第9話 暴動

「失礼しますっ!」


 ぼくは生徒会長室のドアをノックして誰もいないことを確認する。声帯認証を抜け、会長室の扉を開く。


「暴動はこれから起こるはず。何が起きるかどこで起きるか何もわからない。判断材料がない中でどうするべきか……役員の一掃もしなければならないし、すべきことが山積みだ」


 牛乳と砂糖を混ぜて、レンジでホットミルクを作る。

 甘い香りが会長室に漂った。




*****




「キャァァァァァ!」


 女子の叫び声とガラスが割れる音。

 目の前で起きた惨劇に円満は動揺を隠せないでいた。


「大丈夫ですか? 何が――」

「……いでしょ。……ちが……」

「え、なんて?」

「アンタたちのでしよ! アンタたちが、生徒会がわたしの流星少年団を――」


 女子特有の甲高い声で訴える。

 近寄った生徒会役員が突き飛ばされ、よろめく。

 円満はジャケットを脱ぎ、友人に渡す。


「そこまでです。オロチ学園では、いかなる場合であっても武力行使は禁じられています。貴女が今すぐ犯行をやめなければ、生徒会会則第二十四条に基づいた上で生徒会は貴女に対して処置を検討します」


 生徒会の処置が意味するのは、退学。

 円満の言葉に威勢がなくなる女子生徒。ガラスを割った右腕から赤い血が流れ出ていた。


「それに、怪我もしています。早く、犯行をやめなさい」


 無言を貫く少女。


「生徒会長、富貴栄華よりお知らせですっ! 犯行をやめない生徒は、退学処分を下すことを教員会議で決定しましたっ!」


 威勢をなくした女子生徒の顔から表情が消え去っていった。

 女子生徒はその場に座り込み、泣き始めた。

 円満は保健教員に電話をかけ、救護委員を呼ぶように頼んだ。


「ええ、負傷者が二名。うち一名は、ガラスで手を怪我しており重傷。もう一名は突き飛ばされた程度なので軽傷かと――。ええ、はい、はい、はい。――わかりました、お願いします」


 この後、円満は暴動の対処に追われた。

 割れたガラスの取り換えから、掃除、事情聴取など。

 決済担当の栄華が行方をくらましたこともあり、円満は忙しく働いた。




*****




 私は誰に呼ばれることもなく図書室に向かった。オロチの図書室には世界各国から集められた書籍が数多く点在する。重厚な扉を開け、長い廊下を進む。廊下を出た先に明月がいた。こいつは大抵、ここに居る。英字で書かれた本を読むことなく背表紙を眺めている。


「やァ、叡智」


 明月が嬉しそうに手を振った。

 手を掲げて返事をし、私は明月の隣に座った。


「何をしてるんだ?」私は彼に訊いた。

「眺めていたんだよ。背表紙を」

「英語の本を?」


 明月が眺めている英字の本を指さして訊く。

 ああ、と嬉しそうに頷くと明月は視線を動かす。


「世界には理解することのできないものがたくさんある。何もわからない、誰も教えてくれない。そう思わないかい?」


 私は明月の持つ英字の本を眺めて、回答した。


「よく判らない」

「ふふ」明月は優しく笑った。




*****




「革命は始まった。さァ、泡沫の夢をかなえさせてオくれ」


 機械人形のように少年は笑う。

 それは人間のように少年は願う。

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四字学園 @ichitoseyuma

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