第4話 いつもニコニコ現金払い?

朝、起きて昨日の事を考えた。

夢で見た婆さんとの会話。

今も指に嵌っている指輪。

お祖母ちゃん家の住所。


今日は月曜日。

仕事は‥‥‥「すいません。体調悪くてお休みさせてください。」

電話の向こうでの嫌味から罵倒‥‥‥まぁ分かってたけど、痛くも痒くもない。

黙って言われるがままにやってきた俺にとって初の叛逆。


「復調したら、またご連絡します。」


「お前!冗談じゃないぞ!今どんな状況か分かってんだろ!‥‥‥」


チン。

静かに電話を置いて、コードを抜く。

携帯も電源OFF♪


ズル休みしてしまった。

では、効率的に動かなくては!

左手に指輪を感じるとやる気が溢れてくる。

指輪の可能性が俺を急き立ててくる様だ。

昔、恋愛に頑張ってた頃もこんな感じで、頑張ろう!思ってたなぁ‥‥‥


中肉中背で容姿も普通。‥‥‥普通?ねぇ?

勉強も運動も、特に可もなく不可もなく。‥‥‥運動は不可が多かったかな、特に球技。

何の取柄もないけれど、これといった苦手もない‥‥‥すいません見栄張りました。球技どころか運動ダメです。

そんな俺は、好きな娘に告白しても友達?以上の関係にはなれなかった。

友達に言わせると「それは、基本振られたってことだろ?」

「良い人、いい人、どうでもイイ人!ってね。」

そうかぁ~。俺はイイ人らしい・・・・・・どうでもイイ人。知ってたけどね。

なんか嫌なことを思い出してしまった。

サッサと動こう。



==================



お祖母ちゃん家に着いた!!

色々苦難を乗り越えて、辿り着きました!

道も周囲も全てが変わっていたが、お祖母ちゃん家だけは夢の通りだった。

何故かは分からないが、この一角だけは取り残されたように残っていた。


ここに来る前に、ここを扱っている不動産屋を訪ねて、色々と聞いてみた。

担当者曰く、お祖母ちゃん家周辺だけが売れ残っていて、開発の区画から微妙に外れているので扱いに困っているらしい。

お祖母ちゃん家を買うに当たって具体的なことを計算してもらってる間に家と周囲を確認するため、一足先に現地に来た。

金は貯金を清算して、足りない分は現在の家を売ろうと思っている。

まぁなんとかなるかなぁ?と気楽に考えているが、細かいことは後で考えよう。


さて、久しぶりのお祖母ちゃん家。

夢で来たが、実際は何年ぶりになるか?

ドキドキしながら扉を開ける‥‥‥

あれ?開かない‥‥‥あっカギ掛かってたよねぇ!

不動産屋から借りたカギで南京錠を開ける。

婆さんは普通に開けてたなぁ。‥‥‥夢の事を思い出す。


中に入ると・・・・・


婆さんが居た!


「えっっっ‥‥‥??」

目を見開いて驚いた!! 真剣に驚いた!まったく予想していなかった。


「なんだい、随分おそかったねぇ。待ちくたびれちまったよぉ!」


「んぉ?・・・マジか?」

言葉になっていない。

夢か?んな訳ないよなぁ?と、夢と現実の区別がつかない気分だ。


「ちゃんと言ったとおりにやってきたんだろうねぇ?」


「いや、マジか?‥‥‥えっと、夢の続きじゃねぇよなぁ?」


「何言ってんだい?この子は、まったく!ちゃんとお使い位出来ないのかい?」


「え?いや、ちゃんとやってる途中だし‥‥‥」


ここで婆さん再登場なんて、まっったく思いかけず、受け答えもあいまいで動揺が隠せない。


「お前さんがどこまで真剣にやってんのか、見に来たのさ。ダメならそこまでだからね。」


不穏なセリフにちょっと引きつるが、

「ちゃんとお祖母ちゃん家を買って、俺のモンにしようとしてるさ。ちゃんと調べたし、予算的になんとか買えそうだけど、問題もある」


「何が問題なんだい?」


「単純に金の問題と、現状の仕事の問題もある。」


普通にサラリーマンをしてると、そうそう自由には動けない。

それに、住宅ローンを抱えてるサラリーマンが更に土地を購入なんて、簡単に出来ることじゃない。

仕事も今日のずる休みが引きずるだろう。

考えると嫌になるけど、上手い言い訳を考えなければ。


「馬鹿だねこの子は!そんな事考えてないでさっさと自分のもんにすれば良いんだよ。」


「ンな事言っても・・・取り合えず、買うにはどうしたら良いのか調べてるよ。後は金額によっては‥‥‥どうなるか分からん」


「そうかい。どうなるか分かったら言いな。」


「言いなって言うが、ずっとココに居るのか?」


婆さんは、ニヤッと笑って、


「ンな事、お前さんは心配しなくてもイイんだよ!」


なんだろ?このドヤ顔で任せとけ!って態度は?

そんな態度は放っておいて、金額によっては振り出しに戻るよなぁ‥‥‥買えなかったら異界は諦めるのか?今さら諦められないだろ?実際には騙されてるのかも?いやいや指輪は本物だろ?たぶん?しかし‥‥‥

思考に沈む中、不動産屋がやってきた。


「すいません、お待たせしました。ここのお見積り価格と周囲の相場価格を出してまいりました」


ここの購入金額と説明を聞いて、書類を見て予算を考えていた。

ここは古家が残ってて、松の木なども生えている。整地するだけでも相応の金額がかかるらしい。更に土地もたいして広くないので、周囲の区画とはかけ離れていて破格に安いらしい‥‥‥購入後に金かかるよ!って訳ですね。

婆さんが横から書類を一瞥すると、


「そんなのは現金で払ってやる。周囲一帯買ってやるから見積もり出してみな!!」


「「はっ?!?!?!」」


俺と不動産屋と、一緒になって疑問の声を上げる!


「おいおいおい!何を言い出しますか?そんなん買える訳ないだろうが!」


「いいから!お前さんは黙ってな」


「それでは一応、周囲の区画を確認します。」


不動産屋が周辺の区画と資料を確認して計算している。

さすがプロ!復帰が早い。

それをあっけに取られて、黙って見ているが‥‥‥


「現在残っている区画はここを入れて12区画。全てを計算すると、ここが約800万くらいで、他がだいたい4千万円~6千万円で合計4億8千万円前後になります。」


はっ?4億って・・・話にならないぞ。


「よし!それで良い!現金で文句ないね?」


「現金ですか??はい!もちろんです。しかし良いんですか?大丈夫であればお手続きしますが‥‥‥」


「あぁ。問題ないよ。なるべく早く手続きしておくれ。」


「分かりました。それでは資料の確認と計算と、手続きの準備などで少々お時間頂けますか?」


もう、全然話に付いていけない。

なに?何がどうなって4億って?サッパリ分からない。

そんな金、誰が持ってるのさ???

もう、こっから逃げて良いかな??


「さぁ!こっからはお前さんの出番だよ。」


「はっ?何言ってんの?そんな金ある訳ないじゃん?なんでそんな話になってんのさ?」


「馬鹿だねぇこの子は。あたしの言うとおりにしてれば良いのさ。」


「そんなこと言っても無理なもんは無理だぞ。どうしてそんな話になってんだよ?」


「では、全ての物件と手数料を加えて、そこからお値引きさせていただいて合計で4億5千万円になります。」


「あぁ。分かったよ。ちょっと待ってな。」


「えっ?ど、どうすんだよ?」


「押し入れに行李があるだろ?それを持ってきな。」


「あっ!あの行李か?ってか、あの金は本物だったのか?」


「いいから!サッサと持ってきな!」


押し入れを開けたら、夢で見た6億入りの行李が置いてあった。

それを引っ張り出して婆さんに渡す。


「よし!ここに6億あるから、ここから持って行きな。」


「はっ。了解しました。ただ、この量の現金では個人では運べないので、輸送準備するのでまた少々お時間を下さい。一旦銀行に入れて頂いて、そこから計算して引き落としていきます。」


「ああ。それで良いよ。後腐れないようにやっておくれ。」


自分は置いてきぼりにドンドン話が進んで行き、お祖母ちゃん家を中心に12区画、相当広い土地を購入するらしい。

しばらくすると銀行屋さんと現金輸送車がやって来て、行李からジュラルミンケースに現金を移して運んで行った。

俺は不動産屋の車に乗って一緒に銀行に向かう。

普段から使ってる銀行だから口座持ってるんだが、支店が違うから新たに口座を作るらしい。そこにさっきの現金を入金‥‥‥あっ。金は本物だったんだ?今さらなことに気付いてホッとした。

見たことない額の入った口座から諸々引かれて‥‥‥一気に億単位の金が動くって恐ろしい‥‥‥現実とは思えないが、住民票とか、収入証明とか、税金の問題とか、誰の金で何処から出たとか?‥‥‥どうすんの?大丈夫なの?

テキパキと動いてるけど‥‥‥婆さん、いつの間にか居なくなってるし、どこ行ったんだ?来るときにもう居なかったかな?

この滞りない処理は、婆さんが絶対なんかやったろ?普通じゃないのは俺でも分かる。


しかし、これで、異世界に飛べるのか?

この婆さんは何者なんだ?異界に飛ばせるんだから、ラノベなら神様とか?‥‥‥認めたくないな。

本当に良かったのか?

色んな期待と不安とごちゃ混ぜになったままその日は暮れていく。


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