は、私の旦那様です。お前達は長老が出かげる際の話を聞いていないのか?」


「この方がトゥミ様の‥‥真悟人殿ですか?」


 なんだ。知ってるんじゃん?でも、なんか歓迎出来ないことがあるのか?

 門番達は苦い顔をして、言って良いものかと悩んでいる。その様子から何かが起こっているのは判るが‥‥


「トゥミ様、現在、ヴィトン長老は幽閉されています。」


「は?なんでっ?どういうこと?おじいちゃんは無事なの?」


「現在、この里はグッチ長老が仕切っております。トゥミ様がお帰りになり次第グッチ長老との祝言を上げるとお達しが出ています‥‥‥」


「なんということを‥‥」


「口出しして良いか?門番の方、それを教えてくれるとは、貴方は味方と思ってよいのか?」


「真悟人殿でありますか?お初にお目にかかります。私は、護衛で行った4人とは友人なんです。人間と牙猿との村は、素晴らしい所だと聞いています。そして真悟人殿も、人間でも信用できる者と聞いています。」


「そうか。ありがとう。決して期待を裏切ったりしないよ。」

「トゥミ、グッチ長老とはどんな奴だ?」


「一番若くて、最近長老になった奴だよ。人を見下す感じの嫌な奴なの。」


「そうか、まずは、ヴィトンを助け出さないとな。」


「うん‥‥真悟人。突然こんな事になってゴメンね。」


「トゥミのせいじゃないだろ。大丈夫だよ。ちゃんと助け出すさ。」


 門番の二人にお願いして、案内してもらう。

 彼らに牙猿を呼んでも良いか聞いたら、村全体がパニックになってしまうから止めてくれとお願いされた。


 グッチ長老?はトゥミを目的にクーデターを起こした様だ。

 しかし、付いて来る者はほんの少数で、多くは金を撒いて言う事に従わせたらしい。

 門番にペラペラと暴露されるクーデターってどうよ?


 トゥミと並んで、門番の後ろを歩いていると、ドンドン人が増えて来る。

 味方なのか、敵なのかは分からないが、遠巻きに野次馬が増えて来て、大勢が付いて来る。


「こんなに大勢で行ったらバレバレだよな」


 トゥミの所には、ひっきりなしに知り合い等がやって来て、心配要らないと声を掛けてくれた。

 俺のトコにも何人もがやって来て、突然こんな事にと謝罪されたり、貴方がトゥミちゃんの〜!と値踏みされたりと、とてもクーデター中とは思えない。


「この先の屋敷がヴィトン長老の館だが、その地下に閉じ込められているらしい。1階にグッチ長老が詰めている。我等が案内できるのはここまでだ。」


「ありがとう。助かったよ。」


 二人に杏子のドライフルーツを渡した。


「これは?」


「ドライフルーツ。食べてみな。」


「!!おぉ!」


 一口食べて、最高に幸せそうな顔をしていた。

 トゥミの言う通り、甘いものは貴重なんだな?そーだよ~~!!とトゥミはドヤ顔していたが、随分余裕あるな?


 屋敷の前で『剣』を出す。

 トゥミが先に行くと言って、扉を開けようとするが、押し留めて俺が行く。


『根切鋤』も呼んで扉を開ける。


『剣』!

 扉を開けた瞬間、矢が多数飛んで来たが、『剣』が全て弾き落とした。


 トゥミが叫んだが、大丈夫。

 扉の中には、7、8人のエルフの男達が居た。

 弓を構えているが、真ん中の奴は杖を構えている。

 どうやらアイツが首謀者のグッチらしい。


「グッチ!なんでこんな事をするの?」


「トゥミ様!お帰りになりましたか。貴女は其処に居る人間風情が釣り合う方じゃない。だから助け出して差し上げます。」


「一体何を言ってるの?助け出すってどう言う事?」


「貴女は人間に騙されているのです。目を覚まして戻って来て下さい。」


「前からずっと可笑しいとは思ってたけど、やっぱりオカシイ奴だったのね‥‥」


「何をおっしゃいます。今の内なら貴女は傷付けないで済む。大人しく此方へ来て下さい。」

「いいか、人間はやってしまえ。トゥミ様には傷付けるなよ。」


「‥‥トゥミ、やっちゃって良いか?」


「あ、うん。しょうがないね。でも、殺さないでね。」


「舐めた口を!‥‥やれ!」


 多数の矢と、間に火の玉?も飛んで来る。

『剣』は動かない。


「真悟人!」


 トゥミが叫ぶ!しかし、真悟人の前で全て弾かれた。


「何!結界だと!!」


「あれは!ヴィトン長老の!」


「こうなれば!覚悟しろ!」


 先程よりも、巨大な火の玉を作り出した。

 それを見た真悟人は、


「ボス!」


「ガッッシャーーンッ!!」


 叫ぶと同時に窓を突き破って何かが入って来た。


「き、牙猿!」


 優に2mは超える大きさの牙の生えた猿。

 出会ったら死を覚悟しろと言われる、森の王者の一角。

 対抗しうるは角熊くらいしか居ない。それが2頭も!

 そんな相手を真近に見られる事などあるわけ無く、全員が腰を抜かし、中には漏らす者まで居た。


「あれ?ワフワン、着替えたの?」


「移動の後だからね、ちょっと楽なカッコになったら、イキナリ戦闘モードだからねぇ!ビックリしちゃった。」


 そんな中、気の抜けた会話を交わす二人が‥‥


「き、牙猿が会話してる‥‥」


 周囲一同、呆然と会話を聞いていた。


『ロープ』!腰を抜かしてア然とする者達を縛り上げて行く。


「さてトゥミ、ヴィトンを助けに行くか。」


「あ!そうだ!おじいちゃん忘れてた!」


 おいおい、ヴィトンが聞いたら泣くぞ。

 奥に進もうとすると、


「クソッ!」


 またグッチが縛られてるくせに、火の玉を打とうとして、火の玉はボスに握り潰されて消えた。

 ボスに殺気を向けられたグッチは‥‥

 泡を吹いて失神してしまった。失禁までして。


「ボス、ありがと。ヴィトン助けて来るからココ見ててね。」


「主、了解した。」


「お~~~い!ヴィトーーーン!!何処行った~ぁ?」


「おじいちゃ~~~ん!何処----??」


「お前達!探し方を考えんかい!隠れてる訳じゃ無いんじゃぞ?」


「お!こんなトコに隠れてたな?」

「もぉ~~おじいちゃん!早く出て来てよ!」


「だから!隠れてる訳じゃ無いわい!」


 ヴィトンは地下室のような所に居た。一応、外からカギが掛かるらしいが、特にカギは掛かっていなかった。


「グッチはどうしたんじゃ?」


「ん?気絶してお漏らししてるよ。」

「トゥミ、言い方!」

「あっ!ビビッて泡拭いて失禁しちゃったの。」


「あ~~~。よう分かった。んで、お前さん達二人だけか?」


「あぁ、ボスとワンが見てるよ。」


「おぅ、そうか。(そりゃ失禁しても無理ないのう。)」


 ヴィトンが地下から上がってきて、縛られた7人を見た。

 こりゃ、気付いたら恥ずかしくて居たたまれないのう。


 エルフの里は4人の長老で仕切っている。

 結界と風のヴィトン。水のプラダ。土のヘルメス。そして、火のグッチの筈だった。

 だが、余りにも幼稚な動機でやらかしてしまったので、この者たちはどうするかの。


 さて、収拾せにゃいかん。皆を集めい!

 ヴィトンがエルフの里に号令をかけた。



 エルフの里の者を集めて、今回の事の顛末を話した。

 事態が収拾したことと、誰にも被害が無かったことで、里の者達も安心したようだ。


 エルフの里は200人くらいの集落で、そんなに大きくは無いが、獲物や採集物が豊富なために飢えはしないが、暮らしが豊かとも言いづらい。


 いきり立った若者が偶に問題を起こすが、こんな大規模?なクーデターは初めてらしい。至って平和な村なのである。


 そんな中から、女性が一人歩み出てきた。


「トゥミ!」


「お母さん!」


 どうやらトゥミのお母さんだったらしい。

 いきなり俺も緊張してきた。


「お父さん!」


 もっと緊張する相手も登場した。


 しばらく3人で何か話していたが、俺の所にやってきて、


「あなたが真悟人殿ですね。私はトゥミの父のヴェルと言います。」

「トゥミの母親のケイトです。」


「話はヴィトンとトゥミから聞いています。先ずはトゥミがお世話になった事、ありがとうございます。」


「あ、頭を上げて下さい。ご挨拶が遅れました。神田真悟人と申します。」


「カンダ?家名ですか?もしかして、貴族の方ですか?」


 周囲の者、全員が跪きそうになったので、慌てて止めた。


「私の育った国では、全ての者が家名を持っています。だから気にしないで下さい」


「なんと!そういう事ですか。」


「後、私の方からお父様、お母様にご報告があります。今回、私はトゥミを嫁に貰う事にしました。今回はそのご挨拶にと思ったのですが、突然の事態で遅れてしまいました。どうか、末永くよろしくお願いします。」


「お父さん、お母さん、私は真悟人のお嫁さんになります。今までありがとうございました。そして、今後もよろしくお願いします。」


「うむ、うん。真悟人殿、トゥミ。「「こちらこそよろしくお願いします。」」


「「「「「おおぉぉぉーーーーー!!!!!」」」」」

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 周囲から一斉の拍手と歓声が上がり、一気にお祝いムードになった!

 ヴィトンが出てきて、

「クーデターは収集した!そして、その功労者の真悟人とトゥミの結婚も決まった!皆の者、宴じゃ!宴の準備をせい!!」


 その夜は、遅くまで宴が続いた。‥‥

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