第261話 カーンとの夜の会話
「む……トカゲ君の皮でもちょっとひんやりするな」
防水なんだが、横になると肩とか尻とか体重がかかる接地面が若干ひんやりする。
「普通とは雲泥の差なんだがな……」
「うむ。十分快適だと思うのだが」
レッツェとアッシュ。
「あんまり中身を詰めすぎると持ち運びがかさばるし、難しいな」
キャンプならばウレタンマットにアルミシート、森ならば落ち葉やコケや杉の葉とかを敷くところだが、ないしな。
「なんだ、寒いなら添い寝してやろうか?」
笑いながら言ってくるディーン。
「いらん。いざとなったら暖房はある」
「あるのかよ」
即答したらレッツェからツッコミが入った。
ローブコートに冷暖房完備です。同条件で進むつもりなので、今は使ってないけど。あとアッシュ、布団めくった状態で憮然とした顔するのやめてください。自分の性別思い出して……っ!
執事がそっと布団をかけ直してアッシュをしまう。
本日の見張り番はディノッソ、カーン、俺、執事、アッシュで交代。黒精霊が出たら、クリスとディーン、レッツエでは見えないからだ。
カーンは寝溜めができるらしく、普段はほとんど睡眠をとらなくてもいいんだけど、そこは頼りきりにはしない方向で。
俺は見張り番したら家に帰ってリシュの散歩なのでさっさと寝る。獣の気配に怯えて寝た日々に比べたら快適なので普通に熟睡できる。
完全とまではいかないまでも遮熱機能ついた素材ないかな? ついてるとしたら寒いとこの素材か。あれ、エクス棒の実家周辺の魔物素材があるような? よし、帰ったらチェックしてみよう。
などと考えているうちに眠くなった。おやすみなさい。
カーンに起こされ、のそのそ交代――だがカーンは起きている模様。
「寝ないのか?」
「寒いからな」
……。
「早く言え!」
そう言えば砂漠在住だったよ、この人! というか、寒いのになんで半裸っぽい格好なんだよ! もしかして酒をかぱかぱやってたのは寒いからか?
正しくは半裸にマントを羽織ってる感じ。
「魔石持ってるか?」
「あるが?」
マントを奪って俺の封筒型の寝袋を開いて被らせる。あーあー、【収納】は使わない方向なんだけど、インクとペンがない! いや普通のはあるけど。
ああ、とりあえず一週間くらい持てばいいか。燃料の節約のため細々と火を保つ焚き火台に手を突っ込んで、指先に炭をつける。
描くのは暖房の魔法陣。いや、正式にはそんな名前じゃないけど。ペンがないせいか、いつもより流す魔力が安定しないが、まあしょうがない。
慎重に描いて、続いて魔石から魔力を流す陣を描く。んで、あとは普通の針と糸でちくちくして魔石を入れる小さなポケットをその陣の上につけて完成。
「ほら、ここに魔石入れて着てろ。帰ったらもうちょっと
マントを突き出す俺に、片眉を上げて黙って受け取るカーン。
太い指で器用に魔石を扱って、セットして羽織る。
「――即席でこれができるのか。お前は俺の主人のはずだが、代わりに見張りを命じて寝ていたらどうだ?」
「パス」
「よくわからんな。力もある、資格もある、王になりたくないのか?」
「面倒」
精霊や黒精霊みたいに完全放置してていいならなってもいいけど、はっきり言って人の王になっても意味がない気がする。島だって社交というか人間関係はほとんど丸投げなのに。
「男子の本懐だと思うが」
顎にてをやりひと撫でするカーン、ヒゲが伸びたのか?
「俺だって寒がりなのに半裸で寒いところについてきてるのわからん」
「特に動けんわけでもないしな。動く時につれたり、張り付いてくるような服は好かん」
価値観の相違が。そういえば日本でも上だけ厚着して、頑なに下が短パンなヤツがいたな。
俺の視界に不条理に死んでいく人や、不快な環境にいる人がいなければ、あとはどうでもいい。逃げる準備をしながら人と関わっている。
一人の時は好き放題してるし。そしておそらくそれを知ってて、ここにいるみんなは普通に過ごせって言ってるんだと思う。なんかカヌムから離れている時間が長いと、自分が人間なのか怪しく感じる時がですね……。それはそれでいいかとも思うんだけど。
ぐるぐる考えつつ、生地をこねる俺。朝ごはんはオリーブの実とドライトマトを入れたフォカッチャにしようかと。フォカッチャは卵も牛乳も使わない、平たいパン。
30度で1時間ほど、倍に膨れるまで一次発酵。ガス抜きしたらもう一回発酵。とりあえず一次発酵をさせて、リシュの散歩に行ってる間に二次発酵の予定。
「ちょっと失礼」
カーンのマントをめくって一次発酵のポジショニング。この辺の温度がちょうどいいだろうか。
「お前、下僕の使い方がおかしい」
なんかカーンが言ってるけど、下僕じゃなくても使えるものは使うぞ。
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