第658話 丸いかな?
やってまいりました、ドラゴンの大陸。ドラゴン落ちてないかな? うん、落ちてないね。
今日は、ドラゴンはついでです。まだ骨はあるけど、小まめに見回ってドラゴン拾わないとね。
ここは素通りしてさらに南下する。多分ね、この世界も丸いんだと思うんだ。円盤だったり象が支えてたりしない感じの。
ただ、証明は難しい。
だって、内海での陸の見え方の遠近はおかしいし、月に落ちる影だって精霊の影響で別なものになることがある。
月食のときの影の形、水平線の先への船の消え方、日没後も高い山の頂きや雲が太陽に照らされてること――全部イレギュラーが存在する世界なんで。
でも南下してドラゴンの大陸に来たら風が轟々と吹いているし、さらに南下したら南極的なものがあるかなって。
南回り一周計画です。
最初東を目指してたんだけどね? こっちの方が進んじゃったっぽいから。こっちの方向は荒涼とした場所が多かったんで、たくさん進んだんですよ。
東回りはメール人もいれば遺跡もあったんで、寄り道がひどかった。
日本がどんっとあるのを期待してるわけじゃないけど、気候的に近しい場所に行き着いたら、山や島周辺で定着してくれない野菜や果物がいけるかなって。
そういうわけで東は東で回るつもりだけど、とりあえず丸いかどうか確証を得とこうかと。
精霊に名付けながら、距離を伸ばしてゆく。1分だっていたくないような厳しい自然環境、体の周りにいつもの丸い空気の層を纏って移動中。
新しい大気や風の精霊に会うたびせっせと名付ける。他の精霊と違って、風の精霊は場所を変えることを厭うことはないけど、やっぱり進みづらい方向や場所はある。
でも空がつながるところで、空気がないなんてことはないから、新しく出会った精霊に同じように守ってくれるようお願いしている感じ。
で、ドラゴンの大陸を超えた先、海の向こうに灰色の陸地を発見。
遠目にもアホみたいに吹雪いてるんですけど。雪が降ってるわけじゃなくって、風が強くて大地に積もった雪が撒き上げられてる。
離れて見いてるからわかるけど、中に入ったら降ってるのか、そうでないのかきっと判別つかないな。エスの砂嵐、雪版って感じ。
俺の下の海も怖いくらい揺れてる。
波があるなんてもんじゃなく、盛り上がり盛り下がって捩れる海面が山と谷のよう。
海から切り離されて、空に舞った飛沫が凍って、また海に落ちてゆく。
俺の周囲を巡る空気の層に阻まれた水滴も、あっという間に凍って薄氷を作っては海にパラパラと落下する。
地球の南極付近がどうなってるかわからないけど、海の中になんかすごくのたうってる巨大な精霊が見える。
見えるというか精霊の存在を感じるのかな? 深い海の底にいるはずなのに、はっきりとは言わないけど、浮かび上がって見るよう。
白くて、全体的にぬめんとしていて表面が溶けかけたアイスクリームみたい。上半身は人間っぽい――上半身というか肩の作りが人間ぽいのか。ぬんめりとけてるけど。
頭っぽいところには側面に黒い穴のようにも見える目が8つくらいずつ並んでいる。白目が時々見えるんで多分目だと思うんだよね。
目が合わないようにしないと。
……手遅れでした。
さっきから咆哮を上げているようにも見えるんだけど、声は聞こえない。いや、この巨大な波の音が精霊の声なのかもしれない。
というか攻撃されてるんですが。荒ぶる精霊は結構いるけど、対象を定めて荒ぶってくるのは珍しい。
慌てて逃げ――られない!?
荒ぶる海が降らせる雫は、俺を守る大気の精霊達を邪魔し、切り離す。
風の精霊達、冷気の精霊達が冷たい吐息を吹きかけ、雫を凍らせて海へと返す。
冷たい海はそれでも細かな氷を溶かすし、何より尽きることのない海水が次々と飛沫を作り出す。
大気や風の精霊たちにだけでなく、その飛沫や波の精霊達にも名付け、対抗。
もういっそ荒ぶってる精霊に名付けてしまおうかと思うけれど、相手は深い海の底。
間に幾多の精霊。しかも名付けた側から波と風に攫われるてゆく。
これはもうぼちゃんして近づくしかない? 大気の精霊たちが完全に引き剥がされてしまったら、閉じ込めていた暖かい空気がなくなって、かなり寒いことになるけど。
周囲の海水の精霊に名付けることはできるし、海水の中には空気も溶け込んでいるから呼吸は問題ない。
この体、寒さにはどれくらい強いんだろう? 強くても寒いのは嫌だけど。
新しい精霊に名付け続け――声に出さなくても、従えと強く念じれば俺に従ってくれる――、守りの層は玉ねぎみたいに多重にして、剥がされても全部剥がれ切る前に作ってけば大丈夫かな?
このままここにいてもしょうがないし、仕方がないので深海ツアー再びです。
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