第3話 異界の指輪

「ナンだ?これ?」

 中には指輪がひとつ。

 燻し銀のような色の、カマボコ型の、細かな細工の入った指輪だった。


「嵌めてみな」


「呪いの指輪とかで、外れなくなったりしないだろうな?」


「そんな下らないもん入れるかい!いいから嵌めてみな。」


「何の指輪だ?」


「嵌めりゃ分かるさ」


 改めて見るとサイズは中指か人差し指位か。

 恐る恐る左手の中指にはめてみる。

 指輪なんて結婚当初以来だな。

 あの指輪は何処に行ったんだろう?

 何時から嵌めなくなったんだっけ?

 今は関係のない、そんな昔を思い出しながら指輪を嵌めたら‥‥‥


「うを!っっ。。。」


 変な声が出た。

 頭の中に指輪の声?が流れ込んでくるカンジ。


「これは‥‥‥『異界の指輪』?」


「そうさ!『異界の指輪』だよ!はめた指にピッタリになっただろう。もう人には外せない。せいぜい手を斬り落とされない様に気を付けな!」


「お、怖ろしい事言うなよ。」


「何言ってんだい。嵌めてこの指輪の使い方は解ったろう?それが解ったらこれの価値も理解出来るはずさ。」


「う、う~ん。‥‥‥異界と行き来できる指輪か。」


 知っていたら手を斬り落としても奪おうと思うのかも知れない。

 使い方はなんとなく解る。

 でも、どう使うかはまだ考えられない。

 異界ってなんだ?

 ラノベみたいな異世界か?中世ヨーロッパくらいの文明で剣と魔法の世界か?

 と言っても、まだどんな世界かも分からない。

 勇者召喚のようなチートな状況じゃなさそうだし、異界に一定条件で行き来できる指輪。

 その条件がまだハッキリしない?これから決まるのか?

 とっても怪しい気配がビンビンする、でも、でも、ちょっとワクワクする♪


「お前さんにアドバイスだ。いいかい!この場所をホームにしな。他の場所からは絶対に行くんじゃ無い。命が惜しかったら必ず守るんだよ!!それと、他の人間が居るときにも行き来するんじゃ無いよ!先ずはこの場所を自分の物にしておきな。ちゃんと準備して、それから異界に飛ぶのさ。そうすれば。。。。」

 ニヤっと笑い

「幸せになれるかも知んないよ。」



「マジか?‥‥‥幸せに?‥‥‥」

 俺が幸せになれるかもしれない?俺の幸せって‥‥‥?

 俺の幸せって何だろう?‥‥‥金持ちになって優しい嫁さんと幸せな日々??

 そんな妄想に入ろうとしたら、だんだん意識が遠のいてゆく‥‥‥


 あれ?どうなってんだ??

 ・・・・・・・・




 ========================




「うっ!」

 身体の痛みで目が覚めた。

 起き上がろうとしても起き上がれない。


「か、身体が痛てぇ!」

 気付いたら、全身が筋肉痛のようで、思うように動けない。


「筋肉痛みたいだが・・・なんだ?そんな覚えないぞ」

 ゆっくりと横になり、今の状況の把握とさっきまでの夢を思い出していた。

 なんか夢のある夢だったな、幸せになれる『異界の指輪』なんて、正に夢物語!


「やっぱり夢だったよなぁ。そんな都合の良い事はないよなぁ‥‥‥あの婆さんは何者だったんだ?‥‥‥って夢の中の人じゃ分かりっこないな」


 しかし、この全身筋肉痛はなんだ?

 最近激しい運動もしていないし、心当たりがない。

 いや、心当たりと言えば・・・夢の中で、荷物運んだよな。

 ハハッ まさかね。


 ゆっくりと身体の各部を動かしていく。

 そして、気付いた。


「ゆ、指輪がある‥‥‥」

「‥‥‥えっ?夢じゃなかったのか?‥‥‥ど、どういうことだ?」


 指輪を改めてじっくりと観察する。

 頭の中で『異界の指輪』の使い方はなんとなく分かる。

 ・ホームを設定して移動する事。

 ・人前では使わない事。

 ・移動には一定条件が設定されるが、まだ未定な事。

 他にも様々な機能や使い方があるようだが、一度異界へ移動してからじゃないと開示されないようだ。


『異界の指輪』はサイズも自動調整。それってスゴイ機能だな!

 人には外せないって話だが、自分では?・・・スポッと外れた。


「ほっ。一応外せるのか、外して失くしたら大変だからな」

 もう一度、左手の中指に嵌めなおす。


「指輪があるってことは、夢じゃなく現実のことだよな。‥‥‥」


 自分のほっぺたを引っ張ってみる。普通に痛い!ってことは、どういうことだぁ?‥‥‥また混乱している。


「そうか!お祖母ちゃんの家に行かないと『異界の指輪』は使えないんだ!」


 ここで、夢の中の違和感に気付いた。


「お祖母ちゃん家は、今はどうなってんだ?」


 夢の中では昔ながらの風景だった。

 今は開発が進んで、あの風景は残されていないはず。

 竹の花が咲いていた竹林もすっかり無くなっているだろうし、周囲の家も残っている訳は無い。だから、なんとなく違和感だったんだな。

 ということは、お祖母ちゃん家も残ってないかも?あの婆さんは、ここを自分の物にしてから異界に飛べって言っていた。あそこが無くなっていたら、異界には行けないことになる。


「こ、こうしちゃいられない!お祖母ちゃん家に行って見なきゃ!」


 痛む身体をそろそろと動かして、着替えて準備する。


「財布持った、スマホ持った、車のカギと家のカギも持った。」


車に乗り込み、ETCカードとガソリンの残りを確認する。

ヨシ!一応、冷静だよな。

エンジンをかけて、ナビに目的地をいれようとして、


「あっ!住所が分からない!‥‥‥まてよ、今じゃ道も住所も全部変わってるよな?場所を正確に調べるところからかぁ‥‥‥」


やはり少し慌ててるらしい。もう一度ちゃんと調べてからだと家に戻った。


 パソコンを立ち上げて、マップを開く。

 記憶から大体の場所を割り出せるかと期待したが、そんなに甘くなかった。

 道の見当をつけたり、航空写真で確認したが、それらしき場所は見つからない。

 当時あった山や道や池も川も何もない。

 全然知らない場所になっていて、もうあの場所は存在しないかもしれない。

 絶望感に襲われながらも諦めきれない。

 せめて、場所を特定したかった。


 母親に連絡して、お祖母ちゃん家の昔の住所を聞き出そうと思ったが、話すより直接行くことにした。

 そこで色々古い手紙や年賀状など調べたが、残ってなかった。

 母親は色々言っていたが、不意に現れた息子に嬉しそうだった。


「お母ちゃんにも親孝行しなきゃイカンよなぁ‥‥‥」

 思うだけで、月一の病院の送迎と買い物代行くらいで親孝行らしいことは何もしていない。


 次に叔母さんに連絡して聞いてみた。

 あっさりと簡単に判明した。


「あんたお祖母ちゃん所へ行くのかい?どうなってるかちゃんと報告してね。」


「お祖母ちゃんトコって持ち家だったのか?権利とかどうなってんの?」


「さぁねぇ‥‥‥今じゃ、分からないねぇ。」


 そうか、とりあえず変なしがらみは無いと良いな。

 お祖母ちゃん家を買って、親戚中に恨まれてもたまらないし、


「よし!昔の住所さえ分かれば、たどり着くだろう。まぁ、また、連絡するよ!叔母ちゃんも元気でな。」


 簡単な挨拶をして、現地に向かうことにする。

 しかし、現地の法務局を調べて時間などを確認すると、今から向かったのでは間に合わないことが判明。

 一旦、頭を冷やして翌日に向かうことにした。


 そして、改めてパソコンを立ち上げて現地の確認をしようとして‥‥‥

 あれ?、あ?そうか‥‥‥今日、日曜じゃん!そんなことすら忘れていた。


「月曜日から‥‥‥休め‥ねぇよなぁ‥‥‥?」

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