第23話 帰還2
エルフは帰った。
牙猿達の要望は聞いた。
彼らには、少しの間居なくなるが心配するなと伝えた。家にも近づくなと。
居ない間の留守を頼む。時期に収穫も始まるので、それまでには帰って来る。
ボス嫁たちにリンゴを渡して、誰か怪我したら使うように頼んだ。
牙猿戦隊の5人には、周囲の警戒を命じておいた。
今度決めポーズでも教えてやろうか?‥‥いやいや黒歴史は作るまい。
それぞれの色の戦闘服とか?‥‥収拾がつかなくなりそうな事は止めよう。
スライム先生は、いつも通り風呂場の横に作ったスライム縁台でぽよぽよしている。彼はすっかり落ち着いていて、周囲の者たちの疑問に答える先生として崇められている。スライム先生に出かけて来ると言ったら、気を付けてと言われただけだった。ちょっと寂しいのは気のせいである。
しかし、ほんの少し居なくなるだけなのに心配が尽きない。
限が無いので、サッサと行って、サッサと帰ってこよう。
では、一旦帰って、仕入れて来るかぁ!
‥‥‥‥‥‥覚悟ヨシ!
・・・・・・・・・飛べ!・・・・・・・・・・・
変わらぬ酩酊感と浮遊感・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
着いた?帰ってきた?
「あぁ、帰って来たかい!そろそろかと思ってたよ。」
「ババ様、ただいま!」
「‥‥‥‥‥‥なんで、お前さんがババ様呼びなんだい?」
俺は、向こうであった出来事を話した。
帰ってイキナリ牙猿の遷移隊に襲われて返り討ちにした事。
エルフのトゥミがリンゴを盗りに‥‥採りに来た事。
牙猿本隊の襲撃を押し返した事。そして彼らは仲間になった事。
様々な設備を作って生活を向上させている事。
エルフの長老ヴィトンが来て、友好関係を結んだこと。
そんなあらましを説明していった。
「あぁ、そうかい。トゥミは元気だったか!それにしても寝首を欠かれなくて良かったじゃないか!。それに牙猿達に認められたのも大きいね!お前さんは思った以上に良くやってるね。」
「いやいや、行き当たりばったりで、思いつくままやってるだけさ!」
「ふっ。そんなことは100も承知さね。この短期間で、それだけやってれば大したもんさ。」
いい歳してなんだと思うが、褒められるとやはり嬉しい♪
これまでの人生で褒められたことは無かった。それだけ、のんべんだらりと生きて来た証拠かもしれないが。
ババ様に、良くやってる証拠は外にあると言われて、家から出てきた。
「おぉー?なんだ?これは?」
バーベキューサイトがあった。
公衆トイレも完備している。
更にシャワー設備まで!
「これは?‥‥俺が作った設備?」
「そうさね。お前さんが向こうで頑張れば、ここも充実していく。そうやってここは発展して行くんだ。」
「そう‥か。そうか!俺のやってることは自己満足じゃないんだな!?」
「お前さんのやってることは、ちゃんと皆の笑顔に繋がってるんだ。自己満足じゃない。些細な事でも見返りはある。逆に、お前さんの行動が正しく無いと、自分本位だと、それはそれで自分に帰って来る。川を汚せば水は飲めなくなる。山を崩せば洪水が起きる。そうやって人の行いは人に帰って来るもんさね。よく覚えておくんだね!」
「おばあちゃん。これ。」
小さい、幼稚園くらいの女の子がスーパーのビニール袋に何か持って来た。
「お母さんが、これおばあちゃんにって!」
「おやおや、まぁジャガイモがたくさんだねぇ~。お母さんにお礼を言っといておくれ。いつもありがとうね」
「うん!おばあちゃんが喜んでくれると”あかり”も嬉しいの♪」
「そうかい。あかりちゃんはお使い出来て偉いからこれを上げるよ。ちゃんとお母さんに見せて、食べて良いか聞くんだよ。」
婆さんはそう言って、あかりちゃんにキャラメルを渡した。
「うん!おばあちゃんありがとう!」
あかりちゃんはお母さんの所に駆けて行った。
向こうでは、お母さんとお父さんらしき人がこちらに会釈をしていた。
慌てて自分も頭を下げる。婆さんはにこやかに手を振っている。
「あっキャラメル!って思ってるね?キャラメルには知恵と友好の力があるのさ!」
「えっ!そうだったのか!?」
「嘘だけどね。‥‥」
「‥‥‥‥おい!」
「あっひゃっひゃ!お前さんが牙猿にキャラメルを上げたのは偶然かも知れないが、こちらの食物を持ち込むと、何か不思議な力を示す時がある。やたらとこちらの食物は与えないほうが無難だね。」
「そうか、気を付けるよ。‥‥それは鑑定とかで分かるもんなのか?」
「さぁねぇ~。何でも鑑定はしておくもんさ。お宝があるかも知れないよう?」
「それって?何かのTVか?‥‥まったく。」
「あっひゃっひゃ!お前さんはこっちに仕入れに来たんだろう?ぼやぼやしてて良いのかい?」
「そうだった!色々回ってからまた戻って来るヨ。婆さんはずっと居るのか?」
「さぁねぇ。これでも忙しい身だからね。居なかったら勝手にしてお行き。」
「‥‥‥‥相変わらず冷てぇな。」
「何、甘えた事言ってんだい?さぁさぁ行った!行った!」
「分かった分かった。行ってくるよ。‥‥行ってきます。」
「あぁ、行ってらっしゃい!」
車に乗ってエンジンを掛ける。行ってきますなんて何年ぶりに言ったかな?
結婚当初に、行ってきますと言うのが気恥ずかしくて、何となく嬉しくて‥‥ん?婆さん相手に何、感傷に耽ってんだ?イカンイカン!
前回はパイプや家の外構用品を中心に揃えたが、今回は‥‥やはり服飾関係だろうなぁ。トゥミ達の服も見繕って見るか。
後は、ソーラー充電式のセンサーライトを風呂やトイレに付けたい。あとは何だっけなぁ~‥‥思いつく限りの物を準備しておこう。
先ずはメインの服や布。服は古着を中心に集める。サイズは問わない。しかし牙猿達が着るのを考えると巨大なサイズじゃ無いと着れないだろう。
布は安い布から何でも集めた。こんな柄?誰が何に使うんだよ?
ただ、柄物は他に無いので単色の物を数多く!なるべく多くの色を。
余りに大量に買うので、福祉団体か何かの支援用かと思ったようで、割引やおまけを大量に付けてくれた。仕方ないから、それっぽい名前で領収書を切って貰った。
『渡海社会福祉事業団』‥‥渡海と書いてトゥミと読む。
渡る世界を、渡る海に見立てて見た。のは、言い訳である。
他に名前が浮かばなかった‥‥まぁバレることは無いであろう!勝手に名前を使った言い訳が付かないし、ちょっと恥ずかしい。
他に同じ名前が無いことを祈る!‥‥ネットの検索ではOKのようだが?
今後は日本ではこの名称で買い物をしよう。と思ったが、福祉事業団は公共法人なので勝手に設立するのは罪になりそうだし、やたらと名乗ってはいけない様だ。
と言う訳で、『渡海社会支援法人』にしておこう。
メチャメチャ怪しい感じがする上、絶対ヤバいことをやってそうである。
まともな社会支援を行っている会社から怒られそうであるが、異世界での社会支援?を行う。と、言っても信じて貰えないだろうが、本当である。
自分の周りから幸せになって貰って、俺も幸せになりたい。
俺の手の届く範囲は幸せにしたい!と壮大な目標を掲げて見る!
一応、法人設立の条件や手続きの方法なども調べたら、約20万円くらいの費用で出来る様だ。現在は婆さんの金で、好きに買い放題して、ここの土地の税金などもそこから落ちるであろう。しかし、金は無尽蔵ではない。使えばなくなるのである。
日本の土地を維持して、異世界で幸せになるだけの収入が必要となる。
法人設立しても、事業を行わなければ収益はない。ましてや俺は異世界に行きっぱなしである。この辺の方法は、婆さんに相談してみよう‥‥‥
心配してたのが、簡単に解決した。
「なんだ?お前さんには葛籠の説明をしてなかったかね?」
「は?あの舌き〇雀の大きい葛籠と小さい葛籠か?」
「舌〇り雀じゃないがね。あれには、ここと向こうで等価交換の力がある。基本的には大きい葛籠も小さい葛籠も使い方は一緒だ。‥‥素材や材料を入れて何が欲しいか願って見な。大抵は金だろうがね。葛籠に入るものしか交換出来ないよ。」
「マジか‥‥日本で素材を入れたら異世界で金になると?逆も然り?婆さんすげぇな!」
「あたしがスゴイんじゃないよ。葛籠の力さね。」
「今ここで(日本で)異世界の素材入れたら日本の金になるのか?」
「何入れるつもりだい?」
「角熊を狩って、そのまま持ってるんだ。それを入れたら‥‥」
「葛籠に入るのかい?」
「あっ‥‥‥」
「それにどうやって出すんだい?」
「えっ?アイテムBOXが‥‥‥使えない‥‥」
「そりゃそうさ。日本で魔法なんか使ったら大騒ぎになっちまうよ!こちらで(日本で)入れられるのは日本の物。取り出すのは向こうで(異世界で)だよ。」
「そうか、向こうでまだ金を使う事がないけど、有っても困らないだろう。‥‥‥‥100万位入れといて見るか。」
「それとお前さん、こっちで起業なんてしても無駄だからね!」
「えっ?なんでだ?」
「バカだねこの子は!、収支報告、どうやって出すのさ?」
あぁ~~~~!自分の浅はかさに崩れ落ちた。
『渡海社会支援法人』は夢と消えた。
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