第3話 訓練

「次の授業は、移動教室です。二分以内に教室から出て行ってください」


 当千の声かけにぞろぞろと従うクラスメイト。

 皆が手にしているのは、異能力の使用指南書とそれに準ずる資料。自らの異能パターンによって内容が変わってくるため、自分だけの教科書でもある。


「当千、君もそろそろ移動しないと。移動教室って言っても、野外訓練だからね」


 突然声を掛けられて当千は目を白黒させた。


「ええっと、君は一期一会いちごいちえくんですよね?」


 当千はあやふやなクラスメイトの名前を上げる。


「人の名前を忘れやすい当千に覚えててもらえるなんて、嬉しいよ」一会は笑う「みんなも行ったようだし、戸締りをして行こうか」

「嗚呼、そうですね」


 当千と一会は、教室の戸締りをする。

 鍵を閉めて職員室に返却し、移動教室へと向かう。

 感謝を述べた当千に、当然のことだよと笑う一会。


「君の指南書は赤い、ということは攻撃防御系の異能力?」

「そうですね。敵の人数に比例して、自らの攻撃力及び防御力が上がるという代物です」

「すごい能力だね。俺なんて、奇跡的な出会いのチャンスを作るっていう能力なんだよ」


 当千は十分凄いと思っていた。

 奇跡的な出会い。それは、一生に起こるか起きないかの大切な出会いを毎日のように起こすことができるということ。


「次の授業は、異能力を使用した野外訓練です。何が行われるのか大方、予想はつきますが、詳細は明かされていません」

「そうだね」


 予鈴が鳴る。

 二人は駆け出し、青葉の生える野外へ向かうのだった。




*****




「凄い……」


 全身が躍動するような喜び。異能力とオーラによって形成されたその姿は当千の心を奪った。喜びのあまり、その場で踊りそうになるのを必死にこらえている。


「異能力は自我が残っていなければ、意味がない。特に攻撃系の能力は、精神が削られる。そして、自我を失った異能力者は――」


 死ぬ。

 自我のない異能力は、たとえ体力が消耗しようとも体が欠損したとしても異能力者が死ぬまで動き続ける。


「よって、攻撃力の高い生徒ほど精神を鍛えなければならない。分かったな?」

「「「はい!」」」

「それでは、各自学年別にペアを組み、実戦を開始するように」


 教師の声かけにより、ペアを作り出す。

 当千の元には女子男子問わずペアを組みたいと懇願してきたが、当千はすべてを払い除けてある先輩の元に向かった。


「紫電一閃先輩、一緒にペアを組んで頂けませんか?」

「あふぅ~ぼくと~?」

「そうです、紫電先輩にしか頼めないと思いまして」

「そうなの~?」

「はい」


 紫電一閃。

 何もかもが謎で包まれた美術部のエース。

 紫の頭髪にマイペースな口調で極度の甘えん坊。人に好かれる努力をしなくても、勝手にお世話してくれる人がいる。

 そして、異能力「紫電一閃」はとてつもない攻撃力を誇る。


「ん~、じゃあ~、ぼくとたたかお~」

「戦闘訓練ですか?」

「ちがう、ちがう~。たたかうの~」


 この時、当千は全てを理解した。

 一閃は本気で、実際の戦闘をしたいということを。


「わかりました、実戦ですね。レフェリーはどなたにお願いしましょうか」

「こうへいだったら、だれでもいいよ~」

「ありがとうございます、一期一会さん、レフェリーをお願いできるでしょうか」


 ギャラリーの中に紛れていた一会に声を掛け、どこからともなく出した赤と白の旗を差し出す。


「レフェリーってことは審判? それぐらいなら、できるよ」

「ありがとうございます。紫電先輩、彼でよろしいでしょうか」

「うん、いいよ~」

「五分後に実戦ということで」

「はい~」


 どうするべきか。

 雷を操る一閃ひとりと相手の人数によって攻撃力、防御力が上がる当千では格が違う。しかも、相手は異能力の使い方をよく知っている上級生だ。

 考えろ、考えろ。


「もう、ごふんがたちました~。たたかいをはじめましょ~」

「わかりました」


 対決の場。

 簡素なステージで上級生と下級生の実戦が始まる。

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