第645話 見られてた
物質界を豊かにすること、精霊と契約して保護すること。
俺が精霊のほうに引っ張られないように、島とか色々発展させる方を多めに。精霊の契約と黒精霊との契約の割合は、9対1くらいに。
契約で黒精霊の痛みを和らげられるなら、というもあるけど、黒精霊の持つ思いが人間っぽいので取り込んだ方がいいような気もしている。
利用するとさらに繋がりが強くなってしまうので、魔法で黒精霊使うとか、魔物を使役するとかはなるべく避ける。人間に利用された一つの結果が黒精霊だから、さらにその存在を強めてしまう。
後、単純に禁忌のようです。
「だいたいこれで良さそう?」
「あとは風見鶏の角度を修正すればいいわね」
俺の問いかけにハウロンが答える。
「この国で昔使ってた『旅人の石』が欲しいんだけど、どの辺にありそうとか分かる?」
「……」
俺の問いかけにハウロンが答えてくれない。
「初志貫徹するのだな」
「そういえばジーンは、『旅人の石』を集めるためにここまできたのだったね!」
アッシュとクリス。
「……あるとすれば船のあった港か、この中庭の真下の宝物庫。北の民と交易していたはずだから、そっちの方が安全で残っている確率が高いんじゃないかしら?」
「なるほど、ありがとう」
ハウロンの答えに納得する俺。
そうか、船乗りの石だもんね。北の民の、交易の島に行ってみよう。ここじゃなければ海の底に沈んでいても、精霊の助けを借りられるし。
懐かしいな、ムキムキ半裸に毛皮羽織っている北の民の市場。ついでに買い物もしようか、またじゃらじゃら金の装飾品つけていかなきゃ。
「風見鶏の方向を変えて、さっさと帰ろうぜ! ここは湿っぽくて好かない」
ディノッソ。
「そうだな」
レッツェ。
「全面的に同意いたします」
執事。
ということで、風見鶏。
【転移】で風見鶏がついている家に向い、一応魔法石に異常がないか確かめる。
俺とアッシュ、レッツェと執事、ディノッソはまた【転移】で広場へ。ここでランタンを掲げて方角を合わせやすくする役目だ。
風見鶏を直すのは、縦方向の移動も入ってくるし、ランタンからはみ出ちゃ困るので大賢者の伝説の現場を見たいディーンとクリスに任せた。ハウロンはもちろん監修役でそっち。
アッシュが真面目な顔で微動だにせずランタンを掲げている。
自由の女神っぽいね、あれが掲げているのは松明だけど。ソフトクリームっぽいあの火は『自由』を表している。ちなみに純金だそうです。
どれどれ、反転した『王の枝』はどうかな? ちゃんと勘違いしてくれそうだろうか?
気配を探るため、そっと地面に手をつく。
……。
いや、待って。
流石にこの黒い影の元締めみたいなのと契約したくない。あ、ちょっと! やめろ、出てこないで! アッシュとみんなを巻き込む!
俺が悪かった! 覗くのはダメでした! 分かった、分かったから!
「どうした?」
レッツェが聞いてくる。
「この下の宝物庫、どうなってるんだろうって。あとアッシュが格好いい」
流石に誤魔化しました、やる気になれば表情は作れるんです。
『王の枝』3本目。反転してるけど。
『深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ』byニーチェ。
これだけ島中でバタバタやって、黒い影を追い立ててたら、そりゃ気づくというか、ここの黒精霊は全部『王の枝』の眷属なんだろうし話がいくよね……。
契約のチャンスを窺っていた感じ。魔の森の黒精霊と違って、ここで俺の契約した黒精霊は、反転した『王の枝』の眷属で繋がってる。たぶん、契約すれば少しだけだけれど楽になることが伝わった。
逆に俺を取り込もうという気配の方が強かったけどね。受け入れろって圧が、攻撃にもなってた感じ。
魔力的には間に合ったけど、早く物質的に安定した場所――カヌムに引き上げたい。ウフやセイカイほどじゃないけど、割と大きい。大きいというか、なんか重い。
黒精霊、今までむぎゅっとできるやつとか、半分なりかけの馬としか契約したことなかったんで、だいぶドキドキしたし、今も大丈夫かドキドキしてる。
『怪物と戦う者は、戦ううちに自分も怪物とならないように用心した方がいい』という前文が頭を過ぎる。
「お? 合図だ」
ディノッソが言う。
風見鶏の家の方角で、灯りが大きく振られているのが目に入る。
「はい、はい。お迎え、お迎え」
何事もなかったような顔をして、【転移】。
無事、みんな揃ってカヌムへ。
「いやー。壮大つーには、やったことが地味だったな」
ディーンが言う。
「色々掘り返しただけだもんね」
地味でした。
「せめてやっぱ、風見鶏は矢で狙いたかったぜ!」
弓を引く真似をしてみせるディーン。
「直接動かせるならその方が確実でいいだろ」
レッツェ。
「うむ。これで船舶の事故も減る」
アッシュ。
カヌムの借家の井戸端で、順番に手を洗っています。
「過去、近づけずに苦労したのに……。これも記録しておかなくちゃ。ジーン、よければあのランタンの魔法陣、書き写させてくれないかしら?」
ハウロンは賢者の塔に資料を溜め込む作業に入るようだ。
沢山資料残して、子孫に尊敬されてください。
「いいけど。ガラス代わりの宝石持ってきてくれたら現物つくるよ?」
「ドラゴンの守る宝なんて、持ってこれるわけないでしょ!」
宝というか、巣材だったけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます