三章:婚前旅行(霊峰編)
十一日目「パワーストーン」
予定通り、町に着いた。
ユーリッドはこの町でやることがあるって言って、どっか行ってしまった。いざとなればどこにいるか位私にもわかるし、別にいいや。
そんなことよりも切実なのは────
「お嬢様、こっちにきっと良いものがありますわ!! 行きますわよ!!」
────自称吸血種、我が家の新人メイド、リースハーヴェンがいつの間にか竜車の中に潜入していたことである。
ユーリッドは『お前の家のメイドだからじゃねぇか?』なんて誤魔化していたけど、あの夜の話はだいたい聞いている。
吸血種は共和国に居る人種のひとつ。王国の人とか、見つかっても別に捕らえようとか思ったりはしないけど、いい顔はしないだろう。そんな亜人種だ。
いや彼女がどんな人種であるかは些末な事。
それよりも問題なのは、あの発言だ。
『ズバリ英雄の血を求めて、ですわ!!』
いかにもお嬢様といった振る舞い、やや……いやかなり危なっかしい上に慌ただしくて、なんとも放っておけない子だ。治安もそんなによろしくないこの町で、彼女から目を離したらどっか引きずり込まれちゃいそうな。
理知的で思慮深くて冷静、何より強い私とは大違いだ。もしかしてこういう子の方が、男ウケが良いのかな。
ユーリッドは、どういう女性が…………。
…………いやいや、なに考えてるの私。
「お嬢様?」
「ん、何?」
お嬢様よりもお嬢様らしい立ち振舞いなのがどうももやもやする。私のそんな心情を知ってか知らずかリースちゃんが言った。
「さっきから喜怒哀楽百面相してますわね、何か悩みでも?」
「喜怒哀楽百面相」
「そ、そうですわ、ころころ顔色が変わってらしたので」
「喜怒哀楽百面相って何かな?」
「も、もうっ!! いいですわ! 先いきましょう!! 先!!」
リースちゃんはぷりぷり怒って、早足で先行していった。
……しまった。悩みの原因が原因なので意地悪してしまった。
「ちょ、待って、リースちゃん」
「待ちませんわ────あら?」
リースちゃんが唐突に立ち止まる。ある、看板の前で。
「占い……そうですわ! 英雄様に出会えるかどうか!! 占ってもらいましょう!!」
「そ、そうね……」
という訳で、〈占い銀蔵〉の暖簾をくぐり……暖簾?
「こまけぇ事は気にしたら負けだぜ、お嬢ちゃん」
「うぐ……」
まるきりおでんの屋台を改造した感じの雰囲気が微妙に出ない占い屋にそんなことを言われたくはないんだけど。
「はわぁ……」
リースちゃんがなんか満足げに見渡して席に着いちゃったので、私も渋々? 隣の席に座る。
「さてお嬢ちゃん達は何を占ってほしいんだ?」
白髪の恰幅の良いおじさんが水晶を人差し指に乗せてくるくるーっと横に回しながら聞いてきた。商売道具雑に扱ってるなぁ。
「で、でしたら、ぇぃゅぅ……様……に、会えるかどうか……」
リースちゃんがもじもじしながら聞いた。
「よしわかった恋愛運だな?」
ひょっとしてこのおじさん、滅茶苦茶適当だな???
「ぁ。じゃ、それで……」
リースちゃんが完全に恥じらい乙女に変化してしまっている。一応彼女は婚活に来ているわけだし、この反応は分からなくもない。英雄様、真横に一人いるけどね?
「よーし、じゃあ占うぜ?」
そう言っておじさんが取り出したのはカード。バラバラとそれを台の上に裏にして広げていく。
水晶は関係ないんだ!!!? ああ、だから雑に……。
「水晶が言うには『お前の目が節穴。灯台もと暗し。一生アホやってろ』だ、そうだ」
────って結局水晶なんだ!!!!!?
「さてはアナタ口が悪いですわね!!?」
「水晶の言葉をまるきりそのまま口にしただけだ。失礼と感じるなら図星なんだろうな」
「明らかに最後の一言は罵倒じゃありませんの!? 要りますのその一言!!?」
「かははは、よく見破った。そうさ、全部本音だ、慧眼だな、お嬢ちゃん」
「そうですの? ふふーん?」
その目やっぱり節穴だよ。リースちゃんの事誉めてる風だけど誉めてないよ? ちょっと、いやかなり嬉しそうにしてるけど、結局罵倒されてるんだよ?
「────あとそっちのお嬢ちゃんは……『婚期は絶対に逃がすな』だってよ。あとは『男運が最悪で、自分だけの判断で相手を決めると破滅する』って出てるぜ。気を付けろよ? 脳筋の癖にごちゃごちゃ無駄に考えてると行き遅れるぜ? すぐババアだ」
「ハァ? 失礼ね!!!! 叩ききってやるわ!!」
「わーー抑えて抑えてお嬢様!!」
「かははは、良い威勢だ、その意気で頑張れよ、マインスイーパー」
だぁれが!!! 地雷男処理機よ!!!!!! そんなわけないじゃない!! グランデくんの件はたまたまよ!!
そう何度も男で変な目に遭うわけ無いじゃないのよ!!! うがーー!!!
……………………ないわよね!!?
◇◆◇◆◇
「────やった着いたー、ママは何処かな?」
「────はよう手合わせしたいものだな、メイフィールドのお嬢様と」
「────あともう少しで彼女の体を改造する事が出来なくなる。それは惜しいと思わないかね、筋肉卿」
「────フンッ、フンッ!!」
「…………ハニー」
五人のヤバイやつが、霊峰の麓町に竜車で来ていた。騎手は高い金で不幸にもこの五人に雇われた男であり、なんとその男は股間を布で隠し、顔を鉄兜で隠した半裸男であった。
この場でもっとも常人な彼は背後、運ばれる四人の雑談を聞き流しながら天を仰いだ。
「…………帰りたい、な」
それは服を身に纏わない男の、繕うことのない心からの言葉だった。
◆◆◆◆◆
「そんな男運のないお嬢ちゃん達に朗報だ。男運の上がるネックレスがある。ひとつ、十万でどうだ?」
私たちは顔を見合わせた。
この手の物は十中八九偽物のクズアイテムだ。そんなもの、どうするか?
当然、その答えは決まっている────。
「買いますわ!!」「買うわ!!」
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