第7話 放送

 話し声で騒がしい校舎に放送のチャイムが流れる。

 アナウンスから聞こえるのは明るく軽快な音楽と生徒会長富貴栄華の少年のような声。


「おっはようございます~! 生徒会からお知らせでーっす! ちょー重要なお知らせなので、よーっく聞いててくださいねっ!」


 音楽が止まり、栄華の声だけが流れる。

 放送の雰囲気がガラッと変わる。


「生徒会長、富貴栄華の名の下に次のことを決定する」


 栄華は息を吸って、向かいに座る透涼と目を合わせる。

 (こんなカンジでいいの?)

 (大丈夫です。ありがとうございます)


「アイドル科所属のユニット「流星少年団」の解散、生徒会主導ユニット「有栖ありす」の結成を決定する。流星少年団は明日二十三時五十九分までに解散、有栖は明後日零時零分に結成する」


 重厚な扉で閉められた放送室にも聞こえてくるどよめきの声。

 それを栄華と透涼は目を合わせてクスクスと笑っていた。




*****




 生徒会室。

 福徳円満による朝礼。

 円満の呼びかけに応じ全役員が出席しており、生徒会室はぎゅうぎゅうとなっていた。


「本日、生徒会長命令が発表されます」


 驚きの声が上がる。

 事情を知らない役員たちが円満に質問攻めを始める。


 ――どうなっているんだ、事情を説明しろ、横暴だ、身勝手にもほどがある。


「静粛に」


 円満の一声に生徒会室は一斉に静まり返る。


「今回の生徒会長命令は、学園長である蕉風臘月さまより命を受けて執行されます」


 質問攻めに入る役員たち。


「まあまあ、質問は後程受け付けますから。今はただ、静かに聞いていてください」


 円満の鬼のように冷たい視線に静まる役員たち。


「数分後に富貴さんの放送が始まりますが、先に生徒会長命令について説明しておきましょう。今回発表される命令の内容は、流星少年団の解散と新ユニットの結成です」

「「「!?」」」


 またもや生徒会室はうるさくなる。

 円満は両手で耳をふさぎ、役員に軽蔑の視線を送っている。


「役員の中に流星少年団と関係があるものがいるのも知っています。ですが、こうも考えられるんですよ。新たにアイドル生となることができる、とも」


 円満は話を続ける。

 流星少年団の解散は仕方がないということ、新ユニットの可能性について。そして、これから起きるであろう暴動について。


「生徒会では、全力をあげてこの暴動を最小化していきます。執行委員会の皆さんにも手伝ってもらいますので、覚悟していてくださいよ」


 放送のチャイムが鳴り、元気で明るい栄華の声で生徒会室も静まりかえる。


「よく、聞いておきなさい」




*****




「ねえねえ、今日の昼ごはんってなんだっけ? おれ、おなかすいたー」

「朝ごはん、食べてねぇのか?」

「うんん、そういうんじゃないけどー、おなかすいたー」


 高等部三年A組。

 前に座る切磋琢磨せっさたくまに昼食のメニューを聞く臥薪嘗胆がしんしょうたん


「生徒会から、お知らせがあるみたいですよっ!」

より、空気を読んで昼食のメニューを言うのが妥当ですよ」

「和、そうなのか?」

「はい、そうなのですっ! 臥薪さん!」

「和は今日も元気だな。なによりだ」


 二人の横でピョンピョンと飛び跳ねるのは小春日和こはるびより

 眼鏡を拭きながら和をなだめるのは温和怜悧おんわれいり


「怜悧は今日もクールだな。カッコいいぞ」

「褒めに頂き、ありがとうございます。ですが、切磋さんの方がカッコいいですよ。男らしく筋肉がついていて、日に焼けた肌はまさしく大和男子ですね」

「そう、褒めるなって」

「本当に怜悧は琢磨の事が好きだな」


 クールな性格で眼鏡をかけた真面目な怜悧だが、琢磨に心酔している。


「怜悧は切磋さんのことが好きなのですっ!」

「し、失礼ですよ! 私なんかが琢磨さんを好きだなんておこがましい……」

「まあ、そう悲観するなって。誰もが誰も愛し、愛される権利を持っているんだから、胸を張って好きと言え。それとも、怜悧は俺を好きだなんて恥ずかしいか?」

「そ、そんなことはありません!」

「なら、いいじゃねぇか」

「ありがとうございます」


 怜悧は深々とお辞儀をする。

 そういえば、と嘗胆が話し出す。


「和の言ってことってホント?」

「ほんとなのですっ! 和はうそを吐かないのですっ!」

「それもそっか。それで何を発表するんだ?」


 う~んと首をかしげる和。

 飛び跳ねていた体を落ち着かせて、怜悧に抱き着く。


「分からないですっ! けれど、とーっても大事なことだと思いますっ!」

「まあ、生徒会の放送ですから、私達にも関係がないというわけではなさそうですね。っと、良い時間になっていますね。和、教室に戻りますよ」

「はいっ!」


 小動物のように飛び跳ねながら出ていく和と正しい姿勢と一定の速度で教室を出ていく怜悧を眺めながら嘗胆が口を開く。


「琢磨は知ってるのー?」

「ああ、知っている。俺達の不祥事を解決するために生徒会が対処しただけだ」

「不祥事……? ああ、異能ライブのことか」


 ああ、と琢磨はうなずく。

 二人の間に沈黙が走る。


 放送のチャイムが鳴り、騒がしかった教室は一斉に静まり返った。

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