三十日目(7)「最期の鏑矢」
「さてティー様、こっちこっち、ですわ!」
私は、ティー様と一緒にお嬢様方の結婚式場となる教会に来ましたのです。因みに一通り誓いのなんたらーを済ませると式場を飛び出して何故かパレード的な感じで表を一周するらしいですの。ちょっと意味不明ですわね。
「リースハーヴェン様、ここって……」
ティー様が引きつった笑いを浮かべて居づらそうに身を縮こまらせながら私の影に隠れた。
「国賓席、ですわね!! ティー様は聞けばユーリッド様のご親友と聞いたので、こちらに呼んでもよいのではないかと思いましたの!!」
勿論事前に単なる帝国で下働きしているいたって普通の一般人なティー様がこのような各国の要人がたくさんいらっしゃる中では疎外感と緊張感で大変なのは重々承──いえ、女子力で激辛鍋は飲み干せないので普通では……? 普通ってなんですの?
脱線しましたわね。そんな苦労を掛けてまで国賓席に招き入れたのはなんのことはありませんの。
近い方が、守りやすいからですわね。
実際ユーリッド様からティー様に送られた招待状は元々親近者席でしたからね。私も本来ならばお嬢様との縁でその席を確保していた訳なのです。が、ユーリッド様に頼まれたこともあり急遽
「もしかして、嫌でしたの? ここからなら、きっとユーリッド様はよーくみえると思いましたのに……迷惑だったんですの?」
「うぐっ……いやぁ、場違いだなぁって。ほら、私ド平民なので……」
そうですわね。私も先程正装に着替えるついでにティー様の衣装や髪型も整えましたので見栄えの方は無問題ですのに、確かにこう、なんかちがうって感じしますわね。
もうちょっと自信を持ってくれれば見劣りはしない気がするのですけれどね。
「本当のところ言いますとユーリッド様にティー様の事をお守りするようにと、頼み倒されてますのよ」
「……あ、やっぱりそういう感じだったんだ。変な近付き方だったからそうだとは思ってたけど、残念。結構楽しいと思ってたんだけど嫌々だったのかー」
軽い口調と反してずーんと音がしそうなほどに落ち込むティー様。えっ。
「え、いや、べ、別に、嫌々なんてことは!!」
「分かってるよ、もー、ちょっと本気にしすぎだよー」
ティー様はそう言って苦笑い。ええー。
「なんだか意地悪なことするから、ね。っていうかリースハーヴェン様、私の事を守ってくれるんだ?」
「ええ! 勿論ですわよ! ユーリッド様のご親友に何かあっては私も心苦しいですし、ユーリッド様になに言われるか分かったものじゃありませんの。勿論ユーリッド様関係なくてもお守りする所存でありますわ!」
「ありがと」
そうはっちゃけてみても、ティー様の緊張は解しきれませんでしたわね。
まあ────。
「────ぐおおお、あの、ちっちゃかったガキがもォすぐ結婚だァ!? マジ?? 夢でも見てんじゃねェか!? ちと〈時詠〉! 儂の頬ォひっぱたいとくれ!!」
「────うぅぅぅ、あのちんまいシェリーアちゃんがのぅ、結婚……結婚だぞ!! 妾、未来視で知っとったがな!! これが落ち着いて見られるわけなかろうて!! 何? 頬を張れ? オラァ!!!」
「ウボァーッッ!!」
(────まあ、あそこでまだ新郎新婦も出てないくせに大泣きしている方々よりはマシでしょうけれど)
「ユーリッドの義父さん……恥ずかしいからやめて……」
ティー様が巻き添え羞恥でダメージ受けてますの。半分身内みたいなものでしょうから、キツそうですわね ……。
私もお父様が人前で大泣きしてたらとても……うぐぅ、考えるだけでキツいですわね……ッ!!
『新郎新婦の入場です』
おや、アナウンスですわね。お嬢様方の入場ですわよ。
大きな扉が開いて、ブーケを持って新郎をにやにやと見上げるお嬢様と照れ臭そうに口元をもにゃらせているユーリッド様がゆっくりと入場。
「……やっぱ、だめかぁ」
隣で小さく呟くティー様。どことなく苦しそうに私には見えますが、口を挟むことはしませんでした。
「うぉぉぉお!! ユーリッドぉ!!」
「シェリーアぁ……!!」
大泣きする保護者二人はもう少し静かにしてほしいところですけれど! ほらお嬢様方、完全に苦笑いしてますし!! 回り見て欲しいですわね!!
『──それではまず新郎のご友人から、結婚の御祝いの言葉を。ティー様はどちらでしょうか』
一応国事ですけれど、内容は普通に結婚式ですわね。
「えっ、聞いてないんだけどぅ!? えっ、ええ!?」
「……頑張って下さいまし、ティー様」
「自分で自分の死体蹴りを何で頑張らなきゃいけないの……??」
ティー様は虚ろな顔でそうぼやいて立ち上がる。
「あ、ティー様。実は私、こういう適当な事でっち上げるのは得意ですの。一羽耳打ち用に付けますわね?」
「一羽……? わあ、かわいいコウモリさんだ」
私の分身のコウモリをティー様の肩に乗っけましたの。ふふん。可愛いでしょう!?
「その子が困ったら適当な事言い始めますので、任せてくださいまし?」
「本当に適当な事いったら困っちゃうけど……ありがとね、リースハーヴェン様」
◇◆◇
『マイクをどうぞ』
促されるまま、
さて……えっと……私は何をいったらいいんだろうね。
「……あのスタッフさんの首筋は……噛み跡ですの……?」
「アナウンスもしてるさっきのマイクを渡してくれたスタッフさんの事?」
「そうですが……まあ、気のせ────」
────がしゃあああああああああ!!!
「────これが最期になる、マイハニー。
教会の大きな大きなステンドグラスを極光の矢が打ち砕き、硝子の雨の中に現れたのはたった一人で、男の人だった。
「グランデ=エクスフォード……やっぱり来ましたわね……!! ティー様は私の後ろに……ティー様!!?」
不思議なことに、明らかに不当な侵入を果たした男に対して私は全くの恐怖心が働かなくて、気付けば一歩前に出ていた。コウモリちゃんが、そんな私を前にして焦ったような声をあげたけど。
「〈全部撃ち抜け〉/〈応よ〉」
────侵入者が矢を放つ。矢と言っても、一矢一矢が弓から延びて枝分かれするどす黒い光の筋で、形の曖昧なものだった。
それが座席にザクザクと無数に突き刺さっていく。当然、私のもとにも殺到した。
「これは、この光は見覚えがありますの────ッ!!」
その光はコウモリちゃんを私から弾き飛ばして、私を押し流すように吹き荒れる。だけど、何でか、危険を感じない。それどころか、淀んで濁ったような光がとても、惹き付けられるような──。
その瞬間、私の頭のなかで光が閃いた。
「あ、そっか。君も、同じだったんだ。諦めきれなくて、こんなことをしてるんだ」
……私って、もしかしたら君みたいになっていたのかな。リッくんが私の事を異性として愛してないなんて事実、いまでもまだ辛いから。
わかる。わかった。わかったような気にさせられてしまう。
「なに言ってますのよ、ティー様!! 初対面に同じとか分かるわけないでしょうって目が!! 目が完全に逝ってる人の目ですわよ!!?」
何言ってるのコウモリちゃんは。いやリースハーヴェン様だっけ。ま、いっか。
「って言うか会場内みんなゾンビみたいな目を……今の光に、呑まれましたわね!!? ええ、間違いないですわよね、この光には見覚えがありますの────公爵、この場にいるのですわね!!?」
「ああ、よくわかったな、ポンコツ駄皇女。
「何が誉めて使わすですか私の方が格上ですわよ!! 寄生するのを止めて出てくださいまし! 臆病者の吸血公爵ッ!!」
「臆病だなんて言われてしまえば俺様名折れだ。悪いなグランデ=エクスフォード、他は全て抑えてやる。やれ」
すうっと、
「俺様の加護はそのままだ。やれ」
「ああ、ハニーは僕のものだ」
二人、そんな会話を交わして飛び出した。
少年はリースハーヴェン様へ。
青年はリッくんとリーアちゃんの元へ。
「だとしたら、私は邪魔できないかなぁ」
私は洗脳されている。さっきの光の影響だ。私だってそんなことはわかっている。完全にあの光が私から戦意を削いでいることは分かってるよ。
本当ならリッくんの邪魔にならないように助けになるように行動するべきだ。
でも。
「私は負けたんだし」
卑しい心が『ここであの人が勝てば、リッくんに振り向いてもらえるかも』なんて囁くけれど。そうじゃない。
「────シェリーア、やるぞ。ついてこれるよな?」
「────誰に言ってるの? あったり前じゃないの!」
割って入ることが一番邪魔になるって、さぁ。私はそう思っちゃったからしょうがないじゃん。
あの二人が並んで戦う姿を見たいって、思っちゃったんだからしょうがないじゃん……!!
「あっはは、やっちゃえリッくん!! リーアちゃん!!」
私は、頬をしたたっていく涙を愉快に感じて爆笑した。あははははははははっ、無理だよ!! 笑うなって方が無理!! あーもう吹っ切れた!! そうだよ、私は、私はリッくんのああいう顔が好きだったんだよ!!
そしてそんな私が洗脳から脱したとでも思ったのだろう。視線が集まっているのを感じた私は、一際笑う。
「……ってことで、
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