第2話 バイト日常 その1

 午前の授業が終わり、バスに乗って近くまできて、ぼろいビルまで歩く。

 別にわくわくすることもなく、気が重くなることもない。

 大学生活にどこかで期待してたような気もするが、そもそもバイトが中心になるだろうと最初から思っていたから、それほど期待していたわけはない。

 ほとんどの学生はこんなもんだろう。遊んでるのは一部で、目立つのも一部さ。

 

 大学の授業はできるだけ午前中に集めるように教科を選択した。

 午後から夜にかけてはバイトを入れるつもりで、最初からそうした。


 ビルの階段を登りながら、今日もあの妙な収支を整理するのかと思うと、少しおかしく思う。

 経営コンサルタント料の収入などに交じって、犬の散歩料とかが振り込まれている。

 次に何が出てくるのかと気になる。


 静かなビルで足音がよく響く。ドアの近くまで来ると社長のラジオかテレビの音が漏れ聞こえる。

 ドアをノックすると中から。

 「どーぞー」

 社長の声がする。


 「おはようございます」

 挨拶は全部、これにした。


 社長は眺めてた雑誌から目を上げて、軽く手をあげる。

 「今日もよろしくねー」


 社長はどうやら午前中に仕事を集めるタイプの人のようで、午前は電話のやり取りや訪問者が案外な割合で来る。一転、午後からは書類やら分厚い何か難しそうな本を見ていることが多い。

 なぜか今日は、コンビニにあるヤクザの組長がどうのとか書いてる雑誌と、オカルト雑誌を熱心に読んでいる。他にもそれらの関連の単行本が積まれてる。ほか、異常心理がどうとかのもある。

 そんな趣味があるようには見えなかったが、人は見かけに寄らない。話を振られても対応できそうにないので、そそくさと自分の机に向かう。


 領収書やら請求書、受領書etcが積まれた机に向かう後ろから社長の声が、

 「お客さんに貰ったケーキあるから、一時間ぐらいで休憩入れてくださーい」

 了解の返事はしたものの、まだ慣れてないので、準備して波に乗り始めるに時間がかかる。一時間では区切りが悪いが仕方ない。

 ショートケーキ系だろうか、モンブランもいいな。


 社長お手製のマニュアルを広げながら、書類を分類していると、社長がまた声をかけてくる。


 「今度、相談を受ける仕事があるのだが秘書という事にして一緒に来てくれないか」


 突然何を言い出したのかと。

 「わたし、会計の手伝いしかできないので・・・」

 

 社長の表情を見る分には本気の様子。

 「一度、相談を受けていて大体終わっているので、ちょっと話すだけで終わるのだが、女性の視点でどう見えるか教えて欲しくてね。あと、バイト代上乗せするが」


 とっさに答えたのは仕方ない。

 「上乗せっていくらですか」

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