第6話 戦い?
扉をゆっくり開けて見る。
「お猿さん、居ませんかぁ~??」
家の前の、果実が生ってる木の所には居なかった。
ゆっくりと顔を出して、左右を確認。
右見て左見て、更に右を見たときに!
「ドッゴッーォン!!」
何かを叩きつける音が響いた!
「!っ!?っ?!っ!?っ?!っ!」
心臓が縮み上がった!何が起きているのか分からず、尻もちをついて辺りを見回した。
すると、眼の前には、さっきの牙の生えた猿が立っていて、殺気を含んで獲物を吟味する目で見降ろしていた。生まれて初めて向けられた本物の殺気‥‥‥
「や、や、ヤバい!腰が、腰が抜けて動けない!」
後退ろうとしても上手く身体が動かない。
来て、イキナリ詰みかよぉ~!
牙猿が右手を振り上げたのを見て、あ。終わった。‥‥‥
次の瞬間には叩き潰される未来を予感して目をぎゅっとつぶる。
「ドッゴッーォン!!」
目の前で、さっきと同じ爆発音がする!
「っ!!!???」
声も出ない。
「ドッゴッーォン!!」
「???」
ゆっくりと目を開けると、目の前で牙猿が手を振り下ろす。
「ドッゴォッーォン!!」
目の前1m位の所で牙猿の振り下ろす手を何かが弾いている。
「な?なんだ?何が起きてんだ?」
よく見ると、牙猿の手を弾いてるのはちょうど家との境界線。
「こ、これって?結界とかそういうことか?こちらには入って来れないのか?」
こっちに来れないなら、いきなり殺されることは無いだろう。
少し落ち着いてきた。
ただし、これが何時まで持つのか?どんだけ耐えられるのかは分からない。
牙猿は何故攻撃が弾かれるのか分からず、怒りの咆哮を上げている。
「グォォォォォ~~~ッッ!!」
「今のところ、攻撃は防いでいるが何時までもこのままじゃ不味い!なんとか追っ払わないと‥‥‥なんかないか?なんかないか?」
ふと、自分の手にはバールが握られていることに気付いた。
おっと。そんなことも忘れていたかと、バールを握りなおして構えてみる。
相手の攻撃は防いでも、自分からも攻撃できないかも知れない。
恐る恐るバールを突き出してみる。
その瞬間!
「ガァァッ!」
腕の一振りで、一瞬にしてバールは飛ばされてしまった!
「痛って~~!メチャクチャ痛って~!」
手が痺れてメチャクチャ痛かった!一応、こっちからは攻撃できるらしい。
ただ、バールは遠くに飛ばされてしまった。
他に何か武器は?‥‥‥武器として持って来てたのは鉈と包丁。
とてもじゃないがダメージを与えられるとは思えない。
包丁や鉈で切り付けても、逆に自分の腕ごと持って行かれそうだ。
牙猿は攻撃されて余計に怒り狂ったようだ。
結界を無差別に殴りつけて咆哮を上げている!
「何か、何か長い武器は無いか?」
一旦、家の中に戻って周囲を見回すと、
「あった!これで攻撃してみよう!」
家の土間には、職人だったお祖父ちゃんの道具や工具、それに農作業用の農具が並べられている。その中から、鍬を持ち出した。
柄の長い、一番身近な武器?だった。
外ではまだ、ドッゴン!ドッゴン!響いている。
扉を開けて、再度牙猿と対峙する。
鍬を振り上げると、
「グォォォォォ~~~ッッ!!」
牙猿が咆哮を上げた!
その頭を目指して、思いっきり鍬を振り下ろす!!
「ガッ!!・・・・・」
「えっ?」
スパンッと首が飛んだ!!
左手で受けようとしたのか、左手ごと切り落とした。
首は、飛んだというより後頭部から刈り取ったように切れた。
そこから、血が噴水のように湧き出して、ゆっくりと斃れていく。
慌てて横に逃げるが、思いっきり血を被ってしまった。
鉄臭い生臭い臭気とグロテスクな光景に‥‥‥吐いた。
胃の中に何も無くても、しばらく吐き気が収まらずに吐き続けた。
動物を殺したことなんて無かったし、大量の血を見たこともない。
落ち着くまで‥‥‥再起動まで‥‥‥しばらくかかったが、なんとか復活。
涙を拭きながら、リュックから水のペットボトルを出して、頭と顔とを洗う。
血を被ってて全身気持ち悪い!
この家には風呂は無い。
しょうがないから、道具棚から千枚通しの様な物とひもを探す。
「あった!あった! これをこうして!っと。」
庭の松の木にペットボトルをぶら下げる、蓋に小さい穴をいくつかと底にも一つ穴を開けておいて簡易シャワーにする。
さて、少しサッパリしたところで、冷静に考える。
首の飛んだ牙猿の死体と血溜まりをこのままにしてたら他の動物?がやって来るかも知れない?そんなことに思いついて、処理をしなければ‥‥‥
まず牙猿の飛ばした頭と左手を探した。
意外と自分の近くに落ちていて、拾っても顔は怖くて見れない。見たらまた吐きそうだ。ラノベとかなら、牙とか爪とか売れるのかも知れない。
そんな事を考えながら、頭と左手を庭の松の木の下に置いた。
洗うならここが良いだろう。
身体も引き摺って行こうと思ったが、重くて動かない。
牙猿を叩き切った鍬の柄を、牙猿の身体の下に差し入れて、梃子の原理で少しづつ動かした。とりあえず、松の木の下まで持って行ったが、どうしたもんか?
血抜きして解体する?いやいや、そんな知識もスキルも持っていない。
毛皮くらい剥ぐか?いやいや、そんな技術も持ってないし。
このままじゃ腐らせるだけなのは明白。血抜きして水に浸けることが出来たら良いんだろうか?
向こうから持ってきた水は大した量は無い。
外に一歩出た途端に牙猿との遭遇じゃ水の確保どころか、どうにもならない。
牙猿の死体をどうこうするにも水が無いと話にならないだろう。
「あ~‥‥‥でも、あれか!血抜きさえしておけば、解体するのも、毛皮を剥ぐのも、埋めてしまうのも自由な感じだよな?牙猿の首は飛んでるので、両足縛ってぶら下げるのが手っ取り早いか。」
だったら土間に何か置いてないか?一応探してみるか。
縛ってぶら下げるには、ロープと滑車があれば何とかなるかな?
「あっ!その前に!牙猿をやっつけた鍬を使って、玄関前の血溜まりを埋めるか。」
土を軽く掘り返して、血溜まりを埋める。多分、やらないよりは良いだろう。
後は、鍬に付いた土と血糊を洗う。柄と刃先を外して間に入った血も洗う。
「こういうところから錆びるからさ。道具は手入れが大事だよね。」
さて、一通り洗ったら風通しの良い所で乾かしてから組まないとね。
鍬を乾かしてる間に、土間に戻って滑車とロープを探す。
丁度お誂え向きの滑車とロープを発見!丈夫そうなロープと、ロープの太さに見合った滑車!これならあの牙猿も持ち上げられるだろう。
松の木に滑車をぶら下げる。
ロープで牙猿の両足を縛って、ロープの片側を滑車に通して‥‥‥持ち上げる!!
「ウ・ウォ・ウォォォーーー」‥‥‥持ちあがったらロープの端を松の木に結ぶ。
「ふぅ~~!なんとかなったな!」
逆さ釣りにされた牙猿からはまた血が滴り落ちている。
ヨシ!次は、さっき洗った鍬を組んで仕舞っておかなきゃ!
土間に戻ると、なんかさっきと空気というか、雰囲気が違う気がする‥‥‥
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