エンディング:ウェディング

三十日目(1)「早朝、不人街で不審な爆発が」


 ────式典の日の朝は、濃い霧が出ていた。



「────〈剣姫奪還〉計画は完璧です。何せ頭のおかしい癖に力だけはある王国好戦派を手駒として掌握できたのですからね。さあ、""イアイ=ソードスター。共に壊しに行きましょう、花嫁がそう望んでますからね!!」


「応さ。久方ぶりに剣姫と力比べ出来ると、邪道であるからくりに堕するも受け入れたのだからな。ロイズ=マシナリー、今か今かとその時を望んでいるのが目に浮かぶようである」


 白衣を着た細身の男がくつくつと笑う。その隣を歩くのは四つの機械足で歩く男と、たくさんの人型の機械。


 まるで馬のような機械の下半身に、上半身の殆ども機械と化したイアイ=ソードスター。

 一度霊峰にて敗北を喫した彼(※)は強さを求めた。そして、ロイズの口車に乗せられて機械の体に改造されることになったのである。


 機械の体はエネルギーの充填にロイズの手を借りなければ動けないものであるが、本人は『前よりも格段に動けるようになったわ!!』とご満悦な様子である。


 ※だいたい18日前(十六話)に出会い頭にたった一行で煉獄によって燃やされた時の話。煉獄本人はもう覚えてない模様。


 ……と、それはさておき、彼らは意気揚々に王都の一角で堂々道の真ん中で集会している。


「さあ、さあ、機人の皆さん。行進です!! 壊してしまえ!! こんなもの!!」


 背丈が人の胸ほどの人型の機械にロイズが号令をするように叫ぶ。その機械の銘は〈機人〉といい、ロイズが大量生産した破壊兵器である。


 一体一体が王国の騎士を相手に出来るほどの格闘能力を備えた、魔法に強い抵抗のある機械人形である。


 そしてもちろん忘れちゃいけないのが自爆機能だ。


 ロイズ=マシナリー、彼のイチオシ能力であり、起爆すると周囲十メートルを消し飛ばす破壊力を誇る。まさしく自爆機能の名前に相応しい。


 そして、そんな機人たちはロイズの号令に応えて破壊を振り撒くべく動きだ──────…………さない。


「……イアイ。なぜ打ち合わせどおりにしてくださらないので?」


「ちと忘れとってな……スイッチ、ぽちっとな!! で、良いのか?」


「なぜ叫ぶだけでスイッチが入ると思っているのですかイアイ。君は機械化したところでその残念な頭は変わらなかったね、真っ先にそこを改造するべきだったか」


「なにおう!!? 某のどこが阿呆と申すか!! そこに直れ、メイフィールド嬢よりも先に、某の刀の錆びになりたいようだな……?」


 イアイは腰の刀に手を伸ばした。彼の腕は機械化したことにより、関節や筋力に縛られない、素の人としての限界を超えた動きが出来るようになっている。その抜刀は刀の達人と一線を画するほどである。


 当然ロイズが受けたらひとたまりもない。


「いいのかい? 今日は霧のお陰か。それが、どういう意味かわからない君ではないだろう?」


「は。関係などありはしない。どういう意味かわからぬからな!!」


「わからないの!!?」


 ロイズがずっこけた。


「足元を緩くしたらいかにお前が優れた剣士だろうが、この私に一太刀浴びせるよりも先にお前の機械にトラッキングを仕掛けてコントロールを奪い取るのは容易であるということさ!!」


「なるほどな、完全に理解し申した」


「わかりましたか!?」


「わからん!!」


「分からないのか!!」


 ロイズは再びずっこけた。ここまで頭が弱いとは想定していなかった。


 仕方なしにロイズはイアイから機人命令用のスイッチを奪い取る。ロイズ的に召し使いロボットに命令することで『私の手を煩わせるまでもありません、さあ任せましたよ』的な事を想定していたのに。なんだか悔しかった。


「しかた、ありませんね。さあ動いてください!! 機人たち!!」


 ロイズはスイッチを押した。


 ────今日は霧が濃い。


「……おかしいですね、なぜ動かないのでしょうか。一応追従モードなのでついて来るのですがね。うむむむむ……」


 ────今日の霧は、足元が見えないほどに濃い。


「へえ、スイッチを押さずとも動くのか」


「ええ。このスイッチは『適当に目につく動くものに襲いかかり、充分に暴れた後自爆する』コードを送信するスイッチですからね。魔力を関知しますからね。この霧でも、問題なく視認した相手に襲いかかる筈なのですが……」


 ────特に、足元は絶対に見えない程に霧で真っ白に染まっている。


「相手がいなかったらどうなるのであるか?」


 ────そして足元には────。


「そりゃあ、する……の……で……は……!!?」


 ロイズは大きく目を見開き、衝撃の事実に気がついた。しかしイアイは呑気にしていた。


「へえ、それは素晴らしい。で、いつ動き出すのであろうか、このからくりたちは」


「そ、そんな呑気にしている場合ですか!! ロイズ、背に乗せなさい。スイッチは押しました!! つまり動き出しています!!」


「からくりは全く暴れていないようであるが」


「うるさいですねぇ!! 早く逃げるんです!!」


 ロイズは必死になって怒鳴り付けた。


「逃げる? 何から?」


「良いから早く走り出すのですっ!! おのれ〈煉獄〉っ!! 卑劣な策を────っ!!?」


 ロイズが言うが早いか、周りの機人から怪しい光が漏れだした。そして、イアイ=ソードスターはそれを見てもピンと来ないようで首を傾げていた。


 ────足元では、霧の向こうに描かれた魔方陣がこうこうと光を放っていた。




 ◆◆◆



 ────今日は結婚式だ。


 私は普段よりも二時間ほど早起きしてしまって、中庭を歩いていた。最近は落ち着けない日々が続いていたけれど、今日は特段の落ち着かない気分で。


 なんというか、取り敢えず外の空気を吸いたかったのだ。ほら、これから滅茶苦茶窮屈なことするわけだし。結婚式だって言っても政治の一部だもの。


 誰もいない、朝霧の掛かった中庭を愛剣引っ提げて歩いていた。


 そんなところに何かの影が近付いてきているのが見えて私は剣を構えた。


「──あーお嬢様ぁ~おはやうございましすのー」


「……リース? え、なんでコウモリ状態なの??」


 霧の向こう側から飛んできたのは、一羽のコウモリ、リースハーヴェンで。彼女がコウモリには出来るだけなりたくない事は知っているから、私は珍しいものを見たとばかりに近寄った。


 というか『おはやうございましすの』って何?? よく見たらすっごく眠そうだ。


 ……今なら。


「うにー……」


 ほっぺたをむにむにむにむにむにー。


「……うにゃー!!? 何しますのーっ!!?」


 あ、怒った。


「いやあ、なんかリースちゃんって全体的にもちもちしてる気がして、ずっと触りたかったんだよね」


「そうなんですの!? 太りましたかしら……」


 そういうんじゃなくて、普通のコウモリと別種ってだけだと思う。高貴とか吸血種とか、そんなこと言ってたしさ。


 私の手を離れたリースちゃんは、そんな自分のからだを見詰めて首を捻っていた。


「で、こんな朝早くに何してたの?」


「……不寝番ですの」


「ふしん……?」


「徹夜ですの」


「いや、意味はわかるわよ。なんでそんなこ────」


 ────ドゴォォォォォォォォッッ!!!!


「わ、わわっ、爆発っ!? 地震!!? 火事!!? 雷!!!? 何の音!?」


「わー、始まりましたの。……いえ、終わりました、の方が良いのでしょうか?」


 リースちゃんはそう遠い目で呟いた。


「何が終わったのよ」


「お嬢様は知らなくていいことですわよ、私としては、どちらでもいいですけれどね……って、私に向かって剣を構えてどうしたんですの? おかしいですわね、刃物は人に向けないように重々にメイド長も言ってたのですが」


「……別に危なくないわよ、素振りするだけだもの」


 それを聞いて私は、この場で剣の素振りを始めた。


「ちょっ、わっ、剣筋がスレスレ通っていますわね!!? 当たったら只じゃ済まないんですがよ!?」


「絶対に当てないけど教えるまでやめないし、言わなかったら気変わりするかも?」


「ひっ!? あのユーリッド様に口止めされてるんですけれど!! 口止め料まで貰ってるんでなにも言えないんですのー!! それではメイド業に戻りますのー!!」


「あっ、こら待てぇ!! 最近みんななにかと蚊帳の外にしてくるの私嫌なんだけど!! ねえ!!?」

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