十七日目(2)「ユーリッドが危ない」
「────……で? こんだけか?」
倒れ伏した〈斧王〉の頭を踏みつける。顔以外が焼け焦げてている。特に酷いのは炭化して今にも崩れそうな両足。
「な、まじカ、〈煉獄〉がこんなに強いなんテ、聞いてなイ……!!」
戦闘は一瞬で終わった。要は攻撃を一切させることなく、防御をぶち抜くまで燃やせば良いだけだからだ。
「……先生を狙ったヤツに掛ける慈悲なんてねぇからな」
「おまけニ、抵抗できないよう魔力まで奪うなんてナ。そんなにあの杖の持ち主がスキだったのナ、アー、惜しいことをしタ」
「…………殺す」
「おうおウ、怖い怖イ。でも良いのカ? お前がこの〈斧王〉を殺したらどうなるカ、分からないわけじゃないだろウ?」
「知ったことか。大体……最初に手を出してきたのはお前だろうが」
「ハハッ、どっちでモ、変わらないだロ?」
──それもそうか。
「じゃあ先生に手を出した事を悔いながら、死ね」
炎を顕現させ、足元の〈斧王〉に向けてそれをゆっくりと降ろしていく。
────その間に、突如小さな影が横切った。
「ちょっと待つですのぉぉ────ぉ熱っっっっっっっっうぃですわ!!!!!」
謎の影が炎の芯を通過したことで魔法が散ってしまった────ってコウモリ……!?
「おうおウ、これはまタ、小さなコウモリに救われたナ」
「リースハーヴェンか!!? お前、正気かよ!!?」
「正気じゃないのは、ユーリッド様の方ですの!! 鏡見て欲しいくらいですわ!! 酷い顔ですわよ!!!」
炎を上げながらばたばた叫びながら滞空するコウモリ。見たところ、派手に燃えてるがほぼダメージを負ってる様子はない。対策をしていたのだろう。
だからと言って、炎を消すために突撃してる来るのは正気じゃないと思うが。俺が、正気じゃない?
当たり前だろ。
「だってコイツ、先生を!!」
「……勝手に殺さないでくれないか?」
先生が、シェリーアに肩を貸されて歩み寄ってきていた。
俺は一目〈斧王〉を睨み付けた。彼は面白くなさそうに嗤った。
「先生……!! 無事じゃなさそうですね」
「ああ、無事とは言いがたい。君はそう軽率な所があるからね。やっぱり殺しかけていたか……」
先生は周りを見渡しながらそう言った。周囲は焼け焦げている民家が建ち並んでいる。
この勢いではなにもしなければきっと全焼するだろうが────俺は、その火を全て消した。
「よし、これでいいか」
「よくないわよ、ボロボロじゃないの。この辺と完全に炭化しててほら……触っただけで崩れちゃった、十分に手遅れの手遅れよ。……勝手に暴れないでよ、ユーリッド」
「……悪い」
「謝る前に元に戻しなさいよ、出来るでしょ?」
シェリーアはまるで出来ると確信しているかのように言った。
「……出来ないの?」
いや、そうでもなかったみたいだ。すぐに心配そうに聞いてきた。
「出来るよ、舐めんな」
「そ」
短くそう言って、シェリーアは微笑んだ。
俺は、それを尻目に燃やしてしまった民家をある程度修復し、先生の片腕を生やして、ついでに〈斧王〉の手足を元通りにしながら意識を奪った。
◆◆◆◆◆
う、うわー、ビックリしたー。
ユーリッド、マジでヤバい目してたもん。鬼とかそういうヤバいヤツの目。そっか、イルミアさんを殺したと思い込んでたなら、そうもなるよね。
というかユーリッドがヤバいってそう言うことか。ちょっと心配して損した。寧ろユーリッドがヤバいんじゃないか。いや合ってるけど、合ってるけど……!!!
なんか心配して損した。むしゃくしゃする。うーん。
「大体全部の罪を〈斧王〉に擦り付けて兵士に突き出して来たぞ。まあ問題にはなるだろうが……手を回せるほど時間もなかったし、一応帝国っつーか
「……大丈夫なの? それ」
「まあ、いざとなったら連絡してくださいってあの諜報員の秘匿魔石回線渡しておいたから何とかなるさ……ハハッ」
目が笑っていない。あのあと何やらユーリッドが彼に対してしていた。何してたかは気になるけど、きっとろくなことじゃないね。
……でも、あの諜報員には個人的にユーリッドに化けて出た時の件があるので、うん。
別に良いかな。
という訳で一件落着。取り敢えず宿に帰ってきた。
「…………」
ユーリッドは報告以降ずーっと窓の外を見て何か考えている様子で、なんだか話し掛けづらい。イルミアさんはイルミアさんでうつらうつらと眠そうにしているし、リースちゃんなんてバタバタとユーリッドの周りを飛び回っている。
「それで、いつ写真撮りましょう? 一段落したのですわよね? 行きましょう! ええ、行くのが吉でございますわ!」
「…………」
「ユーリッド様? もしや目を開けて寝ているのです?」
んなバカな。
(Zzz……)
「そんなバカな!?」
集中してユーリッドの思考を読み込んだら、どうも本当に寝ていた。つい叫んじゃった。
リースちゃんはむむむーって唸りながら呟いた。
「……これは、想定外ですわね……」
……そうだ。良いこと思い付いた。
「リースちゃんリースちゃん、カメラ、あるんだっけ?」
「ありますわよ」
そう言って小さなカメラを取り出した。科学魔法で撮影できるのであまり大きくないのだ。イルミアさんは完全に眠りの世界に落ちている。それらを見て思わず口許が緩んだ。
「それはいいね、折角だから寝てる間にさ、撮っちゃおうよ。この二人をいっぱい」
「良いですわね!!」
私にはユーリッド並みの魔法が使えるので寝てる間に色々出来ちゃうんだよねー、色々ねー。
ユーリッドには日頃色々思うところがあるのだよ。ふふふ、震えて眠るが良いユーリッド……!!
────勿論この後滅茶苦茶撮影した。
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