第32話 けじめ
トゥミに日本人であることと、月に一度くらい帰る事を伝えた。
ババ様に報告して、承諾を貰えれば来月にはトゥミも一緒に帰れるだろう。
仕入れのリストもボチボチと作った。
服飾関係から金属類、パイプ類もだいぶ使った。
大鍋や中華鍋も足りない。最初は個人用の調理器具しかなかったが、前回、寸胴鍋などを準備した。保存食というか、大量に作ってアイテムBOXに仕舞っておこうと思ったのだ。トコロが一気に大所帯。毎日、寸胴鍋もフル稼働である。
今回は、迎賓館の厨房のセットを準備しようと思っている。
最初に買った、あの包丁もようやく役に立つのである。(勿体なくて使ってなかった。)
後は、冬に収穫する野菜類の種や苗。
まだ植わってない、果物系の苗なども揃えてみよう。
日本と行き来するに当たって、大事なことを確認していなかった。
葛籠の等価交換である。日本で100万円入れたのをすっかり忘れていた。
「さて、金貨何枚になってるかな?」
何故かドキドキしながら小さい葛籠を開ける。
どれどれ?‥‥‥やはり金貨10枚か。金貨1枚10万円換算ですね。
勝手な予想だが、銀貨1万円、銅貨千円、鉄貨(銭貨?)100円なイメージかな?
どっちにしろ、ここでは必要ないからな。
逆に、此処で良くある物で日本で価値の在るものがあれば良いんだが‥‥
アイテムBOXを見て‥‥けじめを付けなきゃいけない事を思い出した。
いや、見ないふりをしていただけだ。
牙猿達と今後も仲間であるために、ケジメを付けよう。
ボスとボス嫁達を呼ぶ。
緊張してきた。が、言わなきゃいけない。
「牙猿遷移隊の話だ。」
ボス達にも若干の緊張が走った。
「彼らの遺体を、まだ持っている。‥‥‥‥そこで、墓を作ってやろうと思う。」
「墓?‥‥主、墓とは何でしょう。」
「は、墓とは、大事な者が亡くなった後、亡骸を納めて弔う所だ。」
「亡骸を納めて弔う所‥‥必要なんでしょうか?」
「に、人間は必要としてるな。人間には死後の世界という概念があって、墓に納めて弔う事によって、その世界で幸せに暮らすという考え方だ。」
「死後の世界?‥‥我等は考えた事はないです。例えあったとしても、アイツらは戦って死んだ。アイツらは、遷移隊の仕事は充分にこなした。だから今の俺らが在る。主に仕える事が出来たのは、アイツらのお陰です。」
「主、発言してもよろしいでしょうか?」
珍しくワフワンが意見を発言する。
「あぁ、何でも言ってみろ。」
「主、私達は食うか食われるかなんです。戦って死んだと言う事は、食われたんです。後は無いんです。」
「そう、ワンの言う通り、主、我等は墓とは何か分からない。それは亡骸を納めると言うのは、埋めると言う事ですか?」
「あぁ、埋めて土に還してやるんだ。」
「‥‥‥そ、それならば、せめて、牙と毛皮を使ってやって下さい。それを主の役に立てて下さい。」
「し、しかし、それは、」
「主、我からもお願いします。我等、牙猿の牙と毛皮は価値あるモノと聞きます。死んでなお役に立てるなら本望です。」
「しかし、それをするには、解体する必要があるぞ‥‥」
「それは、我等がやります。主、役に立てて下さい。」
「分かった。‥‥場所を作ろう。皆には見せない方が良いだろう。準備を頼む。」
資材倉庫の裏に解体小屋を継ぎ足した。
スライム先生に事の顛末を話したら、
「それで納得するなら言うとおりにしてあげなよ。彼等だって今まで考えた事無かった事を言われたんだ。今思える最善を考えたんじゃないかな?」
それも、そうか。
普通に会話が出来てるから余り考えてなかったけど、彼らが知恵を持って考え出したのは日が浅いんだ。
いきなり言われても理解が追い付かないよな。ましてや死後の世界なんて‥‥
そして解体小屋が出来た。
スライム先生にお願いして、浄化スライムにも出張してもらう。
4尺x8尺のSUS板を乗せたテーブルx2台と、 過重3t揚程3mのチェーンブロックを下げたクレーンを設置した。
枠が木なので心もとないが、帰ったら組み立て式で、H鋼で骨組みを組んだ奴をバラシて持って来ようと思った。
チェーンブロック自体、こんな早く使うとも思ってなかったが。
周りの牙猿達は、これで猪やカミソリウサギの解体が楽になると喜んでいたが、当初の目的はさすがに言えない。
周りを伺って、ボスとボス嫁とで集まった。トゥミには事情を話している。
立ち会うと言ったが、止めさせた。帰ったら慰めてくれと‥‥‥
ボス達に覚悟を聞いた。
全員、黙って頷いた。
「出すぞ。」
遷移隊(♂)、(♀)と順に出した。
全員が息を呑んだ。
一撃で顔と首を抉った死体。凄惨な亡骸だった。
日本で買ってきた、本物の解体ナイフと包丁を用意した。
水と、お湯と、塩もふんだんに用意した。
ボスが(♂)から解体を始めた。黙って嫁たちも手伝っている。
不意にワフスリから涙が零れた。
溢れ出したら止まらなかった。
誰も何も言わない。
何かを噛み締めるように‥‥‥
ワフワンからも涙が零れた。順にワフトゥからも、止めどなく溢れる涙を拭きもせず作業を進める。
ボスは、口許から血が流れる程噛み締めている。
(♂)の解体が終わった。休む間も無く(♀)の解体を始める。
ワフトゥが声を上げ出した。
泣きながら、しゃくり上げながらも作業は止めない。
嫁3人共に声を上げて泣き出した。
ボスは堪えていた。堪えていたが、涙は溢れてしまった。
作業が終わり、ボスに縋って嫁3人は泣いた。ボスも泣いていた。
毛皮と牙を残して、残った亡骸は格納した。
ボス達も次第に落ち着きを取り戻してきた。
「主、こんな気持ちは知らなかった。こんな悲しいなんて気持ちは‥‥知らなかった。」
「ボス、ワフワン、ワフトゥ、ワフスリ、‥‥ありがとう。」
「主の言った事が分かった気がするよ。」
「そうか、風呂を準備してる。後片付けは任せて、4人で入って来い。」
「主、‥‥ありがとうございます。」
ボス達4人は風呂へ行った。
残った俺は、毛皮と牙も格納して、テーブルと床をお湯で流して、浄化スライムに後をお願いした。
風呂に入り、血を流して、家に帰る。
「お帰りなさい。」
トゥミが微笑んでくれた。
その笑顔を見たら、我慢出来なかった。
無言で抱き締め、その胸で声を殺して泣いた。
彼らに辛い思いをさせた。
話さない方が良かったか?
黙って亡骸を弔う方が良かったのか?
答えは出ないが、まだ終わってない。
しかし、もう今日は考えたく無い。
いつしか、トゥミの胸で寝入ってしまったようだ。‥‥‥
トゥミ、ありがとう。
翌朝、早くにボス達が来た。
「主、昨日は醜態をお見せしました。申し訳ありません。」
「いや、辛い思いをさせて済まなかった。」
「とんでもありません。嫁達と話したんです。遷移隊は主に負けた。その事実だけで内容は知りませんでした。
昨日、亡骸を見て改めて思ったんです。主の強さを。二人とも一撃でした。苦しみを感じる間も無かったでしょう。
主のお陰で、仲間を失うのがどう言う事か知りました。悲しいと言うのがどう言う事か、知りました。
これからは今まで以上に仲間を大切にします。主、ありがとうございました。」
ボスの話でまた涙が溢れそうになった。
「主、毛皮と牙はまだ中途だから仕上げます。それと、昨日言ってたお墓。果樹園に埋めてあげても良いですか?」
「スライム先生に聞いたんだよ。埋めてあげれば、そこから木や野菜の栄養になってまた果実や野菜になって返ってくるって。」
「あの子、果物好きだったから、また果物を食べれるように、果樹園に埋めてあげたいと思ったの。」
「そうか。それじゃあ、場所探して、埋める穴は掘っておくよ。それと、皆には伝えるか?」
「主、それは我から伝えます。夕方にでも皆を集めてもよろしいでしょうか?」
「分かった。その辺は任せる。」
「「「「ありがとうございます。」」」」
その後は、毛皮と牙をワフワンに渡して、仕上げをお願いした。
俺は、皆に話して埋めるなら、棺桶の作製と墓の場所を探す事にした。
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