第8話 帰れない?

家に帰ってきた。

『剣』は格納しておいた。

やはり、周囲を刃物がフワフワ浮いているのは落ち着かない。


部屋と台所に非常用のライトを置く。

台所のライトを点けて、水がめの中を洗って水を満たす。満タンでも50リットルくらいだろう。

感覚的にあと10リットルくらい格納されてる気がする。感覚で分かるのは便利だね!

部屋に戻るが、ライトは家の中でも持ち歩いた方が効率的だな。


リュックから、着替えとタオルとカセットコンロと鍋を出す。

現代に帰るつもりだが、あっちでも風呂は無いから、身体を拭いて着替えてから帰るつもりだ、血だらけで現代に帰ったら、すぐ通報されてあらぬ疑いを掛けられるだろう。


「家ごと飛べるなら、もっと色々な設備が持ち込めるな。風呂も作りたいし!」


と、思ったところで重大な事を思い出した!


「やべぇ!この家、風呂どころかトイレも無かった!‥‥‥‥‥‥ 」


正確には、トイレは外にある。

山の壁面に小屋があって、中は深い穴が開いていて、渡し板が架かってるだけ。

夜はライトも無いし、変な虫が飛び交ってるし、殺虫剤とライトを持って、戦いに赴くつもりでトイレに向かう。子供の頃はそんな勇気は無いので、裏の笹藪の間で用を足していた。


「あのトイレ在ったか?トイレの確認、忘れてたなぁ~‥‥‥ 」


もう暗くなってる中、敷地外に出るのは自殺行為だろう。

敷地内なら謎の結界が防いでくれると思っている。

検証の方法も難しいから、どこまで結界があるのかも分からない。


「しょうがない‥‥‥‥  窓からするか。」


板の間の窓を開けて縁に立つ。

目の前は草原。向こうには低い山があって、ぐるりと草原を囲んでいる。

家は山の麓にあるので、草原よりは少し高い位置にある。

家の正面側は小さい公園程度の広場になっていて、その向こうは山の壁面になる。

その壁面にトイレがあるはずだった。


「ふぅ~~・・・高いところからするとちょっと気分イイね! かなり、はしたない行為ですが。」


背に腹は代えられない。敷地外で襲われるよりは、よっぽどイイのだ!

と、自分を納得させるが、癖になりそうな爽快感がある!

ただ、小は良いけど大はなぁ‥‥‥ここから尻を突き出してするなんて嫌すぎる!

何か考えないとな。


さて、スッキリしたところで、鍋でお湯を沸かす。

バケツを準備して‥‥‥バケツ在って良かった。

少し熱めのお湯にして、タオルで身体を拭く。

全身拭いて、着替えたらサッパリした!残ったお湯でタオルと服を洗う。


「この服はもう着れないな。もったいないけど雑巾にするか、いや、作業着としてならなんとかなるか?」


部屋の中にロープを渡して、服とタオルを干しておく。


「腹も減ったし、そろそろ一旦、現代に?日本に?向こうに帰るか。」


指輪に念じる・・・・・飛べ!!


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

?????


飛べない?・・・・・帰れない??


再度、指輪に念じてみると、なんとなく返答が?‥‥‥今は帰れない?

次に帰れるのは、1ヶ月後??

「えぇーーーーっ!!」

「そうだったのかぁ~!ポンポンと行き来できる訳じゃなかったんだな。」


まぁ、すぐに分かって良かったけどね。

今ならリュックに持って来た物、ほとんど使ってないし。


「でも、何で帰れないんだ? そういう仕様か? 何かが足りないとか? 例えば魔力とか? そンな事言っても、そんなもん持ってないしな、指輪さん理由は答えてくれないし‥‥‥う~~ん、分からん。‥‥‥まぁ、腹減ったし何か食うか。」


何食うかなぁ?ん~~~レトルトのご飯とカレーで良いかな。

鍋に水を汲んで、またお湯を沸かす。ご飯とカレーを一緒に温める。マグカップにワカメスープの素を入れて、鍋のお湯を入れる。残ったお湯はバケツに入れておく。鍋にご飯を開けてカレーをかける。美味しく頂く♪食い終わった鍋にバケツのお湯を入れて洗う。

食器が無いと考えてしまう。キャンプ用食器セットは次に必要になったら出そう。


窓の外、草原を見る。

月が出ている。‥‥‥赤い?赤っぽい月が一つ。

やはり、ここは異世界なのか?‥‥‥そうだよな、あり得ない動物に襲われたし。

あれは魔物なのか?魔石とかあるのか?

先ずは、1ヶ月ここで生き延びなくてはならない。

そんなハズじゃなかったとは言え、今更言い訳や泣き言は通用しないだろう。

燃料系の補充は望めないから、ライトやカセットコンロも節約しなくては!

明日からの行動を考えているうちに‥‥‥Zzzz。


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鳥の声で目が覚めた。


「ここは?? どこ‥‥そうか。」


だんだんと意識が覚醒してきて状況を把握する。


「そうかぁ、そのまま寝ちゃったんだな。」


窓も全開で板の間でそのまま寝ていた。


「不思議とあんまり身体が痛くないな?窓も全開で、よく風邪ひかなかったな?」


身体をあちこち見てるうちに‥‥‥あれ?身体こんなに締って無かったぞ?

贅肉だらけだったハズなのに、細マッチョっぽい身体になっている。

なんだ?この都合の良い、嬉しい展開は??

肌もキメ細やかになっているし、なにより身体が軽い!叫んで飛び上がりたいくらいだ!

‥‥‥指輪外したら、元に戻ったりして?


「こわっ!そんな恐ろしい‥‥‥指輪外すのは、取り敢えず今は止めておこう。確認は今度だな!」


先ずは、これからの行動を確認しておこう。1ヶ月サバイバルを生き抜くために!

一つ 水の確保!

これは湧き水が確認できたし、格納できたし、小まめに補充しよう。

どれくらい格納出来て、何種類入れられるのかも確認しないとな。


二つ 寝所の確保!

これは何とかなる。謎結界もあるし、周囲の確認が大事だろう。

謎結界は家だけなのか、庭も結界の中なのか、確認方法を考えよう。


三つ 食料の確保!

肉類・・・魔物?なのか?食えるのか?解体をやってみるが‥‥‥素材は?何が必要なのか分からないぞ。

動物だとしても変わらないけどね。

野菜類・・・畑作るか。ただ、種も無いし、食えそうな草を見つけて植え替える?

お祖母ちゃんが植えてたのが残ってないかな?後で確認してみよう。


四つ 家の整理と改造!

家ごと飛ぶとは思ってなかったからな!リュックの中の物を出して、荷物の整理も併せてやるか。

少しでも住みやすく改造しないと、トイレの事もあるし‥‥‥


「朝飯にしたいところだが、燃料も節約したいから竈を作らなきゃな。それと水汲みだな。」


恐る恐る扉を開ける‥‥‥少し扉を開けて、左右を確認する。


「昨日みたいに牙猿が居たら怖すぎるからね。」


今日は何も居ないらしい。

外に出てから『剣』を呼ぶ。


「『剣』!」


右側、肩の辺りに『剣』が登場した。

ふわふわ浮いていて、まさに異世界という光景である。

一つ試したかった事がある。『剣』を出した状態で、他の道具を呼べるのか?


「『根切鋤』!」


来た!!『根切鋤』は右手にある。ということは、まだ道具は収納されていない。

もう一つ呼べるか?


「『鍬』!」


来た!!『鍬』は左手にある。ということはまだ呼べるか?


「んじゃ、次は『鋸』!」


おぉ!右手には『鋸』が来た!右手に居た『根切鋤』は収納されたようだ。


「すげぇな!基本的に利き手に呼んだ道具が来るのか!」


んじゃ、返せるのか?


「『鍬』!」 ・・・・しーん‥‥‥

「『根切鋤』!」

「おー!!収納状態なら返せるってことか!後は、どのくらいの距離までイケるかな?」


『剣』が来てる時点で、距離は結構離れててもイケそうである。


『鍬』を収納して返却。

もう一度『根切鋤』を呼んで、『剣』を収納した。

手持ちには『根切鋤』である。


「んじゃ、水汲みに行くか。」

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