第485話 巻き添えにする

『この黒いドラゴンの魔石も返した方がいい?』

黒いドラゴンの魔石についても一応確認。


 たぶん竜玉が黒い精霊に染まってるのか、一体化してるのかだと思う。だって、玉みたいなのは魔石これしかなかったから。


『不要。もはや竜玉ではない不要』

産み直して魔物生まれても困るし、ドラゴンの答えは順当かな。


 なんかこう、我が子というか竜玉に執着してる感じを受ける。それで、変質してしまったら興味を失う感じ? 死んでしまった状態の体も含めてもうどうでもいいというか。


『竜玉減ったら、最終的にドラゴンも減らない?』

『竜が持つ一つではない。一つではないが、一度に二つ持つことはない。子が自我を持つと、我と竜玉は分たれ、新たなる竜玉を授かる。ただ、番うために死ぬドラゴンが多い。私もその時がくれば雌雄を決めるため全力で立ち向かう』


 うーん? 我の時はドラゴン全体のことかな? で、戦って強い個体と番うのかな?


『勝った方が竜玉を得る。勝った方が相手の竜玉を譲り受け、卵を産む』

『……なるほど?』

ドラゴンの結婚事情、人間にはちょっと複雑っぽいぞ!? いや、単純か? 後でハウロンに聞いてみよう。


『様々ある、ドラゴンにも様々ある。長じて自我を得るモノたちは概ね一緒だ』

『ありがとう。とりあえず個体数が減ったら減ったままってことはないんだな、安心した』

なんかカーンと国の話をした時、昔と比べて減ってってるような感じだったし、ちょっと心配した。


『望み。何か望みはあるか、人の子よ』

『いや、ドラゴンの体もらったし、特には――ああ、ちょっと帰る時にあの島の青い屋根の建物の中を覗いてくれる?』

『青?』

オレンジ色の素焼きっぽい瓦が並ぶ中、商業ギルドの建物と、海運ギルドの建物は、最近釉薬を使ったカラフルな焼き物に葺き替えた。


 どっちも青なのは、鮮やかな青が流行ってて高いから。流行らしたのはソレイユだけど。流石に瓦は鮮やかとまでいかないけど、オレンジの中ではすごく目立つ。


『あの、船がいっぱいある場所に近いとこの、一番でっかい建物』

ドラゴン、色わかるかな? 精霊がカラフルだからわかると思うけど。


『それだけ。それだけでよいのか?』

『うん。なるべく壊さないように頼む』

ドラゴンに覗かれた仲間をつくっとかないとね!


『努力、努力しよう。理由もある。古の約束で北の大陸の上は理由なく飛べぬが、海に隔たれる島は可能だ。私の鱗を一つ。何かあれば呼べ』

そう言って、鱗を一つ落として飛び去った。ナルアディードの方に。


 速い、海面が船の軌跡みたいに波ができてるし。大丈夫かな? おお、船は無事というか、スピードを出さなければ風の精霊が体を覆って浮いてる感じなのか。


 よしよし。あとは両方のギルド長が、びっくりしてぎっくり腰にならないことを祈るだけだ。いや、なっても佩玉あるからセーフ。


 それにしても、ドラゴンは『家』とかカヌムとかがある大陸は飛べないことになってるのか。


 鱗を拾うと、小さな風の精霊付き。なるほど、これで呼びかけたら精霊を通してわかる感じなのかな? 風の精霊にも増えるタイプいるんだ?


 塔に【転移】。騒ぎになってるだろうな……、と思いながら扉を開ける。


「うをう!」

扉を開けると、ソレイユが倒れていた。


 ファラミアが差し出したらしい、クッションが頭のところにあるけど、思い切り地面だ。


 塔の周辺は蔓薔薇の棚の下とかは模様になるように並べられた石畳なんだけど、倉庫の前は荷馬車のために土なんだよね。石畳は車輪が滑る。当初の予定と違って、薪や小麦以外のものを詰めてるせいで荷馬車は使ってないけど。


 まとめて運ぶなんてもってのほか、揺れなんかもってのほか、手運びじゃないとソレイユが絶叫する。


「無事か、なんだあれは説明しろ!」

「我が君、ドラゴンと交流があるとは知りませんでした」

キールとアウロ。


「ううう」

ソレイユ。


「交流はなかったんだけど、さっきできた。まあ、もう来ることはないと思うし、ナルアディードの商業と海運の両方のギルドも覗いてったみたいだから……」

ここだけじゃないので、お問い合わせはナルアディードに押し付けてください。


「ううう」

「……事情を確認して、後で説明するからと他は解散させたがさっぱりだ。もう突然アレが来ることはないんだな?」

うめいているソレイユの代わりにキールが確認してくる。


「縄張りあるみたいだし、突然来るってことはないと思う」

呼べば来てくれるみたいだけど、突然はないです。たぶん。


「とりあえずこの透彫やるから元気出せ」

ソレイユの枕元(?)に、黒いドラゴンの外殻を置く。


「これはまた、見事な」

ほうっとした顔をするアウロ。


「黒いドラゴンの外殻に、地の民が綺麗に透彫を入れてくれた」

「うううううううっ!!!!」


 ソレイユがクッションから顔を上げないまま、ごそごそしたかと思うと、ハンカチ――うちの染物の青い布だ――を取り出し、手袋をはめ、そっと外殻を布の上に移す。


「無理……」

そしてまたクッションに顔を埋める。


 起き上がる気はないようだ。

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