十四日目「ジュジュツシの館(呪術師が居るとは言っていない)」
遠くから未だに鳴り響く戦闘の音。時間を経る毎に顔色の悪くなるユーリッド。未だに〈呪術師の肺〉も〈焔精の舌〉も手に入ってない。
「ぜー、ぜー、何処まで行くんですの?」
この状況で能天気なリースちゃんがとても羨ましい。
「…………」
「ユーリッド」
「…………? ああ、徒歩で山越えだからな。結構歩くぞ」
「もう十分歩いたじゃないですのぉーーー!! いつまで歩けば良いんですの!!! 私、アナタ達ほど体力は無いんですわよ!! 無理!!! 体力お化け!!」
軍に従事していたからだろう。ユーリッドも体力はあるらしい。完全に一人遅れる形になっているのは確かに問題はあるだろう。
「……私の上で騒がないで」
──私におんぶされてなきゃ、その言い分はもっともだったと思うけど。
「ごめんなさいですの」
素直に謝ってくれた。しゅんとした顔、かわいい。
「そろそろお目当てのブツを持ってる魔物が居る場所に着くぞ」
そう言って、指差した先に見えたのは────大きな大きなログハウスだった。
「なにあれ」
「何ですの、あの建物」
「何って、あれが霊峰元名物〈呪術師無限湧きの館〉────〈呪館〉だぞ」
「へー」
「じゃあ開けますの────うぴぇ!?」
そう言ってリースちゃんが玄関に近付いた途端に扉が弾け飛び激突────無限湧きの通り、黒衣に白い仮面をつけた人型の魔物が溢れだした。
「「ジュジュツシー」」
「なんか滅茶苦茶火の玉投げてくるんだけど!!? てかなにこの鳴き声!! 鳴き声なの!?」
「「ジュジュツシー」」
「て言うか投げようとしたら見た目の十倍重いんだけど何この、何!? うわ!!? 爆発した!!?」
「「ジュジュツシー」」
「ユーリッドォっ!!! 助け、うわひどっ、生きてる……? あー、しんじゃったかー」
「生きとるわ勝手に殺すな……!! お前が倒した奴から片っ端から調べてんだよ!! どっかにねえかを!」
「ダイジュジュツシー」
「なんか違うの来たよ!?」
「殺れ!!!」
「わかった!!! おりゃあああああ!!!」
「ダイジュジュツシー……Die.jujutuseeeeee……」
「何なんですの、この光景……」
リースちゃんが傍観する中、大体一時間ほど戦闘は続いた。
「────あった!! 入り口を閉めてくれシェリーア!」
「わかった!!」
扉を錬成して館を封印する。恨みを込めて!! どっせーい!!!
っていうか……本当にここにいた魔物は呪術師で合ってたの? やたら固くて火を放つ生き物がジュジュツシーって鳴いてるだけだったじゃん。
「で、どんなのなの?」
「おう、見るか?」
「私も見たいですわね……」
そう言ってユーリッドが見せてきたのはチラチラと燐炎を散らす柔らかそうな質感の赤い楕円錐に近い形の……これは……?
「「舌?」ですの?」
「〈焔精の舌〉だな。三つくらい落ちた」
「ねえ、ユーリッド。〈呪術師の肺〉は?」
フ、と笑うユーリッド。
「ここじゃねぇけど?」
「………………っ」
ちょっとキレそうになった。名前詐欺やめてほしい。
「ジュジュツシーって言っていましたのに、呪術師じゃ無いんですわね」
「そう、なんかはぐれ精霊が旅人の口癖をコピーしてひたすらそればっか言うようになったらしいぞ」
「あ、そ」
心底どうでもいい情報をどうも。
「………………つーか先生、まだ終わらないんですか……」
…………ユーリッドがここじゃない遥か後ろを見て、そう呟いていた。
なんだか、やっぱりもやもやする。
◆◇◆◇◆
「………………さて、本音をいうと石膏像にでもしてやりたいところだけれど、氷像で我慢してくれ。もう聞こえてないだろうけどね」
「────。」
「まさか丸二日掛かるとはね。お陰でユーリッドの身の安全のためとは言え、大層手間をかけさせてしまった。じゃあね、平和主義の英雄────砕け散れ」
「────ばばーん、ってね!!」
「………………驚いた。芯まで凍っていたものだと思っていたのだけれど」
「そう簡単に死んでたら全裸で英雄なんてできないさ! さあ第二ラウンドだ、腰砕けになるまでヤろうぜ!!!」
「………………はぁ、心底嫌になるね」
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