第27話 お握り

 さて、宴も酣どころか、死屍累々である。

 元々、牙猿達は野生の魔物で酒を飲む事に慣れていない。

 だから飲み方も分からないし、飲み過ぎたらどうなるなんて考えない。


 結果‥‥ただの屍である。


 牙猿(♀)達はさほどでもない。

 やはり男女の行動の差は人間と変わりないようだな。


 中にはちゃんと例外も居る。


「ほら、ワフスリーしっかりしろ!ワフワンこれ、持ってってね。」


 モノ扱いである。


 エルフ達もグダグダになっている。


「トゥミ!皆んなを部屋に連れて行ってくれ!場所はあの新しい建物だ。取り敢えず好きな部屋を使って良いぞ。」


 なんと!トゥミが一番しっかりしていた。

 ビックリである!


 一通り片付けた後、そこかしこで呻き声が聞こえる‥‥不気味である。



 風呂でサッパリとした後、裏で涼んでいたら、トゥミが来た。


「あ!居た居た。お風呂お先にありがとう。」


「おぅ、俺も今出たトコだよ。‥‥何か飲むか?」


「うん。ありがとう。前に、元気の出るおまじないって飲まさせてくれたの飲みたいな。」


「おぅ、アレか!ちょっと待ってな」


 スポーツドリンクである。

 牙猿が襲来した時に、取り乱してたトゥミを落ち着かせるために飲ませたのを覚えていたようだ。


「ほれ。」


「ありがとう。‥‥コレ本当に美味しいね。」


「あぁ、気に入ってくれて何よりだ。」


「ねぇ、真悟人はババ様の孫なんだよね?」


「あぁ、そうだな。」


「‥‥‥人間じゃ無いの?」


「ぶふっっ!」


「もぅ〜汚いなぁ。」


 思わず吹き出してしまった。

 コイツ今何つった?


「ケホケホ‥吹き出すような事言うからだろ?」


「だってさ、最初来た時に追い返した牙猿達が、次来たら配下にしてるなんてあり得ないし、更に今回は服まで着ちゃって!それもカワイイし!全部、真悟人が教えたんでしょ?」


 俺の片袖を掴んで、上目遣いに見上げて来る。‥‥なんだ?このあざと可愛い生き物は?エルフか。この可愛さなら、後10年若ければコロッと騙されるな。


「なぁ、トゥミ。俺は一応、人間だぞ。それに、牙猿を配下にしたのは偶々だし、服やリボンは前に居た国で知ってただけで、俺が考えたモンじゃ無いぞ。」


「それでも、凄いよ。凄すぎて、私じゃ釣り合わない‥」


「ん?」


「ううん、な、何でもないよ。‥も、もう寝ないとね。真悟人、おやすみ!」


 トゥミは走って行った。


「‥‥‥‥‥‥人間じゃ無い‥‥か。」


 そんな事言われても・・・である。

 勝手の知らない異世界で、精いっぱい生き延びようとした結果、人間じゃ無くなってしまった。

 そんな訳無いのだが、正直、ちょっとショックだった。


「どうしろってんだよ‥‥」


 どうしようもないのである。

 この世界での人並みなんて知らない。

 ましてや、交流を持ったのがエルフと牙猿だけで、この世界の人間なんて見たことも無い。『道具』達が協力してくれるから生き延びたのであって、元々は戦いどころか喧嘩もした事の無い一般人なのである。


 この事は彼の中にしこりを残した。

 前の世界でも馴染めていない自覚はあった。それをここでも繰り返すのか?


 そんなことをトゥミは知る由もない。



 そして、夜が明けた。

 ‥‥‥屍たちは、起きて来られるのは僅かだった。


「はぁ~‥‥こりゃ朝礼になんねぇな。‥‥ボス?」


「は、はい‥‥」


 頑張って起きましたってのは分かるが、やはりグダグダであった。


「今日はみんな休んでおけ。今日だけだからな!」


「は、はい。すいま‥‥うっ‥‥」


 ダダダダッっと走って行って‥‥‥草むらで盛大にえずいていた。


「こりゃ、イカンな。」


 ヴィトンがやって来たが、青白い顔をしている。


「真悟人殿。‥‥‥」


「あ~~。なんもしゃべらないで良いぞ! 今日はみんな休養日だ!」


「すまんの‥‥‥」


 これで皆、酒の怖さが分かってくれれば良いが、分かってても止められないのが酒である。

 まぁ、二度と飲み放題にはしないがね。心の中でそう誓った。


 こんな時は、汁物でも作るかぁ!

 寸胴鍋を出してきて、お湯を沸かす。

 何を作るか悩んだが、前と一緒だけど、簡単に豚汁を作ることにした。

 肉を大量に入れて灰汁を取る。にんじん、大根、牛蒡、キノコ、わざわざ大量に仕入れてきたコンニャク‥‥今回はコンニャク入ってます!煮崩れてしまうサトイモとネギは最後に。


 出汁は、だしの素でごまかしている。肉や野菜からも出汁は出るが、だしの素を入れるのと入れないのとでは全然違うと思う。

 味噌を溶く頃にはいい匂いがしてきて、起きだして来る者も増えてきた。


 起きた奴には、顔を洗ってこいと追い返す。


 豚汁が出来た後は、火をトロ火にしておいて飯を炊く。

 この頃には、ワフワンとワフトゥも起きてきていて、頻りに謝っていた。


「主、申し訳ありません。‥‥‥」


「おう!」


 飯が炊けたら、お握りを作る。塩握りである。

 炊き立ての飯で作るお握りは、最高に美味いが‥‥作る方は地獄である。

 何と言っても、熱い!!!めっちゃ熱い!!!

 いきなりは握れないので、お椀を濡らして一個分の飯を入れ、コロコロと丸める。

 少し冷めてから、濡らした手に塩をまぶして握るのである。


 ワフスリは死んでいるが、ジーワン達も来たので、大量のお椀を並べて濡らす。

 そこへ1個分の飯を入れて行く。後は、順に握る、握る、握る、握る、握る・・・。

 最初にやってみせて、彼女たちにも握らせる。‥‥が!その前に手をチェック!

 よ~~~く洗って、爪を切らせる。最初は分からなかったみたいだが、この機会に公衆衛生の概念を・・・って小難しい事じゃ無く、食べ物触るには清潔にしましょうって話だ!

 お握りはそのまま食うので、火を通す訳じゃ無い。

 だから清潔に!と口うるさく言った。

 デカいニッパとデカいヤスリ(細目)を置いておいて、各人で爪を切らせる。

 そして手を洗って見せに来る。

 合格の奴が握る。熱い試練だが、皆やりたがった。

 ドンドン飯を炊いて、ドンドン握る。

 デカいトレーに並べて行くが、歪なお握りが段々形を整えられていく。

 だから、三角形にしたり、俵型にすると皆悩む。

 するとそれぞれ独創的な形に走り出す。四角や五角、円錐などもいた。

 お握りが粗方出来上がると、ほぼ全員が集まった。


 ご飯を丸めるのに使ったお椀に豚汁を注ぐ。

 全員の前に並べてから、


 ボスから、「おはようございます!」


「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」


「おはよう。ちょっとは酒に懲りたか?馬鹿ども。‥‥‥」


 辺りを見渡すと、全員がシュンとしている。


「今回は大目に見てやる。次はゆるさね~ぞ!‥‥‥わかったか!?」


「「「「「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」」」


「じゃあ飯にしよう。いただきます!」


「「「「「「「「「「イタダキマス!!」」」」」」」」」」


 豚汁と塩握り。

 二日酔いには精いっぱいだろう。


「美味い!」「主!これ美味い!」「あ~~~~沁みる~~」


 やはり豚汁は、なかなか好評のようである。


 ヴィトン達も、「これは!♪」「酒も美味かったがやっぱこの汁が沁みるなぁ!」「こんな美味しい物が食べれるなんて!」「すげー美味いな!」


 喜んでくれて良かった。

 ただ、トゥミだけは浮かない顔をしていた。

 いつもなら声を掛けるところだが、見て見ぬ振りをした。


 なんとなく気まずいと言うか、昨夜の心のしこりが残っていた。


 トゥミは、真悟人の方をチラッとみるが、声は掛けられない。

 やはり、昨夜はやってしまった!と思っている。

 謝って、お礼を言って、出来たら仲良く話したかったのに‥‥‥

 今朝はちゃんと早起きしたのに、昨夜のことで真悟人に近づけなかった。


 本当は、お握りも一緒にやりたかった。

 真悟人とチラッと目が合っても何も言ってくれなかった。

 どうしようもなくて落ち込んでいるのが現状である。


 トゥミが落ち込んでる。何となく分かるが声を掛けられ無い。どうしたもんかと考えていたら、声を掛けられた。


「真悟人さん!ご馳走さまでした♪とっても美味しかったです。」


「ん?あぁ、口に合って何よりだ。」


「すいません。お手伝いしなくて。昨日のワインも美味しくて、酔っ払っちゃって起きれませんでした。」


 えへへ♪と笑っている。

 こう素直に言われると可愛いもんだな。と思う。エルフのイメージはもう少しお高いイメージだったのだが、こんなキレイな娘が素直な笑顔を浮かべていると、勘違いしてしまいそうだ。


「朝は何も出来なかったので、後片付けはやりますね。」


 そう言うと、手際良くお椀を重ねて流しに運んで行った。

 それを見た他のエルフの娘達も後片付けに参加して行った。


「皆んなイイ娘達じゃ無いか。」


 それを見たトゥミも慌てて流し場に行くが、もう場所も無い。自分の要領の悪さに、益々落ち込んでいた‥‥‥

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