第2話 このクソッタレな神剣にもお仕事のようですよ?

ゴブリン、なんと執着の強い奴らだろうか。

石ころをぶつけただけであの憤慨ぶり。

ゴブリンにだって、遭遇したくはないモンスターだってありそうなものなのに、そんなリスクを冒してでも俺を捕食しようとここまで追いかけてきた。

その執着ぶりはモンスターとして厄介すぎる。


しかし、俺は数十分前とは違う。


俺の手には今、自称ではあるが神剣なるものが握られている。

負ける気がしない。


『ねぇ、いい加減自称ではないってなんで分かってくれないの?それに私、ゴブリンの肉なんて切りたくないんだけど〜。私はもっと王子様的な持ち主を期待してたのに、あんたみたいな弱っちそうな奴が持ち主認定されて、気勢削がれてるんですけど〜』


こいつさっきから文句しか言いやがらねぇ!


「てめぇただ地面に突き刺さってだけの癖に調子乗ってんじゃねぇぞ!お前に主人を選ぶ権利なんてねぇ!大人しく使われてろよ!」

『あんたね!あなたこそ分を弁えなさい、私は神の剣。神剣様なのよ!本来ならあんたみたいな一般人、お呼びじゃないのよ!』


こいつ、本当にゴブリンの餌にしてやろうか?

ゴブリンの中には宝石好きな物好きもいると言うし、こいつを囮にして逃げるなんて事も出来るかもしれない。


それにこいつなんか腹立つからな。


『ねぇ、あんたそんな事したら呪い殺すわよ』

「おいおい、お前神剣の癖になんて物騒な事言いやがる。お前仮にも神の剣なんだから、口調くらい直したらどうだ?」

『あんた相手ならこれで十分よ』


ムカつくぅぅぅぅ!!!


何こいつ!主人の俺に何て物言いなのかしら!

制裁が必要なようだ。


こうしている間にも、ゴブリン達は各々の武器を手にし、涎を垂らしながらにじり寄ってきている。


顎がないのでしょうか?


最早一刻の猶予もなさそうだ。


よしこれで行こう。


「おめでとうだ神剣。お前みたいな頭の弱そうな奴でも、早速仕事だ。お前のその凄さとやらに、期待しているぞ?」


俺は悪口と褒め言葉をいい塩梅で添えて促す。


『へぇ、やっぱりあんたも私の凄さに興味があるようね!いいわ、この神剣シスカの凄さを見せてあげる!大船に乗ったつもりでいなさいな!』


ちょろいな。

褒めれば際限なく上がるタイプか。

使いやすい。


「よくぞ言った!それでこそ神剣の名に相応しい!シスカと言ったな、俺はカナタだ!さぁーお前の初仕事だ!働けよ〜!!!」

『任せなさい!仮にもこの私に危害を加えようとする低俗なモンスターなんて、私が一刀両断に……へっ?』


神剣の自信に溢れた声から一変、呆けた声が、この異様に切り開かれた広場にやけに木霊したように思う。

そして次は、何かが地面に落ちたような音が。


ゴブリン達の近くに……。


『えっ?ちょっと、カナタ?』

「シスカ。俺はお前の事を忘れない。では」

『えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?』


よくある話だ。忌々しい魔に落ちた存在は、本能的に神々しい存在に救いを求めると。

決してこの話を鵜呑みにしている訳ではない。


でも、興味はある。

それが本当なら、今後は結構使える情報だろう。

今まさに、それの実証のチャンスだったというだけの事。


『ちょっと!あり得ない!あんたあり得ないわよ!この私を、この私をっ……囮に使うなんてぇぇぇぇぇ!!!』


シスカの絶叫が背後から聞こえる。


ここで一つ独白させて貰うと、俺はあの剣が神剣とは微塵も思わない。

確かにあの剣の作りや様相、それは明らかに人知を超越した技術が施されている。

そこは認めざるを得ない。

あれはかなり希少な剣だ。だが、何よりあのシスカとやらだが、神の剣ともあろう物が、あんな品のカケラもない口調であるなど、あり得るのだろうか?

傲岸不遜にして主人に対する誹謗中傷の数々。


オマケに加えてあのチョロい性格。


神の剣があんなのなら、実用性の高かった俺の木の棒の方は差し詰め絶対神の剣だろう。

それに、戦闘中にあんな調子で話しかけられたらうざすぎて無理だ。


あんなうるさい奴はお呼びではない。


よって俺はあの剣を捨てる事にした。


ああでも安心してくれ。

また一日経ったらここに戻ってきて回収するから。その時にはゴブリンはもういないだろうし、持ち帰って売却すれば幾らかの金にはなる筈。


なんと完璧な作戦だろうか!


俺はこの場を上手く切り抜けられる。

そして俺のトーク技術次第では、一生かけても手に入らないような大金が。


もうウハウハが止まらねぇでヤンス!



早速帰ったら娼館にでも行こうか……。


「……え?」


そう言いながら広場を離れようとしたが、それは敵わなかった。

何故ならば、俺の前方、というより全周囲。

見事にゴブリンに囲まれているではないですか?


あっれぇぇぇぇーーー?


『アハハハハハハハ!笑える、その声とその顔!もう最っ高よ!あんたいいリアクションするわねぇ!アハハハハハハハ!!!』


背後から、憎たらしく哄笑する神剣の声が……。


「お前……何しやがった?」

『あんたの推測通り!モンスター達は基本的に神々しい存在!即ち神の存在に本能的に肖ろうとする習性がある訳!そこで私、ちょっと自分の美しすぎるこのオーラを広範囲に放射してみましたっ!!!』


なんだとっ!!!

つまり、この状況は……。


『漸く察したみたいね!私だけ囮にしようたってそうはいかないわ!あんただけいい思いはさせない。このまま道連れよ!』

「こんのくそアマがぁぁぁぁぁ!!!」


この神剣、想像以上にクソッタレ野郎だった。

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