第12話 冷静に

「『剣』!」


 最初に『剣』を呼ぶ!

『造林鎌』は収納しておいて、『根切鋤』を右手に持つ。


「『剣』!『根切鋤』!『造林鎌』!戦いだ!」


 その声を聴いた牙猿(ボス)は、手を上げて部下達に指示を出す!


「ドッゴォーォン!ドッドッゴォーォン!ゴォーォン!ドッゴォードッゴォーォン!ォン!」


 廻りの牙猿達が一気に襲い掛かって来る!謎結界で弾かれる爆発音が半端ない!

 襲い掛かってくる牙猿の隙間から、牙猿(ボス)に『根切鋤』を投げる。

 回転しながら飛んでくる『根切鋤』に牙猿(ボス)は目を見開きながらも腕を振って弾く!

 弾かれた瞬間に手許に戻った『根切鋤』を再び、牙猿(ボス)に投げつける!その後、直ぐに『造林鎌』に持ち替えて、周りの牙猿に叩き付ける!数頭の牙猿が倒れる!


 牙猿(ボス)が手を上げて部下を止める。‥‥‥よく見ると、牙猿(ボス)の喉元に『剣』が突き付けられていた。更に、投げた『根切鋤』が傷付けたのだろう‥‥‥脇腹から血が流れている。


「何者だ?人間?‥‥‥我等を止めるか?」


 しゃ!しゃべった!!マジか!!‥‥‥魔物って、しゃべるのか!?

 思いっきり動揺したが、一生懸命に冷静に!冷静に!冷静!冷静に!!!!


「何故、俺らを襲う?言われなく襲ってくれば、返り討ちにするのみ!」


 強気に強気に!決して弱気は見せてはいけない!

 目を逸らすな!声を震わすな!何より、気持ちで負けるな!


「我等の仲間をやったのは其方だろう!仲間に仇名す者は、我らに仇名す者!!」


「何を戯言を!最初に俺らの畑を荒らし、俺を襲い、俺らを食らおうとしたのは其方からだろう!俺らを襲ってくる以上、抵抗するのは必至!互いに一兵卒になろうとも、この場を守るためには絶対に引かん!」


「‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥」


「‥‥‥よかろう、この場は引いてやる。‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥」


 互いに、目の内を読み合って、牙猿(ボス)は引いていった‥‥‥

 斃れた仲間は持って行った‥‥‥『造林鎌』が狩ったのは3頭。

 一瞬にして3頭狩られて、自分も手傷を負わされた。さすがに分が悪いと計算したか?

 ただ、今回は殺していない。『剣』『根切鋤』『造林鎌』には、殺すな!と言っていた。『造林鎌』を振るうのも峰打ちにしておいた。殺したら引けなくなる。流石に皆殺しは目覚めが悪い。


 黙って家に入る。扉を閉めたとたんに膝から崩れ落ちた。


「こ、こ、怖かった~~(泣!泣!)」


 ガクガクブルブルである。


 そんな俺に、トゥミが勘違いをして抱き着いてきた!


「真悟人!!大丈夫!?大丈夫なの!?」


 涙目で抱き着いているトゥミに、サムズアップしながら、


「あぁ、大丈夫!ちゃんと帰って貰ったよ。」


 トゥミはきょとんとした顔をしながら、


「は?何?帰って貰ったって?話合いでもしたみたいに‥‥‥」


「ん?話し合ったぞ?ちゃんと話して引いて貰ったんだ。」


「は?何言って‥‥‥まさか?マジ?」


「あぁ、マジだ。ちゃんと部下を思いやれる牙猿(ボス)だったぞ!」


「いやいやいや!そんな馬鹿な?牙猿(ボス)と話し合えるなんて在り得ないでしょ。」


 ん??トゥミの態度が余りにもアレなんで、もしかしたら‥‥‥?


「もしかして、牙猿(ボス)と話せる奴は居ないってことか?!」


「そりゃそーーだよ!相手は魔物だよ??魔物と話せるなんて聞いたこと??‥‥‥まさか本当に話せるの?ホントに?」


 あぁ、こりゃやっちゃったな。ここまで話してしまった以上、話せるって事で良いだろ。


「あぁ、ちゃんと話して、奴らは引いていったんだ。次に襲ってきたら、次こそ皆殺しだな!」


「本当なんだ。‥‥‥真悟人?貴方は何者なの?」


「ん?しがないサラリーマンのオッサンだが?」


「サラリーマンって何?‥‥‥あぁ!もう!真悟人が何者でも良いわ!貴方が私を守ってくれた!そういう事よね!」


 あっ!こいつ、思考を放棄しやがった!‥‥‥まぁ、イイか。オッサンがこんな可愛い女の子に抱き着いて貰えるなんて、こんなハッピー♪中々無いよな!



 何時までもハッピーに浸っている訳にも行かない。

 トゥミの村にリンゴを届けて、これから畑の収穫物をどうするのか、話し合わなきゃいけない。

 婆さんの分を搾取されてる訳には行かないのだ!


「良し!トゥミ!リンゴを量ろう。村に持って行くんだろ?」


「あっ!そ、そ、うね‥‥量らないと分からないよね‥‥」


 こいつ、絶対忘れてたな?まぁイイか。

 籠を置いて、一杯分づつ、搬出と格納を繰り返す。

 結果、6杯分あった。


「トゥミ、村に持って帰った最高は何杯だ?‥‥‥」


「ん~~‥‥正直言って、2杯分持てない。今まで皆が持って帰ったのも、そんなもんだと思う。」


「そうか。ってことは、村に1杯、売りに1杯、残りはババ様って言っても、一人じゃ運べないだろう?」


「そう言われればそうね!どうしてたんだろ?」


「トゥミ?畑の世話は何人でやってたんだ?」


「世話?畑の世話は2、3人ね。ババ様が何時のまにかタネを蒔いてくれるから、雑草を抜くのと、偶に水撒き!後は育ちの悪い野菜を間引いたりくらいで、そんな大変じゃないわ。」


「肥料とかは撒かないのか?」


「肥料って?ババ様は何かやってたみたいだけど、私たちは何もしてないよ?」


「そうか。どの位の間隔で畑の世話をしてたんだ?」


「暑い時は7日に1回くらいだね。寒いときは、14日に1回くらい。暑い時は草が伸びるの早いからね!」


「そうか。ババ様の畑の仕事が無くなったら困るか?


「へ? 困りはしないけど、ババ様の作物が貰えないのは困るなぁ~~。」


「そかそか!だいたい分かったよ。明日は、リンゴ持って村に帰るか?そん時に俺も連れて行って欲しいんだが、大丈夫かな?」


「明日?‥‥‥あっそうか、もうすぐ日も落ちちゃうもんね。」

「そうだね、多分一緒に行っても大丈夫だよ。ただ、貴方はババ様の何なの?私は説明出来ないよ?」


「そのまま正直に、ババ様の孫で良いんじゃないか?その辺は俺が説明するさ。」


「うん。分かったよ。今夜はここで寝るの?」


「あぁ。部屋が無くて悪いが、ここしか無いからな。ちなみにトイレも風呂も無い。」


「ん?‥‥‥ちょっと待って?、お風呂?はともかく、トイレが無い????どういうこと??」


「トイレは、畑の山壁に有った筈だが、知らないか??」


「畑の山壁に?‥‥あっ‥‥え~‥‥」


「何か知ってそうだな??‥‥‥ん??」


「あ~~‥‥‥あれは使わないからって皆が‥‥‥」


「ふ~~ん。じゃ、そういうことだ。自業自得だな。」


「ちょっっ!私が壊したんじゃ無いわ!」


「知ってれば十分。共犯者だな。」


「うっ‥‥そ、そんなこと言っても。‥‥」


「自分でやってしまったことで、自分で困っても、俺には助ける術はない。一緒にやった奴らを恨むんだな?」


 可哀そうとはとは思うが、言葉通り、俺には成す術は無い。まぁ、残ってても夜に使うには危険過ぎるので、余計なことは言わないが。


「トイレ、どうすんのよ?‥‥‥」


「その辺行ってやって来い!‥‥‥あっ!ちゃんと埋めろよ!」


「バカーーーーー!!!」


 色々、危険な物を投げられたが、まぁ大丈夫なようだ。

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