十七日目(3)「綺麗好きのコウモリ」

 ────…………いつの間にか寝ていたらしい。


 本気で〈斧王〉を燃やした後で、先生に強引に魔力を渡したからだろう。魔力が若干足りなくてダルい。


 つーか……寝てる間にシェリーア、魔力を幾らか持っていきやがったな……? 回復量が少ねえ。


「やあ、起きたかな。どうだい、よく眠れたかな?」


「……まあまあ、ですかね。先生こそ調子はどうですか?」


「私はほら、毎日が最高だからね。下がりようがない……寝ている間に騒がしくしていた子達が居てもね」


 そう言いながら先生は力強く笑う。そう言えばシェリーアとリースハーヴェンがいない。


「あの子達、ひとしきり騒いだ後で合流地点までの竜車か、馬車かを探しに行ったよ。二人仲良く、ね」


「そうか……」


 また誘拐とかじゃなくてよかった。今のシェリーアに勝てる奴もそんなにいないだろうが、その言葉で少しだけ安心した。


 ……や、アイツが襲われてないことに安心したんじゃなくて、また先生を狙う敵が近くにいないことに安心したんだからな?


「はいはい、分かっているさ」


「……」


「さてさて、今のうちに荷物纏めておこうかな? あの子達が戻ってくる前に」


 明らかに誤解している。反論しておきたかったけど、確かにシェリーアが帰ってくる前に荷物は纏めた方がいい。襲撃の折りに先生の部屋は散らかってしまっているので、少し時間が掛かってしまうだろうし。


「半分くらい君が散らかしたんだろう……、キレると魔力を辺り構わず放つのは抑えた方がいい」


「……すいません、片付けてきます」


「あぁ、今後治してくれればいい。そこでゆっくりしててくれ」


「先生こそゆっくりしててくださいよ、俺のせいなんですし」


「いやいや、君こそ」


「先生こそ」


「分からないかな、私がやってくるって言っているんだ。君はおとなしくしていていいのだけど」


「いやいや、先生こそのんびりしててくださいよ。まだ快調とはほど遠いでしょう?」


「何を聞いていたんだい? 私は常に最高って先程……」


「それ下がりようがないからって言ってるように聞こえましたけど」


「君なぁ……」


「だから────って抜け駆けしないでくださいよ!?」


 先生が走り出した。あああああ待てやがれ下さい無理しないで!!!?


「ははっ、体が軽いね、階段を駆け上がるのが楽しいくらいだよユーリッド」


「浮遊移動してる時点で説得力がねぇよ!!? もしかしなくても足動かないんですよね!? 無理しないでくださいよ!!」


「────無理というのは存在しないよ、ユーリッド。魔法というものは、それを越えるためにあるんだよ」


「走るの無理ってことですよね止まれ!!」


「はーーーっはっはははは!!!」


 あっという間に先生が部屋の前まで辿り着く。元々そんなに広くない宿なのでそりゃあっという間だ。


 あっ。部屋からバサバサと何か出てきた。


「──ふいー、手強い汚さでしたの」「強敵でしたわね」「どうしてガラス辺が窓の外に散らかってたのでしょう?」「まあ片付きましたしオッケー、ですわね!!」


 四匹のコウモリだ。


「────っ!!」


 先生が思いっきり魔法の制御を謝って地面を滑っていった。うわあ、珍し……。


「だ、大丈夫ですの!!? イルミア様!!?」


「だい、じょぶ……」


 ────ちなみに部屋を見たら、粗方綺麗になっていた。魔法ではなく、道具を使ったのだろう。窓は継ぎ接ぎになっていたし、壊れたものは何とか元に戻そうとした形跡がある。


「あとイルミア様、はちゃんと指定通り……」


「ありがとうリースハーヴェン……」


「例には及びませんわよ」


 …………なんの話だ?


「「いやこっちの話」ですわ」


 …………?????



 ◆◇◆◇◆



 さて、そうだね。リースハーヴェン。君はどれが欲しいかって言ったね。


「そうですわね。きっとは意中の殿方に側にいて欲しいものでしょう? それが、写し絵であれど」


 最期って、人聞きが悪い。だいたいとっくのとうにその時期は過ぎているのだよ。


「それもそうですわね」


 にしても……たくさんあるね。寝てる間に。寝てる人をこんなに……?


「わ、私は止めましたわよ? ですがシェリーア様が『この辺とか、ほら、猫耳とか良くない?』等と言うので……カメラマンとしての魂を……ぐぬぬ、卑劣なりシェリーア様……!!」


 ノリノリに撮影していた訳か。


「でもこの辺りの猫耳装着シリーズの映え具合!! とても良いとは思いませんの!?」


 最高。


「でしょう!? まあユーリッド様にバレたらどうなる事か、今からも気が気でないですわ……」


 ……まあ、悪ふざけが過ぎるからね……。この辺のゾンビメイクはさすがにシャレじゃ済まないよ?


「あ、それは共和国で流行りのアニメの主人公とヒロインですの。不死者の男と吸血鬼のヒロインのバトルコメディで、かなり面白いですわよ。今後、確かスターニア領? は王国管轄下でしたわよね。きっと放映されていますわよ」


 ……どうだろう。あの辺りはそういうの、あんまり好きじゃないと思うけども。科学嫌い、極まってるし。ユーリッドもあんなところじゃなくてもっといいところを領地にすればよかったと思うのだけど。


「よく知ってるみたいな口振りですわね?」


 まあね。


「……では、この写真で本当に良いんですわね? ツーショットなものはいくらでもありますわよ?」


 あのね、私は別に……。


「別にもなにも、ユーリッド様のこと、愛しているのでしょう? そうやって何だかんだ言いつつ結局自害していないのですから」


 …………むう。


「あ、今の可愛いですわ。もう一回! もう一回お願いしますわ!! 撮りますわね!! え、ダメですの?」


 ダメです。


「あーー、勿体ないことしましたわ……!!」


 はっはっは。


「……まあ、後でロケットペンダントに加工しておきますの、楽しみにしててくださいまし!」


 ああ、楽しみにしてるよ? リースハーヴェン。


 君の、ね?


「あら……うふふふふ。なんのことでしょう?」


 あはははは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る