第14話 長い夜

 俺とトゥミの長い夜‥‥‥


 毛布を纏って太い木の根元で丸くなる。‥‥‥眠れる訳が無い。

 出かける事になってからトゥミの態度が固くなった。

 あぁ、そう言うことかと何も言わずに出発した。

 一日、特に何もなく山の中を歩いている。

 道がある訳じゃないが、道なき道をって訳でもない。

 本当にトゥミの村に向かっているのかは分からない。

 そんな状況での野営‥‥何もない方が可笑しいと思う。


 少し、微睡んで居たら、何か、言い争いをする声が聞こえる。


「お?イカン!本当に寝てたか?‥‥‥ん?言い争ってる?」



「トゥミ!お前は今さら何を言ってるんだ?」


「だから!!そんな事は出来ない!!」


「何故だ!あんな怪しい奴は野放しに出来ない!」


「そうだ!アイテムBOXなんて不思議なスキルと、単体で牙猿を退ける戦闘力は絶対に我らの脅威になる」


「必ず敵対する訳じゃ無いじゃない!、実際私は守って貰って無事で生きてるのよ!村にリンゴも運んでくれるって言ってるのに、どうしてここで襲うのよ!あんた達なんて軽く返り討ちに決まってる!あんた達のどっちかが一人で牙猿と戦えるの?‥‥あの牙猿が一撃なのよ!」


「うっ‥だ、だから寝込んでる隙に襲えば‥‥」


「じゃあ、リンゴはどうするのよ?アイテムBOXに入ってて、殺したらそのまま無くなっちゃうかも知れないでしょ?」


「縛り上げて、リンゴを出させてから殺せば‥‥‥」


「誰が気付かれずに縛るのよ?あの自由に動く『剣』も居るのよ?多分、もう私も怪しいって疑われてる!だったら村まで行って、ちゃんと話をすれば許してくれるかも知れない。私は真悟人と敵対出来ない!!」


「‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥」


「襲うなら、あんた達が勝手に襲えば良い!その時は私も全力で抵抗させてもらうわ!」


「くっ‥‥‥勝手にしろ!」


「トゥミ‥‥‥後悔すんなよ!」


「それはこっちの話よ!ちゃんと許してもらってもリンゴ上げないからね!」


「「クソッ‥」」




「よぉ‥‥楽しそうな話してんなぁ‥‥‥」


「「「っっっ!!!」」」


「よし、そっちの二人は動くな。」


『剣』が二人の喉元に向かって浮いている。

 いつの間にか『ロープ』が二人の足元に巻き付く。


「真悟人‥‥‥」


「トゥミ。お前が敵対しないのは分かったよ。‥‥‥ありがとな。」


 トゥミは頭をフルフルと振って、


「違うの。本当は襲って全部奪おうと思ってたの。だから私も彼らと一緒なの。真悟人を‥‥‥真悟人を殺そうと思ってたの。」


「そうか。分かった。」


 トゥミは俯き、跪いて震えている。

 仲間の二人は、悔しそうな表情で見ている。


「今でも俺を殺そうと思うか?」


「えっ?」


「まだ殺そうと思うか?どうなんだ?」


 トゥミは再びフルフルと頭を振って、


「今は敵対しようとは思わない。これは本当。真悟人は私を守ってくれたし、リンゴも食べさせて貰った。恩義は感じても、敵対心は持ってない。」


「そうか、それなら構わない。」


 トゥミの籠にリンゴをイッパイに入れて、


「これを持って村に帰れ。リンゴが欲しいなら、正当な対価を持って俺の所へ来い。」


「えっ?だって、私は‥‥‥」


『剣』、『ロープ』‥‥‥行くぞ!

 さっさと彼らの目に留まらないように、その場を離れた。

 夜の暗闇ではよく見えない。『ロープ』に助けて貰って、木の上に逃げた。


「はぁ‥‥‥まぁこんなもんだよなぁ。・・・・・殺し合いに成らなかっただけ良かったよぉ!」


 今夜は木の上でやり過ごして、明日、明るくなったら家に帰ろう。

 リンゴを一つ出して、シャクシャクと食べながら心を落ち着けた。



 ==================



 明るくなってきた。

 昨夜の場所に彼らは居なかった。


「そりゃそうか。居たらビックリだし!」


 ふっと笑いながら、帰路に就いた。

『根切鋤』を持って、障害物を退けながら進む。途中でカミソリウサギが襲ってくることもあったが、『根切鋤』の一振りで退けられた。『剣』がちょっと不満そうなのが面白かった!


 無事に家に帰りつき、まずはトイレと風呂を作ろうと思った!

 トイレは、場所を決めて穴を掘る。場所は、車が置いてある横にした。とにかく穴を掘る!ひたすら掘る!『鍬』で掘って土を格納する。掘って掘って‥‥‥『ロープ』の助けが無ければ穴から出られなかった。


『ロープ』は自由に動く訳ではない。『ロープ』を持って、どう動かすかのイメージをを持って動かすと、イメージ通りに動いてくれる。

 この『ロープ』ならカウボーイのように投げ縄も出来ると思う。


 掘った穴の上に木を渡して、丸太を組んだ便座を置く。周りには丸太をスライスした板で囲う。3方向を囲んで、1方向だけは開けておく。家に向けた側を開けておいた。屋根は、壁との隙間を大きく取って明かりが入るように、雨が入らないように。後は使って行くうちに改善しよう!


『道具』達が居て、本当に助かった!

『斧』を持てば、木の向きや切る方向、どの辺を切るかを教えてくれる。

『鋸』を持てば、切り方押さえ方、丸太スライスの方法を教えてくれる。

『金槌』を持てば、釘を打つ位置や本数、使う釘の長さや太さも教えてくれる。

 こんな事をしたいと、お願いすればどの道具を使うのか教えてくれる。

 究極のDIYの神様たちである!

 ただ、道具はあるが、材料が無い。材料が無ければ、どんな優れた道具も宝の持ち腐れである。

 更に、仕事としてやるには、段取り八分に仕上げ二分?残念ながら、行き当たりばったりでやってるのが実情である。


 しかし、必要は発明の母?、必要に迫られれば何とかしようと思う。トイレの次に必要なのは、風呂だ!ちゃんと湯船に浸かりたい!

 勢い込んで作ろうと思ったが、風呂桶ってどうやって作る?木で桶を作る?金属は材料がありません。そうすると石で囲んで水が漏れないように土で埋める?それって、泥船の中に入る?‥‥‥更にお湯を沸かす必要がある!って事はお湯を沸かせるお釜が必要!火を熾してその上でお湯を沸かす。金属は無い。‥‥‥うーーん。現実的には泥船作って石焼風呂かな。


 先ずは、石を集めるところから!‥在って良かった♪アイテムBOX♪

 南に1時間も歩くと川がある。

 よく考えたらこないだのトゥミの件で、西の森の奥に行った以外はここから離れたことが無い。

 水汲みと周辺の木の伐採だけで、一人での遠出?は、初である!

 折角、川に行くんだから釣りの準備と他に採集出来たら良いなと思い、『鎌』、『鉈』、『植木挟み』などにお願いしておく。必要な時呼ぶからね!後は、『剣』を格納、手持ちは『根切鋤』である。


 南に向かうと、しばらく草原である。西は森が続いていたが、南の草原を抜けると山間に竹林が続く。竹林だけで30分近く歩く。抜ければ川はもうすぐである。


 順調に川に向かって歩く。途中で、キノコやタケノコも採りつつ‥‥‥タケノコ掘りには時期が早いみたいで少ないが、植物鑑定のおかげで楽に見つけることが出来た。キノコは、食用より毒キノコが多いみたいだが、これも時期的なもんだろう。竹林の他に、赤松の林やエノキやシイの木、ブナを始めとするトチノキ、シナノキ、カエデなどの落葉樹林も有って、シメジや椎茸も期待できるかも♪カエデも有ったから、メープルシロップにチャレンジも良いな! 植物鑑定、様様である!


 そんな寄り道をしつつ、川に付きました!


 先ずは当初の目的通り、石の格納。

 片手サイズから両手サイズを中心に、両腕サイズからベンチサイズや全身サイズ、更には車サイズも格納してみたが問題無かった。‥‥‥どんだけ入るんでしょうか?

 調子に乗って、家サイズに挑戦!ドキドキしながら左手を向け‥‥


「格納!」


「おぉーーー!!入っちゃったぞ??」


 更に調子に乗って、家サイズを何個も格納。‥‥‥これって、もしかして制限無しなのかな?

 ちょっと怖くなって、これ以上は止めておいた。段々河原が荒野になってきた!それでも大事なことはちゃんと挑戦!


「川の水を格納。」


 その間、川は干上がった状態になり、魚が跳ねる!魚を拾いに左手を下ろすと川は復帰。左手を川に向けて念じている間は魚を拾えた。‥‥水をどんだけ格納したのか確認すると、90立方m?ん?立法m?‥‥‥って事は?、9万リットル?=90t?合ってる?‥‥‥まぁ、スゴイ量を格納したんだなぁ~‥‥ハハハッ!


 飲み水から、お風呂用水まで、十分に確保できた気がする。‥‥‥!

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