第11話 牙猿

「ふぅ~~~っ怖かったぁ!」


 牙猿(♂)は首を刈られてどくどくと血を流している。


「格納!」


 取り敢えず収納して、松の木の根元に出す。

 昨日の通り、滑車吊るしてロープで縛って、持ち上げ‥‥‥られない。


「あぁ~体力ねぇなぁ~!」


 なんか台になるようなもんは無いか?・・・・車の置いてある裏に丸太が積んであった。

 丸太を格納。松の木の下で出して、‥‥‥高さが合わない。


「んじゃ、切るかぁ‥‥‥『鋸』!」


 丸太を立てて、松の木の高さに合わせて丸太を切断!

『鋸』だから何回もギコギコと切るもんと思ってたが‥‥‥一瞬で切れた!

 これは、適切な工具を適切な用途で使いましょう!!ってことか!?

 適切な用途で使用すれば、半端ない性能を見せてくれると言うことだね‥‥‥

 なんか、道具たちが、キランッと歯を光らせた気がした・・・


 まぁ、それは置いておいて、松の木の下に置いた丸太に牙猿(♂)を乗せる。

 足を縛って、ロープを張って、‥‥あれ?ロープもお願いすれば叶えてくれるのかな?

『ロープ』!スルスルッと吊れた!


「‥‥‥‥そうですか。最初からこうすれば良かったんだね。」


 丸太を格納!‥‥‥首無し牙猿(♂)は逆さ吊りになって血抜きできると。

 ‥‥まさに絞首刑台じみてきて嫌かも‥‥


 振り返るとトゥミが、足をがくがくさせながらこちらを見ていた。

 口をパクパクさせているが言葉になっていない。

 ‥‥‥そう言えば、トゥミと普通に会話ができているが、口の動きがあってない気がする。

 これは、やはり自動翻訳?なのか?後で筆談も試してみるか。


「あの、それ、あわあわ、牙猿????え?え?え?」


「トゥミ!何言ってるか分からん!」


「待って、待って、す~は~す~は~‥‥ふぅふぅ‥‥」

「ん~~、えっと、牙猿が襲って来たの??」


「あぁ、見りゃ分かるだろ?」


「あわあわ、す~は~、見りゃって、一人で狩った?」


「何言ってんだか分からないが、見たまんまだ。襲ってきたから返り討ちにしただけだ。」


「あ、あの、牙猿は、普通一人で太刀打ちできる魔物じゃないし!こんなトコロに牙猿出るなんて聞いたことないよ!」


「そうか、こいつは牙猿(♂)で、昨日出た牙猿(♀)の仇討ちに来たんだろう。」


「えっ?昨日も出たの?」


「あぁ、いきなり襲われたぞ。」


「えぇ~~~!!帰る~~!もう帰るぅ!!」


「あぁ、その為に収穫量の確認を‥‥‥」


「違うの!違うから!‥‥‥聞いて?」


「ん?何の話だ?」


「あのね!牙猿は群れで移動しながら暮らしてるの。俊敏に長けた番が遷移隊として先行するの。良い餌場が有ればそこに留まって暮らすんだよ。その遷移隊をやっちゃった!となると‥‥‥本隊が総力上げて復讐に来るよ!」


「ふ~~ん。‥‥‥」


「なんで?なんでそんな冷静なの?」


「う~~ん‥‥‥(怖さが分からないのもあるが、あんなのが集団で!なんて、内心ガクブルで反応出来ない!)」

「本隊ってどのくらい居るんだ?」


「多分、小さい群れで20位、大きい群れなら100を超えるよ。」


「そうかぁ~。(リンゴの収穫は終わってるし、食えるもんが周りに無きゃ立て籠るのも手かな?)」


「だから、なんでそんなに平気なの?ヤバいんだよ?牙猿に襲われて無事だった村なんて無いんだから!?」


「うん。大丈夫!ここに居れば大丈夫だよ。トゥミはここに居な。そうすれば俺が守ってやれるよ!(ここで追い返して途中で襲われたら夢見が悪い。)」


「なっ?なんで‥‥(何々?守ってやるなんて、初めて言われた!どうしよ!?)」


「まぁ、遷移隊ってことなら本隊来るまで少し時間あるでしょ。籠城準備しようか?」


「籠城準備?」


「多分、長くココに閉じこもる事になるだろう。だから、飯とか水とか生活の準備をしないとね!」


「は、はぁ‥‥‥」


「飯は作れる?」


「い、一応は作れるよ」


「そか。解体とかは出来るの?」


「普段狩る魔物なら出来るよ。知らない魔物は難しいかな?」


「そかそか、これ、解体できる?」


 アイテムBOXからカミソリウサギを出す。


「!!っ カ、カミソリウサギ!?って、何処から出したの??」


「あ~~、そこからかぁ!俺はアイテムBOXってのを持っていてね、獲物や収穫物を持っていられるんだよ。こんなスキルは聞いたことない??」


「フルフルフルフル。そ、そんなの聞いたことない‥‥‥」


「んじゃ、内緒にしててね!二人だけの秘密!ってことで。(こ、こんな臭いセリフ、通用しないだろ)」


「コクコク。(ふ、二人だけの秘密だって~~!!)」


「それじゃ、水汲みに行ってくるから、ちょっと待っててね!」


 二人で籠ってどんだけ持つか? いつ来るかにも寄るが、複数に襲われても謎結界は耐えられるか? 問題は、トイレと風呂だよなぁーーーー!!


 そんなことを考えながら水場に来る。朝から収穫やトゥミや牙猿(♂)の事で時間食ったから、夕方には早いが‥‥‥


「スライム?どうした?慌ててる?」


 水場前で、突然スライムが飛び掛かって来た!きゅいきゅいと、声にならない声を出し、俺が来た方向に帰そうとする。


「なんだ?お前何が・・・?!?!」


 言いかけたトコで自分の上に影が出来た!

 反射的にスライムを抱えて転がる。


「ドッゴッーォン!」


 すぐ横の地面が爆ぜた!

 更に転がり、すぐ立ち上がって走る!

 すぐ後ろの地面が爆ぜた!


「ドッゴッーォン!」


「ヤバいヤバいヤバい!!もう来たもう来た!!」


 スライムを抱えて、左右にフェイントかけながら、走る走る走る!!!

 家の目前で、すぐ後ろに気配!

 反射的に横に飛ぶ!!後頭部で爆発音!!


「ドッゴッーォン!ドッゴッーォン!ドッゴッーォン!」


「三連発かよ!!!」


 何とか敷地内に入ったようだ。

 一旦、家に入ると、トゥミが抱き着いてきた!

 胸に幸せな柔らかさが♪‥‥‥スライムだった。・・・ちっ!


「怖い怖い怖い!どうすんの?どうすんの?」


 一人で居たからか、パニックになってる様だ。

 頭をゆっくり撫ぜながら、


「大丈夫、大丈夫、俺が居るから大丈夫!(おぉーこんなセリフ吐けるなんて!)」


 少しづつ落ち着いてきたようだ。


「トゥミ!君は俺のフォローをしてくれ。魔法とか何か出来るか?」


「えっ、私は、魔法は、回復魔法をちょっとしか出来ない‥‥‥」


「よし!それで十分だ。俺が傷付いたら直してくれ。」


 リュックからマグカップとスポーツドリンクを出して中にを入れる。

 トゥミは目を見開いているが、この場は無視だ。


「これ、飲んでみ?」


「えっ?これは?」


「元気になるおまじない!」


 トゥミは黙って飲んだ。目を更に見開いて!


「何これ??すっっっごい美味しい♪」


「元気になったろ?」


「う、うん。‥‥‥」


「んじゃ、やっつけて来るぞ!!」


「は、はい!!」


 土間で少し考える。『鍬』は基本的に縦の動き。横なぎに!!掃える道具は無いかな?


「‥‥‥来い!『造林鎌』!」


 これなら薙刀みたいに掃えるだろう。

 薙刀使った事ないけどね!

 後ろではトゥミがまた、更に目を見開いてパクパクしてたが、まぁ後で聞いてあげよう。


『造林鎌』を右手に持ち、『根切鋤』を左手に持って外に出る。

 家の前には、一際デカい牙を持ち、身体もデカい猿が居る。


「あいつがボスか。」


 血走った目で見ているが、今日の牙猿(♂)とは違って理性を感じる。

 しかし、話合いできる相手では無い。

 逃げるならしょうがない。逃げないなら皆殺しだ。

 動物相手に中途半端は後で寝首を欠かれる事態になる。

 絶対に負けるわけには行かない。


「『剣』!」


 最初に『剣』を呼ぶ!

『造林鎌』は収納しておいて、『根切鋤』を右手に持つ。


「『剣』!『根切鋤』!『造林鎌』!戦いだ!」

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