第690話 人の跡

 クリスを通してイーズ家と何度かやりとりして数日後、俺の土地になることが決定した。


 イーズ家のほうでヌークおじさんの家の場所を把握してなかったので、ちょっとかかった。天然落とし穴のせいで人が寄らない場所だからね。


 ハウロンに出来上がったら見せると約束した。過程もすごく気になるみたいだったけど、なにせハウロンは忙しい。レッツェに手伝ってもらう約束はしてるし、普通なはず。


 で、まずは改めて鍾乳洞のチェックから。


「洞窟探検、浪漫だな! でもちょっとぬるつくの苦手だ!」

相棒はエクス棒。


 浪漫というか、鍾乳洞があるんじゃ、今ある穴以外もずぼっと貫通しそうだし、家の周辺地下にかかっていないか確認しないと危ないからね。


 精霊たちに聞いた入れそうな地上に開いた穴の前、まずは普通のランタンを用意します。


「ご主人、俺が光ろうか?」

「いや、光源じゃなくって、悪い空気検査」

聞いてくるエクス棒に答える俺。


 火をつけたランタンをエクス棒に持ってもらって、地面ギリギリの場所へ。これで消えたら洞窟内部も二酸化炭素充満中だ。まあ、ぼこぼこ穴が空いて地上に繋がってるし、大丈夫だとは思うけど一応ね。


「人間に悪い空気があると火が消えるんだ。大丈夫なようだし、いざ出発!」

「おー!」


 勢いよく足を踏み入れたけど、少し進んだらすぐにじめっと。鍾乳洞って水の侵食でできてるわけだからしょうがないんだけど。


「ご主人、ご主人。ぬめっとするぬめっと!」

エクス棒が笑い半分泣き半分。


「コンコンしないで進もうか。かわりにランタンよろしく」

「おう!」

そういうわけで今回は石突でコンコンせずに、エクス棒にランタンを持ってもらって、俺の胸より下の先を照らしてもらっている。火が消えたら危険信号ってことで。


 灯りについては夜目がきいてしまうので不要なんだけど、雰囲気はこっちの方が出るよね。


 ――精霊に名付ければ地図は簡単にできてしまうんだけれど、雰囲気ですよ雰囲気。


「進む難易度高いなあ」

ツルツルな上に表面に薄く水が流れている。それに滑り台とまではいかないけど傾斜してる。


 水の流れは俺の進んでる方、そっちが深くて……多分、メインの広い洞窟があるんだと思う。人が入れるような入り口は今俺が進んでるとこと、あと1箇所。


 水の音が大きくなったかと思えば、予想通り広い場所に出た。天井が高い、高い天井から日が射しているところがいくつか。


 穴ですね、穴。


「伸びればいけるけど、毎度伸びるの面倒そう!」

穴を見上げてエクス棒。


 たぶん、地上の穴に突っ込んで、ここまで届いて何がぶつかるかの調査(?)の話。


「穴に当たりハズレもなく結果は深いか浅いかくらいだね。この洞窟につながってない穴もあるだろうけど」


 下は結構な勢いで水が流れている。たぶんこれ、麓の川に続いてるんだろう。ちょっと奥に地底湖があったのを見て地上に戻る。


「狭いところから広いところに出ると、開放感ある!」

「うん。外の方がいいね」

外の空気、弱いけれど明るい日差しの中エクス棒と一緒に伸びをする。


 ちょっと冷えたね!


 洞窟は非日常感がいいのであって、ずっといたいとは思わない。短い時間なら楽しいけどね!


 戻るのが面倒で、天井の穴から出てきた。見渡すと場所は山の中腹よりやや上くらい。


 出来上がった洞窟地図と地上の地図を合わせれば、俺の家予定の廃屋からは離れている。


 徒歩ルートだと洞窟の上を通るか、反対側から山頂を越えてこないとダメな感じ。


「一応、洞窟の上でも丈夫そうなルートを確認するか。他の穴もあるし」

「ガサガサするぜ!」


 ってことで、ランタンをしまって今度は地上をガサゴソ。


「……」

「ふんふんふん」

穴が少なく良さげなルート。


「もしかして、ヌークおじさんが安全な道は調べ済みだったかな?」

「何だ、ご主人?」

「なんか人の痕跡がある」


 歩きやすいように石を据えた跡とか、削った跡とか。しかも整備跡は通ろうと思って近づかないと気づかれないように。


 ずいぶん古い物だし、あの廃屋の持ち主の仕業だろう。


 随分な人嫌いだったみたいだ。いや、もしかして追ってでもかかってた?


 あとで語り部にヌークおじさんの話をねだろう。


 廃屋まで辿り着き、きた道と風景を眺める。起伏のある丘が続くが、高い場所はこの山脈だけ。


 残念ながら薄曇りだけど、見晴らしいいなあ。


 この島の天気は、今みたいな春の薄曇りのような日が多い。


 ただ、雲が晴れる時も何回かあって、一日中曇ってるってわけでもない。雲が晴れるとすごく爽やか。


 春から初夏にかけては雲がない時間の割合が多いって。


 しばらく過ごせば輝く丘陵が見られるかな?

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