言葉という化物に呪われてしまった僕達へ。

ビス

第1話 言葉という化物に呪われてしまった僕達へ。

暗い所ばかりを覗いて

人生という暗闇に絶望したあの頃

この痛みが この苦しみが

紅い血を流しているんだと

枯れた喉で叫んでいた日々


誰にも聞こえていなかった涙に

アナタが差し伸べた心が

傷を撫でる感覚が今でも忘れられなくて

僕は生きているんだと初めて知った


生きる事が上手になった訳じゃない

ただ死に損なって 墜ち損なって

昔翼が生えていた場所を

鎖で繋がれて吊るされているだけなんだ


「命は尊いから」

そんな理屈で自由を圧し潰されて

僕にはもう僕の形なんて分からない


今になって気付いたんだ

アナタと一緒に居たかったこと

生きたかったこと

どんなに世界が冷たくたって

繋いだ指の温もりは確かだったこと

それをアナタに伝えたかったこと


名前を探す必要も 輪郭をなぞる必要も無く

この棘だらけの世界で絆創膏を貼り合いながら

痛い時に痛いって 辛い時に辛いって

零れる音を拾って見せてくれる

アナタの温度が必要だった

それさえ分かち合えていれば良かったのに

それさえ分かち合えない程に

出鱈目にナイフを振り回すことしか知らなかった


アナタが居た所には、今でもアナタ分の空白がある

色んな思い出が壊れて散らばっているのに

その破片はどれもキラキラと輝くものだから

どうしても片付けられないまま

ずっと立ち尽くしてしまう


深い闇に慣れ過ぎてしまったこの眼では

もう明るい場所は見れないけれど

どうかアナタが日向で笑っていますように

どんなに辛く雨風が当たっても

アナタを繋ぐ手に温もりがありますように

僕があの日思った様に

生きたいと思えますように


アルコールに身を浸して

夢と現の間を彷徨って

もう死んでいるのか まだ生きているのか

境目も覚束ないまま転がっている

醜い僕のことなど見えないままでいて欲しい

多分、勝手に薄弱になって

多分、勝手に誰かに紛れていくから

祝詞も怨嗟も同じ色に為る場所に

曖昧に分解されるだろうから

祈らないで 忘れてしまって

泣かないで 笑っていて


キラキラと注ぐこの冷たさに呼ぶ名を宛てるなら

『鎮痛剤-モルヒネ-』

そう付けよう

身体を這うチューブから注がれるそれによって

きっと僕は生かされている

アナタの残像を 偽りの温もりを注がれて

僕はまだ 酸素を吸っている

酸素を吸っている

酸素を吸っている

酸素を---。

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言葉という化物に呪われてしまった僕達へ。 ビス @vis0501

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