第9話 リンゴの木
「んじゃ、水汲みに行くか。」
『根切鋤』を持って水汲みに行く。
昨日は夕方だったので、周囲は確認していなかったが‥‥‥
「えぇっ!マジか!」
家の横には、車があった!
直ぐに駆け寄り、ドアを開けようとするが、
「おいおい!昨日は全然気づかなかったぞ!ドアは、開かない‥‥‥そりゃそうか。車のキーなんて持って来てねぇよ。」
「1ヶ月間放置かぁ、ワイパーくらい立てておくか。」
どうやら家の敷地内の物、丸ごとこっちの世界に飛んでくる様だ。
車のバッテリーは、ソーラー充電器を付けているので上がったりはしないだろう。
「これって、もしかして、向こうで家にソーラーパネル乗っけて、車を電気自動車とかにすれば、電気使えるんじゃね?」
異世界らしからぬ考えが浮かぶ。早く戻って試したいところだが、どうあがいても1ヶ月は戻れない。
「車にシートカバーでもかけておけば良かったな。」
仕方ないので、車の事は置いておいて水汲みに向かう。
多分、一晩で水受けのタライは一杯になっているはずだ。
タライの蓋を開けると、ちゃんと水は一杯に溜まっていた。
木の枝を差し込んでいたから、沢蟹達もどこかへ逃げ出したようだ。
「あぁ、帰れないと分かっていたら、沢蟹、逃がさなかったのにな。」
後の祭りである。
「味噌汁にでもして食いたかった。素揚げしてパリパリ食うのも、ブツブツ‥‥‥」
ブツブツ言いながら木の枝を放り投げる。
草むらに落ちた途端に、何かが飛び出してきた!
一瞬、身構えて、よく見ると‥‥‥
「スライム??この形といい柔らかそうな身体といい、《ボク悪いスライムじゃないよ!》とか言いそうだな。」
スライムは黙ってこちらを見て?いる。
目?っぽい黒い点があるから、多分目なんだろう。
大きさはサッカーボールかバスケットボールかってカンジだ。
危害を加えて来そうなカンジはないから、そっとしておこう。
タライの水を格納して蓋を閉める。
このタライはやはり100リットルくらいは入るようだ。
戻ろうとしたら、スライムが器用に蓋を開けて中を覗き込んでいる。
動きとして、何かショックを受けているようだ。
「もしかして、お前、水を飲みに来たのか?・・・そりゃ悪いことしたな。」
タライには少しずつ水が溜まり始めているが、少なすぎて水まで届かないようだ。
「昨日汲んだ水で良いかな?」
昨日の残りは10リットルくらいあったので、それをタライに戻してみる。
まだ、届かないようだ。追加で50リットルくらい戻してみる。さすがに今度は届いた。
身体の一部を伸ばして、水を飲んでいる?
「スライムって水分多そうだし、干からびたらヤバいよな?今度からは、全部は汲まないでおくよ。」
「水呑んだら、ちゃんと蓋閉めておけよ!」
そう声を掛けたら、フルフルと返事をしているようだった。
少し良いことしたような、いい気分で家に戻る。
戻ってきて、
「あ~~、これがあったか!」
庭の木に吊るした牙猿。
もう、血は固まっている。早急に何とかしなければと思うが、イキナリこれの解体は難易度が高すぎる。もう少し慣れてからチャレンジしたいから、
「格納!」
良かった。入った。頭と左手も一緒に格納する。
そう言えば、”猿〇手”って話が‥‥‥
ふるふると頭を振って、怖いことを考えるのは止めよう。
そんなことを思いながら、目の前の松の木には、先端が輪になったロープがぶら下がっている。
「‥‥‥‥‥‥何か、この光景ヤバくない?」
木の枝に下がる、輪になったロープ。下にはまだ血痕が‥‥‥
モロに首吊りの跡である。チョット絵面が悪すぎる。
とりあえず、ロープを外して、血痕は『根切鋤』で地面を慣らす。
これでアイテムBOXには、水50リットル、牙猿x1、カミソリウサギx1である。
解体やどうするかは後で考えることにして、竈を作って飯にしたい。
あと、トイレも確認しなくては!お祖母ちゃんの畑だった広場の向こう、山の壁面を見る。‥‥‥うん、トイレも何もない。良かったような悪かったような‥‥‥。
その畑の横に、昨日牙猿が食ってた、果実が生ってる木がある。
「なんの木だろう?‥‥‥リンゴ?」
割りと立派な木だ。木の根元にはベンチになりそうな丸太が置いてある。
丸太に乗って、手の届く範囲に果実が沢山生っている。
1っ捥いで匂いを嗅ぐと、甘酸っぱい爽やかな香りがする。リンゴっぽい香りだけど、牙猿が食ってたから毒は無いよな?恐る恐る果実の表面を服で拭いて齧ってみる。
「!!っ うんっ美味い!リンゴだこれ!」
シャクシャクした食感と鼻に抜ける甘酸っぱい風味は、とても美味かった♪
「もう1っ!‥‥‥う~~ん美味い♪リンゴってこんなに美味かったのか。」
2っも食えば、腹も膨れた。
「りんごの芯は、やたら捨てない方が良いよな。あと、採れるだけ採っておこう。お祖母ちゃん、リンゴの木まで植えてたんだね。知らなかったよ。おかげ様で腹いっぱいになりました♪ありがとうございます。保存用に採れるだけ採らして下さい。よろしくお願いします。」
リンゴの木に手を合わせて頭を下げる。
その時!リンゴの木が答えたような気がした。
また頭の中で、指輪の声が聞こえる気がする。
「また『異界の指輪』の声か?‥‥‥今度はリンゴの木に認められたのか?」
リンゴの木に認められたので、新たな機能を開放。・・・・・
「今度は植物鑑定?どんな植物なのか分かるのか!!食えるかどうか、毒のあるなし、よっしゃー!これで生き延びる事が出来そうだ!」
「じゃあ早速!この畑で食える植物は??‥‥‥おぉーーー!!あるある!沢山植わってるじゃん!」
よく見ると、見慣れた知ってる野菜たちも沢山ある。
ナスやピーマン、トマトにキュウリ、ジャガイモ、人参、タマネギ、長ネギ、キャベツ、ニンニクまで植えてある!季節感がよく分からないが、こんなものなのか?これも異世界クオリティですか?
それぞれの野菜たちを鑑定してみる。この植物鑑定が優秀なのは、収穫時期や栽培方法まで分かるところだ。一応、植物図鑑は持って来てたが、植生が一緒とは限らないから不安だった。その不安も一気に解決である。
畑の周りにはリンゴの木だけじゃない。色々な木が並んでいる。
リンゴの木の反対側には梅の木がある。これは子供の頃から生えていて、お祖母ちゃんが良く梅干しや梅酒を作っていた。もしかしたら、床下にまだ残ってるかもしれない。
他の木も鑑定してみる。ミカン、ナシ、桃、カキ、キンカン、サクラ?サクランボかな?、栗やブルーベリーも植わっている。ちょっとした果樹園だね!全部数本ずつあるから、収穫時期は大変だな!!
「ん?指輪の声?‥‥‥そうかぁ!んじゃ早速試してみるか!」
リンゴの木に向かって、
「収穫!・・・・・おぉーーー!!本当に収穫できたわ!リンゴさん、ありがとうございます。」
収穫したい物に向かって、「収穫」すると、熟れていないのは除いて収穫できるらしい!
試したら本当に出来た!いつまでも生らして置くと木が痛むらしい。順次収穫するのが良いみたいだ。リンゴの他は、やはり夏から秋にかけてが旬みたいだね。みかんは冬だし、色々楽しみだね♪
かなりの収穫が見込まれるが、幸いアイテムBOXは腐らないハズ。所謂時間停止状態らしい。
野菜なんかも収穫しといた方が良いものは収穫しておこう。
ただ、今時期は、キャベツ、パセリ、セロリ、だな。季節関係なく生る訳じゃないのか、まだ植えてから時間が‥‥‥ん?植えて??誰が??自生?の訳ないよな?‥‥‥まさか??
その時、後ろに人の気配が!‥‥‥
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