第31話 宣言と告白

 もうそろそろ夏の収穫時期である。

 農地を拡張するために種を残す株を決めたり、収穫しない実を決める。

 日本で株を買ってきた方が早いかと思ったが、この世界の物でもやってみよう。


 家畜はどうするか?‥‥イノシシは牙猿たちが親をやってしまった瓜坊を集めた。

 大きくして繁殖させようと思う。

 サラが嬉しそうな顔で、萌え萌えである。

 密かに名前も付けてるようで、名前はウマソウだな!と言ったら殺気に満ちた目で見られた。ジム〇ー逃げて!


 サラに今のうちに行っておく事にする。

 育てて増やす子は名前を付けて可愛がってあげて。でもね、お肉にする子も居るんだよ。そんな子に名前を付けると‥‥‥これは差別じゃなくて区別なんだよ。

 サラは、分かっていると、全部育てられないし、何のために育てるのかも分かってる。差別とか区別とかは分からないけど、育てるのには皆、愛してあげたい。

 うん。それで良いよ。ちゃんと自分の中で割り切れるならそれで良い。

 切ないような笑顔が悲しくて、思わず頭を撫でてしまった。


 トリはニワトリと似たような飛ばない鳥が居るらしい。ちゃんと卵も毎日産むんだそうだ。ただ、凶暴で卵を取るには覚悟が要るらしい。‥‥

 それでも良いか?と聞かれたので、取り敢えず集めて見ることになった。

 生態がイマイチ分からないので、ニワトリに当て嵌めて見て、ダメなら美味しく頂こう。


 問題は牛である。

 野生に居る牛ったら、水牛(バッファロー)くらいしか浮かばない。

 牙猿達に聞いてもそれらしい動物は他に居ない。

 では、ヤギや羊は居るか聞いたら、山の上‥‥所謂、山岳地帯にいるそうだ。

 牙猿達にしても中々手強い相手らしい。

 アウェーでの戦いは牙猿も苦手の様だ。

 ミルクが欲しいのだが、一考の余地ありだね。


 そうか!忘れてたが、放牧地も畑も水が必要である。

 今のうちに井戸を掘っておくか。

 と、言う訳でそれぞれ2か所位に井戸を掘って池を作っておくことにする。

 それぞれの池を水路で繋いで、魚を放せば、魚も増やせないかな?

 安易な案である。



 ちょっと照れるので、村の話で胡麻化していたが、トゥミを嫁とする事にした。

 あの日はちゃんとそれぞれの部屋に帰ったが、翌日から一緒に暮らすことにした。

 ただ、帰還する時はどうするか悩んでいる。

 帰った時にババ様にお伺いを立てようかと思っている。


 トゥミが泣き止んだ後、これからどう暮らして行くかの話をしたり、トゥミの両親にも会いに行くことを話したりしてから帰った。


 翌日、朝礼の後、牙猿戦隊を集めた。

 覗いてて怒られると思ったらしく、集まった時は戦々恐々としていた。


「なんで、集まったか分かってるな?」


「「「「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」」」」


 全員、だんまりである。


「黙って立ち去ってくれてありがとな! これは礼だ。」


「「「「「は??」」」」」


 そう言って、クッキーの小袋を一人ずつ渡した。


「お前らもこれから、そんな事があるだろうが、見て見ぬ振りしてくれると助かるもんだ。だから俺からの礼だ。トゥミには言うな。口止めの代わりでもある。」


 二ヤッと笑うと、全員二ヤッと笑った。


「その袋はちゃんと戻せよ。その辺に捨てるなよ。」


「「「「「はいっ」」」」」


 そう言えば、このクッキー、鑑定して無かった‥‥‥

 ゴクッと喉を鳴らして鑑定‥‥【俊敏+1】‥‥あちゃ~。

 この後、牙猿戦隊の速さに誰も付いて行けなくなったのは言うまでも無い。



 そして、夕方。

 トゥミがやって来た。自分の荷物を抱えて。

 不意打ちで言葉が出なかった。


 黙って家に入って行ったので慌てて後を追う。

 トゥミは畳に座って、三つ指を付いて頭を下げた。


「不束者ですが、よろしくお願いいたします。」


 慌てて俺も畳に正座をして、


「こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします。」


『異界の指輪』の声がする‥‥‥エルフ(トゥミ)に認められました。

 エルフ(トゥミ)に認められたので、新たな機能を解放!‥‥

 それは、後で確認しよう。


「トゥミ。そんなの何処で覚えてきた?」


「この挨拶?勇者様だよ。」


「はっ?・・・・・勇者?様?」


「うん。そう。エルフの里に来たことあってね。魔王?ってのが居るらしくてね、巫女様を迎えに来たの。」


「巫女?様?‥‥‥」


「そうだよ。私のお姉さんなんだけど、もう10年くらい前だね。いつ帰るか分かんないんだけどね。勇者様が来た時にラ〇オ体操とか、今の挨拶とかを教えてくれたの。お嫁さんになった最初の夜は必ずこの挨拶をするって。」


「ははっ、ははっ、アハハハハ!まったく、何教えてくれてんだよ!はははっ!」


「真悟人?どうしたの?私、何か間違ったかな?」


 トゥミをそっと抱き寄せて、


「トゥミは何も間違ってないさ。俺がちょっとおかしかったんだよ」


「??真悟人はおかしくないよ?」


「うん。ありがと。大丈夫だよ。」


 腕の中で真っ直ぐに見つめてくれるトゥミ。

 そっと髪を撫でながらキスをした。

 ビックリした顔をしたけれど、ゆっくり目を閉じてくれた。‥‥‥‥‥


 そして、夜は更ける。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 朝から風呂を沸かした。

 二人でサッパリとする。

 お互いに、ちょっと照れ笑い。

 こんな甘酸っぱい気持ち♪すっかり忘れていたよ。


 朝礼の時、

 皆の前で宣言した。


「おはようございます。」


「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」」


「今日は皆に報告があります。・・・・・」


「「「「「「「「「「?????」」」」」」」」」」


「トゥミを嫁に貰います。」


「「「「「「「「「「‥‥‥‥ウ、ウォォォォォォォォーーー」」」」」」」」」


 歓声が上がった。トゥミは真っ赤である。

 結婚式とかそんな風習はないらしい。皆の前で宣言するのが何より大事なんだそうだ。‥‥後から知ったよ。


 トゥミに認められて開放されたのは、そう回復魔法である。

 これが検証が難しい。何を回復するのか?傷か?体力か?

 トゥミに教えを乞うが、なんとも微妙なようだ。

 少々の傷は治る。多少の体力も回復する。では、本当は何を回復してるのか?


 自分で使った感覚としては、総合的に回復してる感じだな。

 心も身体も癒します!みたいな?

 付加効果として傷も治る感じがする。

 だから治すキュアでは無く、癒すヒールってイメージだな。



 トゥミと夫婦になって大事な事。俺の出自を話しておかないとな。

 いきなりトゥミを連れて行ったら、怒られ‥‥るかな?やっぱり。

 最初に一人で誰も居ないときに飛べって言ってたもんな。

 それでも、話だけはしておこう。


「トゥミ、大事な話をしておくぞ」


「??うん。」


「俺はね、この世界の人間じゃ無いんだ。」


「はい??」


「此処とは別の世界で、日本という国で生まれ育ったんだ。多分、勇者様も同じ国の出身だと思う。」


「勇者さまと‥‥」


「そして、「それじゃ、真悟人は帰っちゃうの?私残して帰っちゃうの?」トゥミ、聞いて。トゥミを一人にしないよ。約束する。だから安心して。」


 トゥミは俺の腕を掴んで、少しだけ取り乱したが、一人にはしないと約束すると落ち着いた。イキナリの話でビックリしたんだろう。

 落ち着いた所で話を続けることにする。


「いい?」


「うん。」


「勇者がどうやって来たかは知らない。帰ったらそれっきりなのか? でも俺はね、行き来できるんだよ。」


「はい?行ったり来たり?自由に?」


「そんな自由じゃないがね。1ヶ月に1回くらいだね。向こうにも同じ家がある。家の中身事飛ぶ感じだね」


「えぇ???よく分かんないよ。」


「家の周りは違うけど、家は此の侭なんだよ。そんで、向こうの家にはババ様が住んでる。」


「えっ!ババ様も日本の人なの??」


「あぁ、最初は別人と思っていたけど、あれは俺のお祖母ちゃんだな。」


「真悟人は本当にババ様の孫なんだ?すごいね!」


「こっちでのババ様の凄さは知らないんだけどな。」


「そして本題!そろそろまた日本に行く。今回はトゥミはお留守番してて欲しいんだ。あ、ちゃんと帰って来るからな」


「う、うん。‥‥」


「不満は分かるけどな。今回は一人で行ってババ様に報告する。トゥミを嫁にしたってな。」


「えへへ。なんか恥ずかしいな」


「今度はトゥミと一緒に行って良いかも聞いて見る。お許しが出たら次回は一緒に行こう。」


「うん。うん!一緒に行きたい!」


「あぁ、一緒に行こうな。」


 トゥミがゆっくり抱き着いてくる。

 髪を撫でながら、とても温かい気持ちになる。

 守ろう。大事にしよう。そんな在り来たりの事がこんなに大きな事だったなんてな。在り来たりだけど、当たり前には出来ないもんだ。忘れないようにしよう。


 そして、今夜も夜更かししてしまう‥‥クスッ♪(トゥミ)


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