第30話 結界から‥‥

 ヴィトンと護衛二人と新護衛二人の5人が帰る。

 護衛二人と新護衛二人は滞在中に、牙猿達に鍛えてもらったり、森のノウハウを教えて貰った様だ。

 授業料は金貨10枚だと言うと、本気で絶望した顔になり、冗談だと言うと徐々に血色が戻ってきた‥‥俺の言う事は全然冗談になってないのか?


 牙猿達曰く、最初はダメダメだったが、最近は少しだけ食料を採取できる様になったらしい。

 それでもカミソリウサギにタイマンでやっとらしいからまだまだ努力が必要との事だ。

 ‥‥‥カミソリウサギって、あの動きが一定のあのウサギだろ?俺でもやれるぞ?エルフさん大丈夫ですか?


 後ほど聞いた話によると、この森に入れるのはかなりの熟練者らしい。

 エルフの里辺りが境界線で、ココに来るのは命懸けだと!

 俺は、カミソリウサギと牙猿と角熊しか知らないが、他にも怖いのが沢山居るらしい。大体、牙猿や角熊なんてのは食物連鎖のトップに君臨するような魔物で、出会ったらゲームオーバーだとか‥‥それってどんだけだよ?

 ババ様、何てとこに居を構えるかなぁ。


 ヴィトン達が旅立つ前にひと悶着あった。

 ユニコーンが嫌がった。同伴に処女どころか女性も居ないんじゃ嫌だと‥‥

 仕方ないので、エルフ娘たちとピンクとイエローまで動員して慰めた。

 カッコいい所が見てみたい!と、ここから無事に往復できるユニコーンはお前しか居ない!と、一緒に居れないのは心苦しいが、その雄姿をまた見せて欲しい!と、

 皆で頑張って説得した。かなり持ち上げられてユニコーンは納得した。


 しかし、並べられた土産の野菜などを見て、またごねた。

 だが、今度は、さっき約束したのに‥‥泣き落としとか、直ぐに約束破るなんて!と糾弾したり、私との約束なんてどうでも良いのね?と攻められたりで、しぶしぶ納得した様だ。


 これが、今度来た時、皆が俺に手籠めにされてたらどんな顔するんだろうな?‥‥

 と、悪いことを考えてたら、エルフ娘たちに悪い顔してる!と俺が糾弾された!

 それを見たユニコーンはチョット溜飲が下がったようである‥‥チッ!




「それでは真悟人。世話になったの。」


「まったくだ。次はおれが世話になりに行くからな。」


「あぁ、任せて置け。」


 握手をして別れを惜しむ。出会って間もないが、互いの気心が知れた旧来の友人の様だった。


「俺が行くから、海に行こう!塩を採りに行こう。」


「あぁ、約束じゃぞ!」


 これも、互いに次の約束を交わしていた。塩を採りに行く。

 実現すれば、生活が大きく変わるはずである。


 そうして、ヴィトン達は帰って行った。

 エルフ娘たち5人を残して。



 トゥミは不安を感じていた。まだ真悟人とちゃんと話せてなかった。

 サラは期待していた。真悟人の力を垣間見ることが出来た。

 シャルは楽しみだった。妊婦さんの世話とこれから生まれる赤ちゃんたちに。

 ユナは打ち込んでいた。真悟人の力を見た。あの様に力を高めたい。

 カレンは燃えていた。真悟人の料理は知れば知るほど奥深い。(日本の料理です。)


 真悟人は悩んでいた。まだ、結界を上手く扱えなかった。

 やり方は分かるし。発動もするのだが、効果も分からないし範囲も分からない。

 ババ様の結界は家周辺で、今もかかっている。

 自分が結界を掛けられる様になって、ババ様の結界(ババ結界)の効果と範囲が分かるようになった。‥‥正直言って、とんでもない結界である。

 ババ結界が出来るようになったら、無敵じゃね? 本気でそう思う。


 そして、最近影の薄いスライム先生のトコに来ていた。

 スライム先生の日常は、村の巡回と浄化スライムたちのケア。

 真悟人の村の縁の下の力持ちである。


 スライム先生に結界が出来てるか分からない!と、訴えると、


「真悟人の結界は具体性が無いんだよ。どんなモノから、どう守りたいのか?ババ結界?(ネーミングセンスやばくね?)ぐらい具体的に掛けないとね。強さとか、範囲とか、期間とか。そんなトコをキチンと把握して掛けるといいよ!‥‥ただね、やたらと掛けると後が大変だよ、打ち消すのは相当な力が要る。良く考えた上で掛けるんだね。」


 有難い助言を頂けた。やはりスライム先生様様である。


 結界はやたらと掛けたらヤバいのか??‥‥考えてもピンとこないが、

 守るんだから良いんじゃね?‥‥‥あっ!そうか、牙猿達みたいに敵対してる時と友好状態とを見分けないとイケない訳か。‥‥ますますババ結界すげえな!



 んじゃ、実験は外ですっか!

 村の外に出て、適当な木を見つけて結界を掛けて見る。


「んー‥‥物理攻撃無効で木の幹のみ、時間は5分・・・・結界!」


『根切鋤』!木の幹を傷つけて見る・・・あれ?普通に傷付くぞ?失敗か?

 別の木でもう一回、やってみるか。


「物理無効、木全体、5分、‥‥結界!」


『造林鎌』!・・・えい!‥‥‥あれ~?全然ダメじゃん?

 結界が掛かってる感覚はあるんだけどなぁ???

 最初に結界を掛けた木の結界は消えている。ん~?ゴンゴンと殴ると普通に痛い!

 結界が掛かってる木を殴って見る‥‥‥感覚が全然違う!殴っても木の感覚が無い。

 普通に触ることは出来‥‥無い。表面にコーティングされている様だ。


 ってことはだ。『根切鋤』『造林鎌』‥‥お前たち、結界無効とか持ってる?

 あっ!何かこいつら目を逸らした感じがする!

 ったく!だったら最初から言ってくれよ!‥‥‥えへへ!ごめんね。って感じがするから怒れない。

 まぁ、殴っても触っても変わらないって事は、結界は掛かってるけど相手の心算を認識して無い訳だな。

 まぁ色々やってみようか。


 村の外なので、当然偶に動物や魔物は来る。カミソリウサギは分かりやすいが、小さいネズミのような奴が、鋭い歯で齧りにくる。

 気配が分かるので、大したことはないが、地味にめんどくさい。


 後ろから何かが近づいてきた。ネズミ?じゃないな。デカい?

 振り向きざまに『立刈鎌』で刈ってやろうと‥‥‥


「きゃっ!!」


 えっ!!!!・・・・あぶね~~~~!!!!

 トゥミだった!危うく首を刈るところだった。


「ゴ、ゴメン!まさかトゥミとは!」


 トゥミはいきなり刈られそうになって、尻もちを付いていた。


「本当にゴメンな。後ろから来る気配だけで刈ろうとした。」


「ううん。何も言わずに近づいた私が悪いの。この森の中じゃ、気配で刈られても、文句言えないわ。」


「それでも村の近くだから確認すべきだったよ。子ネズミが多くて皆狩ってたんで。」


「子ネズミって‥‥刃ネズミも十分脅威だって思われてるんだけどね。‥‥」


「そうなのか?もう20匹くらい狩ったぞ。鬱陶しくってな。」


「そう‥‥‥(普通は簡単に狩れないけど)」


「トゥミは巡回か?戦隊はどうだ?」


「あ、うん。良い子たちで素直だし、私の方が教えられてるよ。」


「そかそか、馴染めて良かった。」


「真悟人はこんなトコで何してるの?」


「あぁ、トゥミには教えておくか。結界魔法の練習だよ。」


「えっ!!結界魔法!?真悟人使えるの??」


「あぁ。使えるには使えるんだが、中々、ババ結界のようにはならなくてね。」


「?ババ結界?何?その汚そうな結界は?」


「ババ様の結界だよ。略してババ結界。」


「真悟人。‥‥あなたの一番残念な所を見た気がするわ。お願いだからそんな名前付けないで!ババ様の結界でイイじゃない。ねっ?」


「そうかぁ?良いと思ったんだけどな。」


「それで結界の練習してるの?」


「あぁ、ババ様の結界は1年しか持たないんだ。だからこの先、掛け直さなきゃいけないのさ。幸い今、結界魔法を覚えることが出来たからな。練習してババ様の結界ほどじゃ無くても、掛け直しできればと思ってるよ。」


「真悟人は色々考えてるね。‥‥」


「トゥミだって考えてるだろう?体操の時だって皆に教えてくれたりしてたし。他にも色々協力してくれてるの知ってるぞ。トゥミには最初から色々やって貰って感謝してるんだ。」


「そんな!そんなの、私の方こそ、謝らなきゃいけないし、お礼だって言って無いし‥‥」


「謝る?お礼?何のことだ?」


「だって、だって真悟人は私を守ってくれたし、リンゴだってくれたのに‥‥私は真悟人を殺そうとしてたんだよ?なのに許してくれてリンゴだってくれて‥‥‥その後ちゃんと話せなくて、謝りたかったしお礼も言いたかったの。でもでも、なんか話せなくて‥‥‥ゥェ~~ン。。。」


 トゥミは泣き出してしまった。なんか思い詰めてたみたいで、放置してた俺が悪いのかもな。そう思ったら、そっと抱き締めてしまっていた。

 抱き締めたまま、


「トゥミ、聞いて。最初の出会いの時は、確かに互いの行き違いはあったさ。でもね、トゥミは全力で俺を守ってくれたんだ。仲間割れしてもね。本当に嬉しかったんだ。トゥミを傷付けないで済んで良かったと思う。牙猿達からトゥミを守ったのは成り行きかも知れない。だけど、これからも俺はトゥミを守るよ。結界魔法も使えるようになる。トゥミを守るためにね。」


 トゥミは胸の中でコクコクと頷きながら泣いている。背中に回された手が愛おしく感じる。‥‥‥思っていたら気配を感じた。


 こっそり『剣』を呼んで『剣』!追っ払え‥‥牙猿戦隊が遠巻きに覗いていた。

 向かってくる『剣』を見て、声を上げずに散って行った。‥‥後でご褒美でもやるか。


 トゥミが泣き止むのを待って、もう一度声を掛けた。


「トゥミ。大丈夫か?」


「うん。ごめんなさい。ちょっと、嬉しかったの。」


 胸の内にジワッと温かい物が込み上げて来る。


「未来の嫁さんが泣いてると心配だからな。」


 トゥミは赤くなった目を見開いて、


「お嫁さんに、してくれるの?‥‥」


「あぁ。俺の嫁さんになってくれるか?」


「うん。うん!うん。お嫁さんになる。」


 また、俺の胸の中で泣きだしたトゥミを、しっかり抱き締めた。‥‥‥



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