第636話 古地図
お弁当を食べ終えて、腰を上げ魔法石の点検に。12個あって、4個は集まっているというか、王宮の庭にあるそうだ。
流れでいうなら真下に『王の枝』があるな? さては? 大抵宝物庫にしまわれてるものだって聞いたし。地下宝物庫の予想。
「どのへん?」
ピクニックではなく、真面目に点検するので【転移】で移動する方向。
ここの詳しい地図がないから、見える範囲に転移して、また転移みたいに繰り返す予定だ。転移先に穴があったりしたら嫌だし。
この国の首都って、地下道が張り巡らされてるのかな? 大規模な下水って線もあるけど、とにかく地下に空洞があって、石畳が崩れてるとかが多いんだよね。俺が最初に行ったとこなら、地図が埋まってるしいいんだけど。
ここに名付けられるような精霊がいないので、実際行ったところしか地図が埋まらない問題。いや、むぎゅとして名付ければいけるんだけど、ここの精霊は魔の森の黒精霊よりちょっと気持ちが悪い上に、むぎゅっとやったらレッツェたちにお叱りをうけそう。
「風見鶏は最後かしら? 中庭の魔石を最後にしたほうがいいかしら。一通り『滅びの国』関連の資料には目を通してきたけれど、ちょっと島の形も都市の形も微妙に違うのよね……」
難しい顔をして地図を睨むハウロン。
見ている地図はハウロンの持ってきた古い地図。ハウロンのご先祖様の残した遺産。ただ、地図から地形が少し変わっているんで、見ても俺の地図が埋まらないんだよね。それくらい昔とずれてるのか、地図描いた人がいい加減だったのか。
「ご先祖さまが魔石を設置した時、外周は今よりは安全な場所だったらしいけれど、ここの黒い影も、取り込まれて黒く染まった精霊も、長い年月の間に増えたの。おそらくどこもかしこも危ないわ」
ハウロンが言う。
ハウロンによると最初は町中だけだったらしい、黒い幽霊がいるの。
「古そうな地図だな、一体いつから一族で賢者続けてるんだ?」
似たようなことを思ったらしいディノッソがハウロンに聞く。
「ハウロンの前の賢者の話は聞いたことがないよ!」
クリス。
「父の名が表に出ないのは、単に人前に姿をあまり見せなかっただけ。賢者と呼ばれ始めたのは火の時代が終わって暫くしてからかしら? その前はティルドナイ王に仕えて――それ以前のものは残されたものにご先祖自身のことがなかったからわからないわ。途中も何年か資料が抜けているしね」
「物持ちいいな!」
ディノッソの隣でびっくりしているディーン。
微妙に感想がずれている気がするけど、確かに散逸させずに代々継いできてるのすごい。途中抜けてるのは整理整頓苦手な賢者がいる?
「塔があるのよ。内緒だけど、血のつながりのある者しか入れず、先祖の遺産のある上階に行くことができるのは、後を継いだ一人だけっていうのがね」
ハウロンが肩をすくめる。
「え、じゃあ後継者どうするの?」
ハウロンって子供いるの? 血縁者ってことは、ただの弟子じゃだめってことだよね?
「――【転移】も血を引いていないとダメだったよな?」
レッツェも気になるようで、ハウロンに問いかける。
「アタシが死んだら血族たちが塔に入って、そのうちの1人が全てを継ぐわ。一番有望なのは姉の孫の一人ね」
「お姉さんいるの!?」
姉の存在に驚く俺。
いや、俺だけじゃなく、全員ちょっと驚いてる。アッシュは除くけど。
「アタシより元気よ。賢者じゃなく、魔女って呼ばれてるけどね。ちょっと性格に難があってね……」
ハウロンが片手で頬を押さえてため息を一つ。
「もしや魔女アステリアのことでしょうか?」
執事が聞く。
「そうよぅ。あんまり血が繋がってると思われたくないけど。でも孫は普通の引きこもりよ」
普通の引きこもりっていったい……?
「普通じゃない引きこもりがいるの?」
「姉が普通じゃないわね」
普通じゃないのいた!
「へえ……」
どう普通じゃないのか聞きたいような聞きたくないような。
「ジーンにはアタシの集めた資料を全部あげるわね。ご先祖のはあげられないけど」
「何で? 塔に入れるんじゃないの?」
そういう話だったよね?
「あら、王をお救いする頼み事をした時に、約束したじゃない」
「見せてもらえたら嬉しいけど、もらうのは遠慮する。だいたいその頼みって、結局する必要がなかったやつじゃん」
俺がもらったら、ハウロンが資料の保存ができない怠惰なご先祖になってしまう。
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