十九日目(2)「爺は剣を抜き、答えを得た」
「どの面か知らねぇけど、信じとけジジイ──!!」
俺は一息で船を燃やした────下は海だ。大きく安定した足場は物理攻撃を得手とする義父が立ち回る上で必須な物だから。
故に最初に破壊する。
「思えばお前は最初儂みたいな剣士になるーってんで才能もねェのに儂の後ろを追っかけて剣を振りまくって……いやアレは振り回されてたな、剣によォ」
メリメリと炎にまかれながら、義父はゆらりと抜剣した。俺は大きく距離を取りながら船を更に燃やす。
「懐かしいねェ、あの頃はまだ女房も居た。お前は覚えてるか? アイツのことをよ」
────義父が剣を一振りすると、船の上が凪ぎを取り戻す。炎は消え、煤は払われ、空気が静まる。
剣士の強さにおいて重要なのは射程距離と威力。義父の剣はそのどちらも優れている。戦争において剣士は遠距離からの魔導師兵の攻撃をどうにかしなければならなかった。故の2つ。
しかも優れた剣士の斬撃は範囲が見えない分、下手な魔導師兵では相手にならないほどに厄介。
(しかし凄いな…………────っと、あぶねぇ。ぼけーっとしてたら死にかねねぇや)
危うくその剣にみとれそうになり、俺は杖を振ってその思いを払う。
「覚えてるよ、勿論。優しい人だった。でもずっと俺に向かって『きひひ、君は魔法をやった方がいい。剣よりはマシだぞぉ??』なんて言ってくるから、当時はそんなに好きでもなかったけどね」
「物真似、上手ェじゃねえか」
気付けば、義父は眼前に居る。魔法の壁を隔てた向こうへと突き飛ばして、俺は船の外へと飛び出した。
魔法は便利だ。こうして自由に空も翔べる。
追撃はない。代わりに義父は、懐かしい思い出を大事に取り出すように、ゆっくりと目を細めて語る。
「アイツが、お前にイルミアを紹介したんだったよな。当時のお前はすげえ反発したけどよ、イルミアはお前のこと特別可愛がったよなァ。正直お前を剣士にしてやろうと思ってた儂にとっちゃあの小娘は邪魔でしかなかったけどよ」
「……」
俺は風を起こして義父目掛けて殺到させ、船の甲板に人が通れるほどの穴を幾つも空けていく。義父は掠りもしないまま、高笑いをあげる。
「かはははは!! ちっと鋭さが上がったなァ!!」
「るっせぇよ、船ごと沈め」
「断るッ!!」
────跳んできた。
腕のいい剣士が剣を片手に錐揉み回転しながら跳んでくると無数の斬撃が無差別に撒き散らされるのだ。危ない。
「ぶっ飛べ!!」
「かははははッ、甘ェ!!」
高密度の風を放つ。剣でそれを捉えて自分と風の弾道を逸らして直撃を避けながら跳んでくる。
俺は義父の通り道から大きく退避し「だから、甘ェってなァ!!」義父は空中を蹴って追ってくる。
「分かってるさそう言うことしてくるのはな!! だから、痺れとけっ!!!」
鋼糸に電気を流した特性の網を生み出し、義父へと襲い掛からせた。
「電撃の網ィ? 効くかボケェ!!!」気合い一閃。ただそれだけで突破し「年季が違ェんだよォ!!」
義父は空中に居たまま一息溜めて、剣を振るう────巻き添えで海が割れた。
「あっぶねぇな!!! 殺す気かよ!!」
「テメェ自分の女がヤバいとき手を抜くか? 抜かねェだろ肉親でもよ。まあ儂ァ義父だけどよォ!! つまり何が言いてェかってェ、と!! ──舐めてんのかテメェ」
「…………本気なんだな?」
「あァ? 儂ァ何時だって本気だぞ? テメェは違ったのかよ、見込み違いだぜ」
なにもない空中に着地した義父は蔑むようにそう言って、剣を振るう。
「そりゃ残念だな」
さもすれば空間ごと斬りかねない一撃を、俺は魔法でねじ曲げて回避する。加えて、広げた炎を上空から義父の頭へと落とす。
「あァ、残念だ」
義父は剣を天に突き上げるだけで、炎を散らす。一挙手一投足に、魔法を散らす力があるのだ。
……ええ、これ倒すの? 面倒くさ。
「理不尽だな、降参してくれよジジイ」
「テメェの方が理不尽じゃねェか、テメェが降参しろや」
遠距離から撃ち合っていてもしばらく意味がないことは俺も分かっている。だが決着を急いではいけない。おそらく持久戦に持ち込めれば俺が有利なのだ、多分。きっと。メイビー。
「あの頃は、単なるガキでしかなかったな。テメェは、どっかで野垂れ死ぬような……少なくとも大成しねぇヤツだと思っていたさ。剣の腕は一向に伸びねえ、十人居ても帝国軍の正騎士一人と勝負にならないレベル止まりだとな」
「…………ひっでぇな、これでも一応第一志望剣士だったんだぜ?」
「だとしたら生まれを恨めってレベルだなァ。ゴミ過ぎる才能担いでくるなよ、ウケる」
炎の渦をぶつけた。
炎が掻き消えたとき、しかしヤツは元気だった。チッ。
「かはははは、そう怒るなってェの。いい思い出じゃねェか帝国最強の魔導師兵様、テメェにイルミア付けてやったの、感謝しろよォ?」
「はいはいどうもありがとうございます先生には大感謝してます。だが、ジジイはダメだ」
「ああそれは悲しいぜ、笑っちまうくらいになァ」
「つー訳で────沈め」
地面へ引き寄せる力を増幅、義父へ。魔法を使わずに空中に立つ、というのがどれ程難しいか分からないが、ゆっくりと義父の体が下へと下がっていく。
「あ、ヤベェこれは斬れねェや」
「じゃあそのまま縛られてろ」
「断るぜ、縛られるならアイツのだけがいいわ」
「そうかよ、じゃあ埋めるわ」
「埋まるならアイツの胸元がいいわ」
「じゃあ幻覚だ。囚われてろ」
「やるならアイツと会えるタイプで頼むわ」
「断る。義母さん出てくるヤツだと下手したら帰ってこないだろ? さすがにな」
ぐいぐいと海面に引き込まれていく義父。勝敗は決まったとばかりに義父は敵意を引っ込めてケタケタと笑っていた。
「えー、融通利かねェなァ。あ、そうだ。答えを聞かせてくれや、ユーリッド」
「……そうだな、誰が好きかって話だったっけ」
「ああそうだよユーリッド、テメェがそれを言えないまま結婚したとあればアイツにどやされちまうからなァ」
「ありそうだね」
義母なら確かにやりそうだ。俺はそう思って、自然と頬が綻ぶ。そしてあの人ならきっと、何を言っても完全に否定はしなかっただろう。
「で、誰なんだ?」
水面下へと沈む────但し海水が気合いか何かで義父を綺麗に避けている────義父はニヤリと笑いながら聞いてきた。
「……俺が好きなのは──────」
「……そうかよ、じゃあ、仕方ねぇな。約束通りごぼごぼごぼごぼ」
義父は満足げに海水に呑まれていった。
◆◆◆◆◆
あ、どうも、シェリーアです。シェリーア=メイフィールド。
今日はどうして海辺で食べるかき氷は美味しいのか。その真相について迫りたいと思います。美味しいよね、アレ。
え。どうでもいい?
じゃあスイカ割り。スイカ割りだ、風情あるよね。目隠ししてもどこにスイカがあるのかなんて分かりきってるけど。何なら棒切れ投げても割れるし。そしてリースちゃんの助言はだいたい一歩二歩分くらいずれてたけど。
……それから、あんまり遠くにいっちゃいけないって言われたから遠泳は控えている。リースちゃんと水掛けあってた。そうそう、イルミアさんは外に出るつもりがないらしいので、砂浜でキャッキャウフフしてるのは私とリースちゃん。
まあ、これはこれでアリ。楽しい。
「本当はユーリッドも居たら楽しかったんだけどなぁ」
あいつ、私の水着姿とか見てどう思うんかな……。可愛いって言ってくれるのかな。いや、あいつにそう言うこと期待してもしょうがないな。ダメだわ。絶対に褒めてくれたりしないわ。そう言えばあいつに欠片でも褒められたことあったかな。ないわ。ない。
あ、私もないわ。多分。じゃあおあいこじゃん。
「お嬢様は本当にユーリッド様の事が好きなのですわね」
「あ゛ぁ゛?」
「そ、そんなに怒ることですの? 」
おっといけない、ユーリッドに対しての怒りを鎮めましょう。すー、はー、よし。
「ユーリッドを好き? んなわけ無いじゃない。ちょっと人数少なくて淋しいなーって思っただけよ?」
「はいはいわかりますわ。こういうのツンデレって言うんですわよね?」
「…………まあデレてるかどうかは想像にお任せするわ」
「変に言い訳しない方が楽になりますわよ? どうなんですの?」
「どうって……だってさあ……初対面の時から『クソ魔導師兵』とか『変態』って罵倒するみたいな事、言いまくっちゃってるしさぁ、今更言いづらいんだよね、いろいろ」
「あら、じゃあ私が──「いや!! 私は、私の口からちゃんと言わなきゃダメ、だと思う」──そうですわね」
というか、リースちゃんの目的からしてあまりこの子にユーリッドの好感度を稼いで欲しくない。うん。
と言うか、ユーリッドのことが好きかどうか、実のところ────分からないんだ。
あの匂いのせいじゃないのかな、とか。
あいつと契約してるからじゃないかな、とか。
────私の気持ちは、ほんとにわたしのものなのかな?
「お嬢様……」
「あ、いや、だから、えっと、そう! 気にしないでね? 私が頑張ればいいだけの話だもん」
「そうですわね! さあ、そうと決まれば夕日に向かってダッシュ!! ですわよ!!」
「えっ!? どういうこと!?」
「相場で決まっているのですわ!! さあ!! 行きますわよーっ!!」
「相場で決まってるんだ……」
「そうですわ!!」リースちゃんは右拳を天へ突き上げた。「ついてきてくださいまし!!」
「おーっ!!!」
なんか良くわからないけどノリで西に向かって砂浜を猛ダッシュ。
「あと太陽に向かって吠えるのも定番ですわーっ!! 明日から本気出す、ですわーっ!!」
それどこの定番なの?? やっぱりリースちゃんは独特だ。というか明日からって、それでいいの……!?
まあいいか。
「明日から、本気出ぁぁぁす!!」
「よろしい!! 走りますわよ!!!」
「おおおーっ!!」
腹から力一杯に叫ぶのは、とてもスカッとした。…………叫んだ内容は酷かったけども。
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