第29話 『道具』の実力

 エルフ達が来て、少しづつ村らしくなってきた。

 農地や放牧地の開墾も順調である。

 久しぶりに『道具』達の出番で彼ら?も張り切っているようだ。


「『鍬』!こっから耕して行くから頼むぞ!」


 南の草原を開墾するのに、ユナが土魔法でやっていたが、広すぎて流石にキツイらしい。

 そんな無理して一気にやることないのに。

 最初は周囲の一角(20mx20m)位から始めれば良いと言うと、


「先に言ってよ~~!」


 と、崩れ落ちていた。

 で、ユナには休んでてもらって、俺が鍬で耕してみることにした。

 牙猿達には、低い木の伐採や石や切り株の撤去をお願いした。

『鋸』や『三本鍬』、『根切鋤』を貸して見たが、俺が使うような訳には行かなかった。


「やっぱ、違うんだな。」


「何が違うの?」


「いや、ここから耕すぞ。土とか掛かるから離れててな。」


 そう言って胡麻化して、鍬を振るう。


「ドドゥゥゥゥゥゥゥーーーーッン!!」


 鍬ではない音がして耕せた。‥‥‥それも一振りで20mx20m・・・・

 なんだ?これは?

 唖然として振り返ったら、ユナや牙猿達も口を開けてポカ~ンと見ていた。

 ユナが最初に再起動。


「チョット待って!ねぇ!それ何よ?魔法?なんなの?それは?」


「んあ? ん~~~、特技?」


「はぁ?特技って何? 魔法とは違うの?ねぇねェ‥‥」


 説明も出来ないので、テキトーに胡麻化しつつ、『鍬』の柄をさすりながら、

 アリガトな。この調子で頼む!とお礼を言っておいた。

 結局、100mx100mくらいを耕したが、さすがに疲れた。

『鍬』を25回振るっただけだが、それでもユナの倍は耕してる。


「私の存在意義が‥‥‥」


 と、言って彼女は落ち込んでしまった。

 体育座りしてる横に座って、スポーツドリンクを出す。


「これでも飲んでみ。」


「何それ?」


「元気の出るおまじない。」


「‥‥‥‥‥‥コクッ‥‥!!ゴクッゴクッゴクッ!」


 ちょっと口を付けたユナはビックリした顔して、その後は一気に飲んだ。


「ふぅ~~~~~。おかわりある?」


「ごめん。今はもうおしまいだ。」


「なぁ~んだ、元気でないよ。」


「美味かったか?」


「うん。すっっごく美味しかった。また欲しい。」


「おぅ。また準備しておくよ。」


「真悟人って不思議な人だね?やっぱりババ様のお孫さんだからかな?」


「どうだろ~なぁ?俺自身は普通の人間と思ってるけど?」


「普通の人間なら、そんな力持ってたらもっと偉そうになるし、他の街に侵略してもおかしく無いと思うよ。」


「ハハッ侵略とかは嫌だな。攻めて来られたら守るのに戦うけど、俺から攻めたりは無いよ。」


「へぇー。攻めて自分の物にすれば、女もお金も思うままじゃない?」


「金は稼がなきゃ!と思うけど、女はお前たちが嫁になってくれるんだろ?」


「えっ!あ、あぁ、うん。そ、そうだね。」


「なんだ?動揺しまくりじゃねぇか。‥‥まぁ、そんな事、無理強いしたりしないし嫌なら断れば良いだけだよ。心配すんな!」


「し、心配なんて‥‥」


 立ち上がり、頭をちょっと撫ぜて立ち去った。

 やはり、皆、嫁さんになると思って来ても、現実はキビシイってとこだろうな。

 別に寂しくなんてないもんね!‥‥‥はぁ~。




 少し休んで、復活してからサラの所に来た。


「よぉ、サラ。順調か。」


「あ。真悟人。良い所に!さっき向こうで歓声が上がったけど、何かあったのか聞きたかったの。」


 え。さっき俺が鍬で開墾するのを見てた牙猿達が、最初は呆気に取られてたのに、段々と歓声を上げだしたのだ。 それを聞いていたのだろう。


「ん?まぁ大したこと無いよ。俺が開墾するのを応援してくれただけだ。」


 嘘は言っていない。


「そうなの?それでこちらも手伝いに来てくれたの?」


「そんな所だ。こちらも開墾するなら役に立てるかな?と思ったのだが?」


 こちらは基本的に開墾はしないらしい。

 大きな木は残して木陰を作るし、中途半端な岩を撤去したり、低木を伐採する位だそうだ。後は様子を見ながら邪魔者は撤去して草刈りをする。

 そして牧草を育てなければいけない。


「じゃぁ、草刈りしようか?」


「えぇ。お願いするわ。」


「草なんかが飛び散るかも知れないから離れててな。」


「はい。分かりました。」


 皆が後ろに下がってくれたのを確認して『造林鎌』を取り出す。


「す、すごい鎌。‥‥」


 サラの呟きが聞こえたが、気にせず『造林鎌』にお願いをする。頼むな!

『造林鎌』を一振り!


「ズザザザザァァァァァーーーーー!!」


 在り得ない音がして草が刈れた。やはり20mx20m。


 そっと後ろを振り返ると、サラを筆頭に全員大きく口を開けてた。

 美人のこんな顔、中々見られないよね。と関係ないことを考えながら場所を移動しようとしたら、


「スッッッゴォーーーーイ!!!」


 サラが叫んだ。素直な賞賛にチョット照れながらも、その気になって作業を進める事にする。サラにして見りゃ、チョロい奴!って感じかもな。‥‥

 ん~、俺って歪んでるかな?


 雑念に囚われながらも、順調に作業は進み、開墾と同じように100mx100mは刈ったと思う。

 後、細かい所は『立ち刈り鎌』で草を刈って行く。


 低木の根の除去で牙猿達が苦労してたので、『根切鋤』を登場させた。

 よし、頼むぞ!っと低木の根元に『根切鋤』を突き立てる。


「ズワッッッッシュッ!!」


 低木の根が丸ごと起こされた。

 口を開けて目を丸くする牙猿達、離れた所でそれを見てフリーズする者達。

 見なかったことにして作業を進める。


『三本鍬』や『レーキ』で慣らして、『フォーク』、『ガーデンクリーナー(熊手)』などを出して雑草や低木の根を集めて行く。

 開墾してる畑の脇に積み上げて、たい肥にしようと思う。


『鎌』や『根切鋤』の一振りの度にやはり歓声が上がり、ギャラリーが集まってしまった。

 ボスまで一緒に歓声上げて、何やってるんですか?


「はい。おしまいおしまい。散った散った!」


 ギャラリーを解散させて、家に戻る。


 すると、ヴィトンが待っていた。

 最近、ちゃんと話をしてない気がする。飯の時に今日の出来事の報告がてら話をする感じである。それが、改まって待ってたって事は真面目な話があるんだろう。


「ヴィトン、どうした?待ってるなんて酒が切れたか?」


「違うわ!酒ばっかりじゃ無いわい!]


「はははっ!悪いな。つい、酒に走るもんかと。で、真面目にどうしたんだ?」


「そろそろお暇しようかと思っての。」


「ん?帰っちゃうのか?ゆっくりして行けば良いのに?」


「それで、話が在っての。」


「まぁ、立ち話もなんだから‥‥‥」


 ヴィトンを家の中に入れて、手と顔を洗い、湯飲みと日本酒と沢庵を出した。


 互いの湯飲みに日本酒(冷酒)を注ぎ、乾杯をする。

 磁器の湯飲みで乾杯をすると、カン!とか、コン!って音がする。

 一口飲んで沢庵をポリポリ食う。これが最高である。


 ヴィトンは初沢庵だし、漬物は匂いもキツイ。

 俺が食うのを見て、恐る恐る手を出した。

 小さいのをポリポリと食って、湯飲みの日本酒をグイっと飲む。


「はぁ~~~♪これ美味いのぅ。」


「だろ?漬物って奴だ。野菜の保存食だな。」


「なんと!これはもしかして‥‥‥?」


「あぁ。察しの通り大根だよ。‥‥それも去年の。」


「それはなんとも!そんなに持つもんなのか?」


「いや、普通は持たないよ。冬の間、寒いうちに食い切った方が良いだろうな。これは古漬けと言って、ちょっと難しいんだ。(市販品は保存料入り真空パックである。)」


「さすが、色んな知恵を持ってるのぅ。」


「俺が居た国の知識だよ。簡単な奴なら塩があればできるぞ。」


「それは、ご教授願いたいの。‥‥話が逸れてもうた。」


「気付いたか、チッ。」


「お主、性格悪いのう‥‥」


「今に始まった事じゃねぇよ。」


「それもそうじゃの。」


 二人で大笑いしながらも話を戻す。


「帰るのもそうなんじゃが、お礼も言っておこうと思っての。」


「礼?俺なんもしてないぞ?」


「いやいや、儂らエルフを受け入れてくれて、衣食住と仕事まで与えてくれたんじゃ。娘たちは、エルフの里の先行きに不安を持ってる。それが此処に来て生活の全てが上がってる。先々は嫁になって子供も増えるじゃろう。」


「いや、嫁ってのはチョット無理っぽいぞ?」


「何を言って居る。娘たちは素直じゃないからの。照れてるだけじゃ。」


 まぁ、ここで何か言っても始まらないし、その事は置いておこう。

 なるようになるだろ。


「真悟人のお陰で、エルフの里も落ち着いてくるじゃろう。何もしてないと言うが、その存在は大きいのじゃよ。‥‥だから、言わせてくれ。」

「真悟人、ありがとう。」


 そう言ってヴィトンは頭を下げた。


 すると、『異界の指輪』の声がする‥‥‥エルフの長老(ヴィトン)に認められました。エルフの長老(ヴィトン)に認められたので、新たな機能を解放!‥‥


 結界魔法を覚えました。・・・

 おぉ!ついに結界魔法だ! しかし、ここで喜んで聞く訳にも行くまい。

 練習して、次に会ったときに聞くことにした方が良いかな?


「ヴィトン。お礼を言うのは俺も一緒だよ。だから今後とも頼むな。」


「あぁ、儂に出来る事なら任せて置け。」


 次の朝にはヴィトン達は帰ることになった。




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