第10話 トゥミ

 後ろに人の気配がして‥‥‥

 ゆっくりと振り向こうとしたら、鋭く声を掛けられた。


「誰!?」


「!!っ」


 ビクッとしながらも振り向いた。

 15,16歳くらいの女の子が、籠を背負ってこちらを睨み付けている。

 その手には、剣を持っている。


「あなた、誰!?ここで何をしてるの!?」


 あっこれは、面倒な事が!と、思いつつも、動揺した表情を見せないように、努めて冷静に。


「俺は、この家に住んで居る者で、君こそ誰だ?」


「この家に?‥‥‥嘘っ!!この家はババ様が一人で住んでる家よ!嘘言わないで!」


「ババ様?‥‥‥あぁ、その婆さんに呼ばれて来たんだよ。」


「嘘よ!そんなの聞いてないわ!」


「聞いてない言われても、困ったな。君は婆さんの何なんだ?ここへはどうやって来たんだ?」


「今日はババ様と約束した収穫の日よ!このリンゴの木の‥‥‥」

「あーーーーーっ!!リンゴが無い!なんで?今年は沢山生ってるって!!」

「あっ!あなたが盗ったのね!泥棒!すぐ返しなさい!さもないと!!」


「おいおい!自分の家の畑から収穫して、なんで泥棒扱いなんだよ?おかしいだろ!」


「まだ、そんな戯言言うのね!容赦しないよ!」


 そう言って剣を向けてくる。

 昨日から出会う者、全て襲ってくる。友好的なのはスライムだけかよ!

 内心はガクブルですが、懸命に冷静を装う。


「話は、出来そうもないか、しょうがない。『剣』!」


「!!っ」


 俺の右に登場した『剣』を見て、女の子は息を呑む。


「『剣』。ケガはさせるなヨ。」


「女だからって舐めないで!」


「キンッ」


 切りかかってきた女の子の剣を、『剣』が軽く弾いて飛ばした。


「あっ‥‥‥」


 飛ばされた女の子の剣は、リンゴの木の下まで飛んで丸太に刺さった。


「話を聞けって!」


「あたしに乱暴したら舌噛んで死んでやる!」


 そう言いながら、じりじりと後ろにさがっていく。逃げる気満々である。


「何を言ってるんですか?このお嬢さんは‥‥‥だから話を聞きなさいって。」


 そう言いながら、リンゴの木の下の丸太から剣を抜いて、そのまま腰掛ける。

 女の子の剣は、持ち手を女の子に向けて地面に置いた。

 おれが腰掛けたのを見て、少し警戒が緩んだ気がする。


「まず、話をしよう。この剣を仕舞って座りなさい。」


「・・・・・・・・」


 睨み付けたままである。

 そう言えば『剣』も出しっぱでした。そりゃ警戒するよね。


「『剣』!」


『剣』も仕舞った。


「ふぅ。俺は神田真悟人《かんだまこと》 。君の言う、ババ様に呼ばれて遠くから来たんだ。君の名前を聞いても良いか?」


「‥‥‥‥‥‥」


「ん?怪しい奴とは話出来ないか?」


「‥‥‥‥トゥミ。‥‥‥トゥミよ。」


「トゥミか。良し、トゥミはババ様と約束してリンゴを収穫に来たと言ってたな。毎年収穫に来てるのか?」


「そうよ、ババ様の畑は私たちが管理してるの。ババ様は珍しい野菜を沢山植えていて、それがとっっても美味しいの♪」


 恍惚とした表情で語る。野菜で餌付けをされたようだ。

あんなに警戒してたのが台無しである。

 ハッっと我に返るトゥミ。今さら取り繕っても無駄である。


 話を聞くと、ババ様の畑の面倒を見る代わりに、収穫の半分を貰うそうだ。

 それと、ババ様の分の半分は街に行って売るらしい。

 これも、珍しくて美味しい野菜ということで、かなりの高値が付くらしい。

 特に、リンゴなどの果実類は、ものスゴイ人気があって、トゥミの村でも争奪戦らしい!

 売り先でも、予約がいっぱいで、無いとなったら大変な事になるそうだ。

 リンゴの収穫役になるには、16歳(?)までの女の子で、この森を抜けられるくらいの鍛錬を積み、選抜戦を経てここに来られるそうである。当然、役得としてリンゴを2個まで食ってイイらしい。


 そ、そこまでのモンなのか!スゲェな婆さんのリンゴ。

 既に頭の中で、お祖母ちゃん=婆さんになっている事に気付くのはまだ先である。


「だいたい話は分かったよ。リンゴはその籠一杯にあれば良いのか?」


「毎年、村に籠一杯、売りも籠一杯残りはババ様に置いておくカンジかな。豊作の時はそれなりに上乗せして分けてるよ。」


「あれ?それじゃババ様の分が少なくねぇか?半分にしてその半分が売りだろ?」


「ん~、そうなんだけど、ババ様がそんなに要らないって言ってたみたいで、さっき言ったみたいに分けてたんだよね。」


「ふ~ん、そうか。んじゃ収穫した中から村の分と売りの分を渡せば良いんだな?‥‥‥でも、ババ様の売った分の金はどうしてんだ?」


「それは長老が管理してるみたいだよ?実際に幾らになってどうしたかは、私も知らないよ。」

「あと、売りに行くのは男たちの仕事だけど、リンゴとかは街の商人が取りにくるよ、女は収穫して洗って出荷できるようにするまでだね。」


「そう、か。‥‥‥分かった。それは、他の野菜も同じ扱いってことだな?」


「そうだね。街に女が行くと、襲われたり、攫われたりするから行っちゃイケないんだよ。だから女が収穫して男が売りに行く。そうやって私たちの村は稼いでるんだよ!」


 なんかドヤ顔で威張ってますが、かなり搾取されてるみたいだなぁ?

 大方、長老から周辺の取り巻きが!ってカンジなんだろうけど。

 来る前に辞めた会社を思い出して、腹立たしかった。

 知らなきゃ良いんだろうが、今の話じゃ相当だと思う。

 それもババ様の売り分が搾取されてるのが気に入らない。


「よし!じゃあ収穫分、俺が持って行ってやる!」


「え~~~~っっ!? そんなのダメだよぅ。」


「なんだ?その不満そうな顔は?」


「知らない人間を連れて村に行くなんて出来ない!それに、イッパイ疑われちゃうよぅ。」


 ちょっと赤い顔で上目遣いでこちらを見る。

 若い時なら、一発で騙されてたよなぁ‥‥‥これは単純に、運んでくれたら嬉しいけどアンタなんか関係ないんだからね!フン!‥‥‥って事だろう。こんな歳でそんな期待をする訳がない。


「まぁ、大丈夫だ。ババ様の孫が来たって言えば良い。それに運ぶのも何の問題も無い。近くに村があるのなら挨拶するのも当然の事だ。」


「そうか、そうね。んじゃ、村まで案内します。」


「んじゃ、収穫した全体量を見てみるか。こっちお出で。」


 家の中に入る。‥‥‥ん?来ないな?


「ん?何やってんだ?」


「えっ?い、いきなり二人っきりで家でなんて‥‥‥」


 は?こいつは何言ってんだ?一応、女としての危機管理なのか?

 現実に在り得ない事態を警戒してる事に、そんなもんなのか?と少々困るが‥‥


「大丈夫だ。収穫量の確認をするだけだ。全体量が分からないと、どれだけ持って行くのかも分からないだろう?基準となる籠も君が背負ってんだし。」


「あっ。そ、そうね。」


 二人で家に入る。扉を閉めた途端に!


「ドッゴッーォン!」


 例の爆発音が響く!


「キャアーーッ!何?何なの?やっぱり私を襲うの?」


 当たらずとも遠からじである。


「中で座ってろ!」

「『剣』!『鍬』!」


 外に出る‥‥‥‥‥‥で、デカい!!昨日の牙猿より遥かにデカい!

 昨日のは、雌だった。乳房があった。もし番だったらと考えていたが、雄はとんでもなくデカい!


「こんな奴何とかなんのかよ!?」


 謎結界に叩き付ける衝撃も昨日の比じゃない!


「ドッゴッーォン!ドッゴォーォン!ドッゴッーォン!」


 家中がビリビリと振動している。

 牙猿(♂)は飛び回り彼方此方から攻撃してくる。一か所に留まらないので此方からの攻撃が中々狙いが付かない。目は血走り、怒り狂っているのがありありと分かる。


「まぁ、奥さんが殺されたんだから怒り狂う気持ちは分かる。でもな、お前さん達から仕掛けてきたんだからな。。。」


『鍬』を構えて、タイミングを見計らって、横なぎに振るう。


「ゴッ!ガッッ!」


 首を一気に刈り取った。

 今度は血を浴びないように横に逃げながら。


「ふぅ~~~っ怖かったぁ!」

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