二十五日目(2)「なぜか飛んできた鴨がネギに激突!! 」
二日前の海から気まずくて、ユーリッドとは殆ど会話していない。目も合わせてなければ、顔も合わせることがない。ユーリッドが避けてくるのだ。移動も出来るだけ反対側に座るし、ご飯はタイミングをずらすし。
ちょっと、そんな、過剰に避ける必要がある??? いやフツー私が避ける方じゃない?? なんかムカつく。そーんな私が嫌か!!
私は剣姫だぞ!!(←?)
……そんな感じに向こうが避けてくるから、無理矢理ついてきちゃった。どうも一回帝都に戻ってやりたいことがあるらしいけど……??
「……ぁ……」
ティーさんと会って……。え、どういうこと? この街に戻ってやりたいことってまさかティーちゃんと会う事……!?
待って。
最近避けてたのはまさかティーさんへの負い目? もしかしてずっと好きあってた、とか?
……ないない。だってあの男、はっきり言ったわよ。私のことが好きだって。い、言ってたわよね?? あれー?? あれれー??? あのときは半ばおかしくなっていたので記憶が曖昧で、確信出来ないのがとても悔しい。
本当はあの記憶嘘だったりしない? あれからずっとこの男、かなり、かなーーーり!! よそよそしいしっ!
だから私はさ? 移動中この男が本当に、ほんっっっっとうに!! 私の事が好きなのか確かめたくて。
で。話し掛けようとしたら防音魔法掛かってるし、それを破ったり張り直されたりしてるうちに移動が終わっちゃうし、じゃあ追い掛けようって思ったら一回完全に撒かれたし……見つけたら別の女と一緒に居るしぃ……。ねえこの男本当は私のことすごく嫌いじゃない? 嫌いでしょ。
いい加減私のことを振り回すのはやめて欲しい、こっちは泣きそうなんだけど。
「「(笑い声)」」
「あ゛あ゛ああああああッ!!」
なんだか言葉が聞き取りづらいので聞こえた音が字幕になるように魔法を掛けたらなんかムカつく文字列が出てきてムカついたので出てきた文字列を殴り飛ばしてしまった。ムカついちゃったからね。
汚い声が聞こえた? なんのことやら。悪いのはユーリッドです。
なんでこんなかわいい彼女を放っておいて別の女の子と会ってるわけ……そもそも? あほか。あほなのかー!!
あほーーーー!!! 鏡のなかを見ろ? うわっストーカーだ!!?!?(やけくそ)
って違う違うこんなことしてたいんじゃない。浮気現場抑えちゃったのだ。出るとこ出てやる……具体的にはイルミアさんのところだね、親のところへ行くのは酷すぎると日和って考え直したよ!!!
「よぉお、しっ?」
そうと決まれば────
「わ、わたっ、私と……一緒にぃっ!!? 一緒に、なって……くれませんか?」
────えっ。
…………なにそれ。
……………………………………えっ?
「ふ、ふうん? 大胆じゃん」──わぁ噛み噛みだ、ティーさん顔真っ赤にして告白かぁ『私と一緒になってくれませんか』? これおあいてうれしいだろうなぁティーちゃんかわいいもんなぁ────じゃない相手がユーリッドだふざけないでよそれ私の……でもない? いや、私のだ。私のなの!!!?
「すぅぅぅぅ……」
落ち着け私。まだユーリッドが受けると決まった訳じゃない。だいたい、あいつ私のことす、好きだって…いってた、よね? いってたはず。
でも、あれ。私にとって都合良すぎる記憶だし、操られてた時捏造してた記憶とかじゃなきゃ、だけど…………。
「……」
ちょっ、こっちから顔は見えないけどユーリッド絶対面食らって呆けてるでしょ!? 今そんな場合じゃ無いでしょ。なにか言いなさいよ!!
ねぇ言ってよ……?
ねえ?
「私と、その、結婚して国の外に行けば、行ってくれれば全部解……決……」
────段々、弱々しくなっていくティーちゃんの言葉。
あれ、これはまさか……ゆ、ユーリッド!?
「ティー。ごめん、それは無理だ……」
言ったああああああああああああ!!!
よ、よかったぁ…………よかったぁぁぁぁぁ……────い、いや信じてたけどね? 断ってくれるって、私のもとから離れないって信じてたけどね????
それで…………えっと。
ティーちゃんは……?
「いやーーーーーーーーー!!! 冗談冗談!!!!! 真に受けた? 受けたよね! 私の名演技どうよ!!お姉ちゃんから逃げるなよ!? あっダメだよー、イルミア先生から教わる護身術として精神汚染解除魔法は基礎の基礎だぞー!?!?」
あっけらかんと笑いつつ、ユーリッドの額を小突いていた。
よ、良かったー、冗談かぁー!!! わー、騙されちゃった! ティーさん演技上手いなぁー……。
うんうん、気分良くなっちゃったし、気が付いたらお腹すいちゃったなぁ!! ご飯食べに行こーっと。
◆◆◆◆◆
やっぱ帝国の食堂は安さと量が追求されている。それでいてちゃんと美味しい。満足だね。
食後、帝都のなかでもかなり賑わっている道を選んで散歩する。なんかちょっと物価高めなお店が多い気がするので、そういうところなんだろう(ぼんやり)。
「よっ、そこいく美人なお嬢ちゃん、見ない顔だね!? 見ていってくれるかい!?」
何を? 振り返ると、アクセサリー類を売っている店だった。装飾の宝石がキラキラとガラスケースの向こうで輝いている。見たところ全ての魔法が込められているが、どれも気休め程度。
見た目の派手さで売っているようだ。私、そういうのは最低限しか分からないんだけど……。
「おおー」
思い出してみれば、ユーリッドに何かしてあげたことなんてあっただろうか。いや、ない(反語)。ほんとになくない? これ最近ずっと思ってたけど私かなり貢がれてない?
それは困る。とても困る。なにも返せてないというのは沽券に関わる。それどころじゃなかったって言うのは関係ない。
ひょっとしてこれは丁度良いのでは? お返しする絶好のタイミングを神様が用意してくれたのでは? 私神様信じてないけど。
「なぁお嬢さん、悪いことは言わねぇ。そこの店は詐欺だから止めとけ、うち来な、うち」
別の人だ。
「あぁ?? あんたんほうが詐欺じゃろがぇ!?」
「あぁ????」
「ああァ????」
────脳裏に過る占い詐欺師────ま、そう何度も騙されるわけないわよねー?
「つーか今朝あんさん憲兵にしょっぴかれそうになっとったやんか、えぇ!?」
「そりゃてめえの掛けた罠じゃろが!! 舐めてんとコロがすぞ、ああ???」
喧嘩してる。
まあ、騙されそうになったかどうかはともかく、ここは離れた方がいいよね。
「あ、お嬢様!! こんなところにいたんですか!」
「あ、リースちゃん。こんにちはー。……もしかして何か用でもあった?」
「無いですけど……これ、何してるんですか?」
「──誰が買うかてめぇんとこの商品なんざよぉ」
「──あー? あんたんほうの商品こそ誰も買いやしねぇよ」
二人の男店主が頭突きをしている。異様な光景だ。
「………………喧嘩?」
「……へぇ。もしかして、お嬢様。あれですか?」
リースちゃんが迷い一つなく指をさしたのは青い宝石の填まった金色の指輪。
「そうだけど、え、なんでわかったの?」
「そんなの私の髪色とお嬢様の髪色を見れば一目瞭然じゃありませんの」
「…………リースちゃん一応銀髪だと思うよ」
「何を。蒼銀ですのよ。蒼。重要ですわよ、これは!!」
「そう? ごめんなさい」
「分かれば良いんですの────ごめんくだっさーい、ですの!! これ欲しいですの!!」
「あっ」……行っちゃった。
「おっしゃあ百万だぜ!!」
「はいですの」
「確かに受け取ったぜぇ……ぐへへ、ちょっろ」
「お前……」
最初に突っ掛かってきた店主が天を仰ぐ。
「はいですの、お嬢様」
「…………まあ代金はちゃんとあとで渡すわね……」
そこはかとなく詐欺の臭いがするけど、指輪ゲットである……あー、確かにこれ接着甘いし表記より魔法が弱い気がする……。
ま、私の手に掛かれば? ちょちょいのちょいで額通りの性能に早変わりさせることは出来ますので!!! 問題はなぁしっ!! だから騙されてもないデス。
…………後悔とかしてないからね?
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