第2話 会話

「こうして夕焼けを見て帰るのって何回目かしら」繚乱は後ろの蒼然に向き直って訊く「物思いに更けるのも偶には必要でしょ?」

「そうだな」


 カァカァと鴉が鳴いた。

 ちらほらと浮かぶ雲が二人を優しく見守っていた。


「学園都市最大の機関「ヤタガラス」のトップになってから、何もかも変わってしまったわ。年収は勿論、価値観もね」

「まあ、考え方は変わったな。昔の方が頭よかった」

「何言ってるのよ、蒼然も昔の方がかっこよかったわ。今はもう、おっさんだもんね」


 蒼然は道端に落ちていた石を蹴る。

 蹴った石が道を外れて、草むらを転がっていった。


「変わるものがある中で、変わらないものだってある」

「アラ、良いこと言っちゃって」

「茶化すなよ」

「こんな雰囲気、苦手なの。知ってるでしょ」

「知ってるも何もしんみりした繚乱は繚乱じゃないからな」

「そうね」


 繚乱が微笑む。


「あ、そうだわ。いいもの見せてあげるわ」

「いいもの? あっ」

「察しがいいわね。さすが、蒼然」


 繚乱が異能力を発動する。

 どこからともなく現われた炎に色が付き、彩られた炎は様々な花に形を変えていく。

 百合、秋桜、薔薇、桜、紫陽花、薊、霞草。


「綺麗でしょ」

「嗚呼」


 花は増えていく。

 あたり一面を繚乱の花が埋めて尽くしていく。


「繚乱、お前の名前にあった光景だな」

「そうかしら? 私がこんなにも情熱的だって、言いたいの?」

「否々。繚乱は昔から冷静だったからな」

「そうよ、冷静よ。悪く言えば冷たいってことだけど……」

「まあ、そう悲観的になるな。繚乱はこの炎のように熱くはないけど、この炎のようにあたたかいんだからな」

「何、言ってるのよ」


 恥ずかしさのあまり、繚乱は蒼然から顔をそらす。

 耳まで赤く染まった繚乱。

 それを見て自分の失態を知った蒼然。

 両者とも恥ずかしさのあまり、不必要な無言が長く続いた。

 猫が二人の前を通り過ぎたとき、二人の声が重なった。


「「あの…」」


 同じ出だし。


「「あっ」」


 同じ反応。


「「そっちから」」


 同じ応え。


 気まずかった空気は、奇跡の偶然が破ったのだった。

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