第4話 決戦

「それでは、開始」


 一会の合図とともに両者は異能を発動させる。

 早くも先に攻撃を制したのは当千だった。


 能力名「一騎当千」。

 敵の数に比例して自らの攻撃力、防御力が向上するという対大人数戦用の能力。ただ、体力まで向上させるわけではないため、当千の基本的な体力が高くないと意味がない。


 そんな能力を持つ当千の今日の敵は、たった一人。

 勝ち目など最初からない。

 一閃から放たれる電撃だが、体にあたっても痛くない。

 痛みを感じさせないというか、直で当たって皮膚も火傷にもなっていない。人の能力がそう簡単に変わらないことを知っている当千は困惑しながらも一閃の攻撃を躱す。


 能力名「紫電一閃」。

 雷と電気を操る能力。とてつもない速度で動き回る、刀を呼び寄せるなど派生能力も持ち合わせている。


 一閃の指先が向ける方に雷撃は放たれる。

 それを躱しながら近づいてくる、当千。


「はやい」


 漏れ出た言葉に気が付かぬまま、砲撃を進める一閃。

 当千は顔色を変えず電撃を躱す。


 そしてとうとう、当千は一閃の目先までやってきていた。

 一発の蹴り。

 視界が真っ白に染まり、一閃は意識を失った。




*****




 痛いのは昔から嫌いだった。

 物心ついた頃から、一閃は痛みの中にいた。殴られる痛み、蹴られる痛み、罵られる痛み、電気を流される痛み、切られる痛み。それらの痛みは常に一閃をつきまとい、いつも一閃が何者なのかを示していた。

 真心を持つ人々の中で過ごして痛みは変化した。

 痛みを感じる回数は減り、代わりに別の何かが一閃につきまとっていた。それは、人の優しさだった。助けてくれる優しさ、同情してくれる優しさ、抱いてくれる優しさ。

 普通の人にとって当たり前の優しさに一閃は心を躍らせていた。


「ありがとう」といって

「ごめんなさい」とあやまって

「うんうん」とうなずいて

「あはは」とわらって。


 そうだ、生きないと。誰に望まれなくても誰に頼まれなくても生きないと。

 一閃は意識を取り戻し、静かに立ち上がった。


「ぱぱはいいました。ぼくはおとなになれないと」一閃は囁いた「ままはいいました。ぼくはだめにんげんだと。それでも、それでもぼくは――」


 仲間に支えられて生きてきた。

 一閃なりの優しい世界で生きてきたのだ。


「ぼくはみんなのためにわらいます。たたかいます。きみをたおしてみせます」


 風が動き、雲が流れる。

 青空は曇天へ変わる。風は吹き荒れ、やがて厳かに雷が鳴った。一閃が手を振り上げた瞬間、ゴロゴロと雲が音を立てた。


「さようなら」


 手が振り落とされ、その瞬間――。

 その瞬間、当千に雷が落ちた。余りにも静かに落ちたそれは煙を立てていた。


「なにがおきたんですか?」

「何も起きていませんよ。ただ、雷がわたくしを直撃しなかっただけです」


 煙の中で当千が立っていた。ところどころ散り散りになった制服を着て、一閃めがけて歩き出す。

 自信にあふれた笑み。

 勝ち誇った当千の表情が勝敗を物語っていた。


「わたくしの能力は大人数に向けて有効な能力だと評価されていました。ですが今、説は結果となり果てました。わたくしの真の能力は、自分の基礎値に敵の攻撃力、防御力が加算される――というものでした」


 簡素なステージを取り囲む衆からは、驚きの声と納得の声があがった。

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