東雲穂香は傘を差さない。

インドカレー味のドラえもん

東雲穂香は傘を差さない。

 窓の外を走る、自分と同じ制服を着た少年少女。

 同じ傘の下で手をつなぎ、収まりきらない肩を濡らして走る二人を見る。

 しぶきをあげる水たまりに構いもせず走り去る後ろ姿は、背中越しでも幸せそうな笑顔が伝わってきて。

 あんなにも濡れているのに、何がそんなに嬉しいんだろうと彼女は心の中で呟いた。


 ―――あいつなら、こんな予報にも無かった大雨で、むしろ一本でも傘が有った事を幸運に思うべきだよ、なんて言うんだろうな。


 そんな事を考えて、憂鬱そうに彼女は立ち上がる。

 予報に無い通り雨。当然傘なんて持ってきちゃいない。

 というより、ここ一か月ほどの間で雨が降った日に傘を持って出ていた記憶が彼女には無かった。


(最悪……)


 諦めたように呟いて、靴箱へと続く階段を歩く。


「穂香ちゃん」


 下履きに履き替え、今まさに雨の中一歩を踏み出そうとした彼女に、先ほど脳裏に浮かんだ少女が声をかける。


「ほらっ」


 一本の傘を見せ付けて笑いかける少女に、彼女は照れたように微笑み返して、二つの影は肩を寄せる。

 

 東雲穂香は、今日も自分の傘を差さない。

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東雲穂香は傘を差さない。 インドカレー味のドラえもん @katsuki3

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