第19話 この世界の事情

 牙猿戦隊がトゥミたちを迎えに行った。

 レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク‥‥‥なんで知ってるんだ?

 異世界の謎は深いと思った。


 彼らは子供だった‥‥が!いきなり大人になった!いや、賢くなったと言うべきか。

 言動が大人以上に大人になった。

 原因は分かっている。俺が渡したキャラメルだ。

 こんな事になるとは、まっったく予想もしていなかった!

 突然の変化に、当然周りの大人たちは困惑する。


 一番賢いのはボスだった。

 必然的に俺に相談に来る。

 俺は知っていた。スライムがいきなり賢くなったから。

 そう、臨床実験済だったのだ!しかし、勘違いしないでくれ。

 最初に食ったのは‥‥あげたのは、あの戦隊の5人組。

 その後にスライムで発覚したのだ。

 だから悪気は無いんだ!でも、言えなかった。


 現実逃避をした俺は、牙猿(ボス)にも食わせた。

 同じように賢くなった。

 賢くはなったが、斜め上の忠誠心も一緒だった。

 そして全員に神の食(キャラメル)の下賜を願い出る。‥‥‥そして、

 そう、戦国時代の大名に仕える家臣のように、

 滅私奉公を良しとする、戦国の軍団になってしまった!‥‥‥

 だが、しかし、後悔はしていない。‥‥‥


 牙猿戦隊が迎えに行って、一刻とちょっと、まぁ1時間足らずだね。

 トゥミ達が見えてきた。先頭に馬の手綱を引いたトゥミ。

 馬の上には老人?中年?後方には従者らしき二人の男。

 エルフって‥‥本当にイケメンばかりじゃん!

 それと、あの馬?馬なのか?‥‥馬に角はないよねぇ?

 あれって、ユニコーンだよな。それって馬?なのか。

 色々と疑問は尽きないが、エルフご一行様は目の前までやってきた。


 ひらりと馬上から老人?が飛び降りると、


「真悟人殿、お初にお目に掛かります。エルフの村、一の長老ヴィトンと申します。今回、我が孫のトゥミが大変お世話になりました。また、行き違いにより真悟人殿に危害を加えようとしたことも聞き及んでおります。

 私の方から、事の経緯の説明と、行いの謝罪をと考え、参上いたしました。

 先ずは、お詫びの品として、エルフの村の特産品の布をお持ちしました。

 どうか、お収め下さい。」


「そうですか。‥‥‥レッド!」


「はい。真悟人様。」


 レッドは従者の二人から反物?(シルクかな?)受け取り、後ろへ下がる。

 ボスはずっと俺の後ろに控えている。

 従者二人がボスを見て、喉を鳴らしている。

 まぁ気持ちは分かる。


「ヴィトン殿。トゥミは、私が害されようとする時、庇ってくれました。ほんの少しの時しか一緒に居なかった私を、仲間割れをしても庇ってくれたのです。私は、本当に嬉しかった。改めてお礼を言いたい。」

「トゥミ。ありがとう。君に助けられた。本当にありがとう。」


 トゥミはいきなり話を振られて固まっている。

 更に、礼を言われたもんだから、なかなか理解できず、分かるにつれてドンドン顔が赤くなっていく。自分が何を言われたのか‥‥後ほど悶える事になる。


「そう言う訳でヴィトン殿、先ほどの布は、これからの友好の証として受け取りましょう。ありがとうございます。」


 そう言って、頭を下げる。

 長老のヴィトン達は、真悟人の腰の低さにビックリしながらも安堵していた。


「‥‥さて、固い話はここまでにして、宴の用意をしてあります。どうぞ存分に召し上がって下さい。」


「真悟人殿。こちらこそありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」


「さぁ。どうぞこちらへ!」


 バーベキューサイトである。そんな大層な準備など出来ないが、食材だけはふんだんに揃えてある。酒だけはどうしようも無いので、日本から持ってきた日本酒を少しだけ出すつもりだ。


「真悟人が、真悟人がぁ~‥‥あじがとうってぇ~‥‥」


 トゥミは‥‥号泣している!涙と鼻水でぐちょぐちょである。

 ボス嫁1にタオルを渡して、対応をお願いした。


 従者二人は牙猿に囲まれてきょどっている。

 まぁ、当然と言えば当然か。


 長老のヴィトン殿。見た目は40代?何故長老?もしかして俺より若いかも?

 しかし、トゥミは孫だと言うし、18の時の子供が18で子供を産んでも36。

 トゥミは16だとしても52だ!それでもあの容姿‥‥‥解せぬ。

 実はもっと高齢かも?となるとトゥミは?‥‥実年齢は聞かないでおこう。

 取り敢えず、酒でも飲もう!


「ヴィトン殿は、酒は嗜めますかな?」


「おぉ!酒ですか!実はめっぽう好きなのですが、高級品故なかなか機会がありませぬ!」


「私の地元から持って来た酒なのですが、遠い地なので、少量しかありませんが、試して見てください。」


 ヴィトン殿にこの地の酒事情を伺う。

 どうやら酒蔵がある訳ではなく、各村で細々と作っている様だ。

 それじゃ、中々思うようには飲めないな。

 米や麦が作れるようになったら、ここでも酒を造りたいと思う。

 当面の目標にしておこう。

 日本酒の評判は非常に良かった!ヴィトン殿は絶賛していた。

 また、焼肉に関しては、従者二人がわき目も降らずにむしゃぶりついていた。

 メチャクチャ美味いらしい!こんな美味い肉は食ったこと無いと、目を潤ませながら訴えてきたが、男の涙目なんて誰得ですか?そんな趣味はない。

 トゥミは散々肉を食った後、ドライフルーツを与えたら、これもひたすらモチョモチョと食っていた。どんだけ食うんだよ。


 この世界の事情も色々と聞いた。

 この山間はどこの国にも属していないらしい。

 かなり山深い場所で、一番近い人間の街でも、馬で三日はかかるらしい。

 しかしリンゴなどが入荷したのを知らせると、

 飛竜便というのが一日足らずでやって来る。

 しかも入荷連絡は魔道具で、決められたコードを入れると直ぐ分かるそうだ。

 やってきた飛竜便に出荷するリンゴや布を乗せて、一緒に欲しい物資を書いた布の束を渡すと、一週間後くらい後に物資と、物資の金額を差し引いた金がやって来るそうだ。

 他には男たちが出荷品(毛皮や干し肉など)を背負って街に売りに行く。

 微々たる物資でも有ると無いでは大違いだと‥‥なかなか世知辛い世の中だ。


 近隣の村の有無は、一応あるらしいが交流は無いそうだ。

 獣人もドワーフも魔人もドラゴンも、存在はするが、そうそう会うことは無いと、それこそ人間国の王都にでも行けば会えるかも知れない。

 距離的に近くの人間の街から馬車で1ヶ月とか掛かる距離だと‥‥‥

 イメージ的に400~600㎞くらいかな?

 東京から盛岡とか、東京から四国とか行けちゃうカンジ?

 そのうち地図を入手したいね。


 宴が終わって、風呂に案内した。

 浄化槽なんて立派な物じゃ無いが、地面に穴掘ってタレ流しなので、

 シャンプーや石鹸はオーガニック?と言うの?エコな奴を準備した。

 薪のバランス釜で泥船に穴を2つ開けてパイプで繋いだ。

 泥船の中もちゃんと防水コーティングしたのでばっちりである!


 最初はトゥミから入って貰ったが、石鹸も初!シャンプーも初!

 当然、湯船も初だそうだ!


 案内と湯加減調整はボス嫁2にお願いした。

 牙猿たちのお風呂トライ!のお話は、今度また語ろう。


 トゥミのお風呂トライは外から聞いてても大騒ぎでだった!

 石鹸でキャー!シャンプーでキャーキャー♪湯船に入ってア~~~~‥‥♪

 ‥‥好評のうちトゥミのお風呂トライは終了!

 風呂はメチャメチャ気に入ったそうだ。‥‥‥そりゃ良かった!

 ヴィトン殿と従者二人のお風呂トライは‥‥‥男はどうでも良いか。

 ヴィトン殿は村に風呂が作れないか、真剣に考えている様だ。


 夜は家に泊まって貰った。寝袋を四っ用意したが、トゥミとヴィトン殿だけ使用で、従者二人は順番に寝ずの番をするらしい。

 ここが信用できないと言ってる訳では無く、そういうものなんだそうだ。


 お客様なんて想定して無かったし、まだ自分の生活で一杯一杯なので、

 これから色々充実させて行きたい。


 その夜に、リンゴの木の下で丸太に座って、一杯やりながら月を見ていた。

 相変わらず赤い月だ。

 そこに、ヴィトン殿がやってきた。

 今日の礼などを畏まって言ってたが、そんなことは良いから、

 一緒に一杯やろうと、コップを持って来た。


「乾杯!」


「そう言えば、宴の時も思ったが、その乾杯とはなんじゃ?」


「乾杯か?これは俺の国の古くからの儀礼で、互いに杯を合わせて互いの杯の中身を注ぎあう。そして、互いに杯を乾かすってね。」


「互いに合わせて、互いに注ぎあい、互いに乾かすか。」


「そう、互いの中身を交換する事で、中に毒は入ってないですよ!ってね。そして互いに飲み干せば、どう?大丈夫でしょ?って事だ。」


「ほぅ~~~。なんと興味深い!」


「まだ、戦が絶えなかった頃からの風習だよ。互いに裏は無いですよってね。まぁ今は酒の席の挨拶になってるがね。」


「真悟人殿の話は興味深いのぅ!」


「まぁ、もう敬称は付けないで良いよ。真悟人でイイ。俺もヴィトンと呼ぶよ。」


「そうか。儂もその方が気楽で良い。真悟人、よろしく頼む。」


「あぁ。ヴィトン、よろしく頼むよ。」


「ところで、真悟人は嫁は娶らんのか?‥‥」


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