第8話 掃除
「ふっー!」
「お疲れさまでした、生徒会長」
「うんうん、ぼく、頑張ったー!」
透涼に原稿を渡し、放送室を出る。
暴動が起きるだろうと予測していた生徒会とは裏腹に、校舎は静まり返っていた。
「なぜでしょうか、少し静かすぎて不気味です」
「うん、そう?」
「はい、福徳先輩は暴動が起きるだろうと予測していたので……」
ああ、なるほど。
円満は思慮深い。だから不測の事態に対応する能力を持ち合わせている。だが、根本的に不測の事態をなくそうとはしない。
ぼくは立ち止まり、透涼にウィンクする。
「どこかの誰かさんが、静かにする魔法をかけたのかもねっ!」
透涼は困った表情で目を宙に浮かす。
そんな後輩を置いて、ぼくは先に生徒会室に向かった。
*****
「どういうことでしょうか、全くいつもと変わった様子がない……」
「福徳先輩、どのカメラからも暴動の様子は映っていません」
「まあ静かなのは良いことですが、暴動が起きないとは――」
「がらがら~」
「「「あっ!」」」
効果音とともに、生徒会長富貴栄華が登場する。
るんるんとしたスキップの歩調で生徒会室を一周すると、円満の前で立ち止まりメモを渡す。
「これはなんでしょうか?」
「見たらわかるっ!」
「はぁ……」
栄華に促されるまま、メモを読む。
「放送終了と同時にホームルームをはじめよ。――っあ!」
「そうそう」栄華は笑う「ホームルームと放送終了をつなげたら、子羊ちゃんたちは暴れまわったりしない~。そのメモを先生たちに見せただけだよっ!」
栄華の言葉にどこからともなく拍手が沸く。
まあまあと手で制し、口を開く。
「暴動は後日に反動となって起こる。だから、今日は各自教室に戻っていいよ! 円満とぼくで解決策を考えてくるからっ!」
「「「はいっ!」」」
栄華の言葉に口をそろえて、返事をする役員。
自らに与えられた仕事が軽減されたことをすっきりとした表情が物語っていた。
「ふぅ~、みんなもいなくなったし、お掃除しよっか?」
「掃除ですか?」円満は辺りを見回す「……確かに、必要かもしれませんね」
「うん! それじゃあ、頑張るぞーっ!」
資料や紙コップが散らばった生徒会室を二人は掃除していく。
ゴミを拾って、掃除機をかけて、雑巾がけをする。叩き棒持った栄華は雑巾がけ最中の円満に容赦なく邪魔を掛ける。
「あ、待って! いいこと考えちゃった!」
「また、急なひらめきですね。今度は何が思いついたんですか?」
「耳、貸して!」
栄華の言葉に耳を向ける円満。
誰にも聞こえないように小さな声で栄華が円満にひらめきを告げる。
「――どうっ? いい案でしょっ?」
「はい、悪くはないと思います。聊か、暴力的だとは思いますが」
「そう? でも、みんなが笑顔になれる唯一の方法だよっ? これ以外に考えられるの?」
「いえ、いつも栄華さまの言うことは正しいですから」
「なら、よろしい!」
はしゃぎながら掃除を始める栄華。
子供のような表情の栄華を円満は親のようにながめるのだった。
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