第18話 真悟人の家へ
真悟人の元へ行く日がやってきた。
別に嫁ぐ訳ではないが、トゥミは落ち着かなかった。
「あ~~、会ったら先ずなんて言おう。真悟人~~!!って胸に飛び込むとか?」
「あ~~、トゥミ。面白い顔してるトコ悪いがの、そろそろ出発したいんじゃが?」
「は?お、お、おじいちゃん!?何時からそこに?」
「何時からって、みんな準備して、後はお前待ちなんじゃがの?」
「あ、あ、あー、はい!直ぐに準備します。」
「ふぅ~~‥‥‥大丈夫かの?」
「では、長老。お気を付けて行ってらっしゃいませ。」
「うむ。留守は頼んだぞ。」
「はっ。お任せください。」
「それじゃ、行ってきま~~~す!」
静かにトゥミと長老たち4人は出発した。
長老は馬に乗り、他3人は歩きである。
行程は2日間。途中野営をして、翌日の昼過ぎには到着するだろう。
最大の懸念は、牙猿である。
トゥミの話では、牙猿(ボス)と真悟人が話をして、牙猿たちが引いたと言うが、どうにも信じられない。
そもそも牙猿なんて、こんな山の麓まで降りて来る魔物では無い。それが降りてきていると言う事は、まだ周囲に潜伏しているかも知れない。
真悟人の元からは引いたが、どっちに向かったなど分からない。万が一、自分達の方向に来ていたら‥‥‥
遭遇するような事があれば、奥の手で凌ぐしかない。それもどこまで通用するか分からないのである。
「長老‥‥‥静かですね?」
「うむ、最大限の警戒をしておけ。」
普段はもっとカミソリウサギなどが出てきても良い筈である。しかし、襲ってくる魔物は何も現れなかった。そして、そのまま野営地に到着した。
その野営地は、前回トゥミと真悟人が別れた場所である。周囲を念入りに確認するが、何かの痕跡は見つからない。一行は何事も無く野営に入るのだが、それが何より不気味であった。
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真悟人たちの方では‥‥‥割と楽しくやっていた。
最初、牙猿(ボス)達は、普段あまり姿を見せなかった。
毎日の朝礼の後は、各自散開して狩りなどをしていたようである。
偶に真悟人が全員召集を掛けて、食事などを振舞ってみた。いちばん人気は焼肉である。ただし、肉を準備するのは牙猿(ボス)達である。真悟人はそれを薄切りにして、塩コショウで焼いたものと、焼肉のタレに漬け込んでから焼いたものを出してみた!これが大好評で、喜びの余り、涙を流しながら食べていた!
副作用としては、もう生肉なんて食えない!!と、言い出す奴らが出てきてから、肉を焼いて欲しいと毎日家の前に並び始めた。
これはまずいと思い、最初は火の使い方を教えた。ただ、やたらと焚火でもされたらアッという間に山火事が広がるだろう。火傷する奴も続出して、火の怖さを知ったようだ。‥‥‥火傷は痛いからね!‥‥‥火傷が酷い場合はリンゴを切って与えれば治る。
すると今度は、リンゴ欲しさにわざと火傷やケガをする奴が出てきたので、リンゴの前に消毒液を掛ける!!大抵は絶叫しながら走り去るのだが、中には必死に耐える強者も居る。一応リンゴは与えるが、二度目は無いことを懇々と諭す。30分もすると心が折れるようで、2度としないと誓ってくれる。
牙猿たちには、物理より精神攻撃が効くようだ。
閑話休題
だから、バーベキューサイトを作った。火はココでだけ使うように!ココから持ち出さないように!これが守られなかったら、全員焼き肉は食わせない!!として連帯責任の概念を押し付けた。
焼き場は、石で竈を作り、その上に網と鉄板を半々に並べる。そんな竈を5台設置して、木で作った椅子(丸太切っただけ)と、丸太スライスで作ったテーブルを置けば、立派なバーベキューサイトである。
もちろん井戸からの水道も引いて、洗い場も設置した。
使い終わった網や鉄板は必ず洗う事!
燃え残った木や炭は、専用のツボに入れる事!
種火が消えたら、真悟人かボスに報告して火を点けてもらう。(ボスにはライターの在処と使用法を教えた。‥‥最初は腰を抜かしてビビってたので面白かった!)
様々な約束を朝礼の際に唱和させた。(笑)
バーベキューサイトを設置してから、周囲に絶えず牙猿が居るようになった。
大人から子供までテーブルで談笑している様だ。‥‥類人猿の進化を垣間見ているようだな。
バーベキューと言えば、焼くのは肉だけではない。野菜や魚、様々な物を採って来ては焼いている。
焼くと味が変わる。塩コショウなどを振ると、更に美味しくなる♪
木の実を焼いて、爆発させて、その場の全員が腰を抜かしたので、腹が痛くなるほど笑った。しかし、危険なので今後は木の実はそのまま焼かないように!
キノコが美味かったと流行りだして、やたらとキノコを焼きだした。食った途端に痺れて倒れる奴が出た!今後、キノコ類は絶対に!必ず!俺に見せるように!!万が一は命の危険もあり得るからな!
初めて焼く物は、基本的に見せに来い!
また一つ約束事が増えた。
そんな頃にボスが来た。
「真悟人様。‥‥」
「ボスか、どうした?」
「エルフが向かっています。」
「エルフ?‥‥何人だ?」
「馬に乗った老人が一人と、従者らしい戦士二名と‥‥女が一人。」
「ふ~~ん。長老とトゥミが交渉に来たってカンジかな?‥‥‥いつ頃付きそうだ?」
「明日の昼頃には到着すると思われます。」
「分かった。直接、接触はしないように。敵対したら困るからね。後、肉を準備してくれ。明日は盛大にバーベキューをしよう。」
「はっ。了解しました。」
「さ~~て、エルフさん、敵対しないと良いねぇ‥‥‥」
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長老とトゥミ一行は、何事も無く朝を迎えた。
「夜の警備ご苦労。何も無かったか?」
「はい。魔物どころか動物すら現れませんでした。」
「ふ~~む、守られてるのか、誘き寄せられてるのか‥‥‥今日の昼には分かるか。」
「おじいちゃん。‥‥」
「トゥミ。長老と呼びなさい。」
「あっごめんなさい。‥‥長老。」
「なんじゃ?」
「もう、私たちが来てるの分かってると思うの。」
「そうじゃろうな。」
「だから、私が先行して様子を見に‥‥」
「ならん!今の不自然な状態が、真悟人殿のお陰ではなく、牙猿の、または何かの罠だったら何とする?慎重に往かんと後悔する事になるぞ?分かったな?」
「‥‥‥はい。分かりました。」
「よし、では出発しようかの。」
途中の行程にも何の問題も無く、後、もう少しというところまで来た。
「ふ~、後、一刻もすれば、見えてくるかの?‥‥‥なんじゃ?随分と旨そうな匂いがするのう?肉でも焼いてる匂いかの?」
「はい。近づいてる証ではないかと思います。」
「こんな匂いを漂わせては、魔物を呼び寄せるようなもんだがのぅ‥‥‥」
「ちょ、ちょ、長老!!・・・あ、あちらに、き、牙猿です!!」
「なんと!!3,4,5頭も居るか!・・・・各自、攻撃されるまでは手出ししては、イカンぞ!」
「お、おじいちゃん!わ、私が前で‥ 「ならん!ジッとしておれ!」」
「最悪の時は、わしの結界で、皆が逃げ切るまで持つかじゃが‥‥‥」
少しづつ牙猿たちは近づいてくる。見た感じ、まだ子供のようだ。
子供と言っても侮れない。子供1頭でも戦士3人じゃ荷が重い。それが5頭も居るのである。敵対した途端に殺されるだろう。‥‥‥誰かの息を呑む音がした。‥‥‥緊張が限界に達しようとした時。
「エルフのご一行様とお見受けします。」
「わが主、真悟人様の使いにより、お迎えに上がりました。」
「「「「はっ???」」」」
「しゃ、しゃべった!!」
「な、なんと!?」
「真悟人様のお使い!?!?」
「お、お迎え??」
「「「「??どういうこと??」」」」
「我等、牙猿は、ボスを始めとして真悟人様にお仕えさせていただいております。」
「主の命により、途中の安全は確保させていただきました。」
「敵対の恐れもあると言う事で、到着までは姿を現すなと厳命されていましたが、」
「ここまで来ればと、お迎えに上がった次第です。」
「真悟人は、真悟人は元気なのね!?」
「はい、ご到着をお待ちになっております。」
「ほぅ~~~~~。そうか、真悟人殿のご厚意であったか。‥‥‥それは、それはお手数をお掛けしました。 それでは、ご案内、お願いできますかな。」
「はい。どうぞこちらに。」
牙猿達は周りを囲むように先導してくれる。
敵対する感じは無いが、なんとも落ち着かない。
牙猿が喋ることも、人間に仕えるなんてことも、考えたことも無かった。
落ち着かぬまま、進んでいくうちに家が見えてきた。
屋根が光っている不思議な家だった。
そして・・・真悟人の家に無事に到着した、トゥミと長老一行。・・・・・
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