第250話 城塞都市で買い物
貸し馬屋にルタを預ける。
「厩舎から脱走したり暴れたりするけど、よろしく」
なんか引きつってたけど、少々多めに預け賃を渡したら愛想よくなったので大丈夫だろう。
次に宿に行って、荷物を預ける。宿の主人に少々小銭を渡して、部屋の出入りを気にして欲しいと言付ける。貴重品はもちろん持って出るが、重いものは部屋に置いてゆく。鍵はかかるけど、宿でのコソ泥は多いのだ。
レッツェの手配した宿はアッシュに気を使ってか、上の下くらいのけっこういい宿でふた部屋。普通の冒険者はもっと狭い部屋で雑魚寝が一般的だ。
部屋にベッドは二つ、アッシュと執事に俺とカーン。俺とカーンは床だな。こっちの世界の宿に一人一部屋とか、人数分のベッドとかを期待するのは無駄だ。宿も泊まる側も普通は詰め込めるだけ詰め込む。
シーツも洗いたてだったし、マットレスがわりの藁束も新しかった。マトモな宿の中でもいい宿だ。それでも虫が嫌なんで、そっと皿に乗せた虫除けを置いてきたけど。
外出の目的はカヌムからここまでの移動で消費した食料を買い足して、夕食を食うこと。
冷静になって見た城塞都市は、なかなか栄えているようだ。カヌムより人が多く、冒険者も装備が整っているし、身なりのいい人が多い。店も多く、広場で芸を見せて稼ぐ奴までいる。石畳は整えられ、目につく範囲に空き家もなかった。
ただ、路地に目をやると、やせ細って力なく壁にもたれる人や、目だけがギラギラしてる子供がいる。当たり前だが、ここに住むすべての人が幸せとはいかないようだ。
冒険者がよく行く通りには、店に森や迷宮に持ってゆくための物がたくさん並ぶ。茶色い燻された魚が吊るされ、種類ごとに箱に入れられた干し肉。束ねられた薪に固焼きビスケット、チーズがたくさん。
帽子に
「お前、そんなに買ってどうするつもりだ」
「う……」
ちょっと魚や肉には手がでなかったが、固いライ麦パンを何種類か、チーズを少しずつ数種類――気づいたら結構買っている。
「迷宮で食い切る!」
「……まあ、運べるのも動けるのも知ってるからいいけどよ」
ため息混じりのレッツェが買い足したのは炭、水がわりの酒。カヌムから運ぶにはかさばったり、重いもの。
俺は黒い泥炭を板状に切って乾かしたヤツを持って来てるんで、炭はパス。水は買い足さないと。
泥炭を燃やした時の熱量は、同じ重さの石炭のほぼ半分くらい。でも木材の倍あるので十分だろう。乾かしすぎるとポロポロ崩れて扱いにくいけど、よく燃える。今頃リードが目指しているだろう場所から掘って来て、乾かしといたやつだ。
ディーンは重さを考えてか、干し肉を大量に、塩漬け肉を少々。まあ、肉だ。アッシュとクリスはカヌムであまり見ない種類の干し果物、執事は香辛料、カーンは酒、ディノッソはヌガーを吟味。迷宮に持ち込む最低限を押さえた後の買い物は、みんな結構自由だ。
「アッシュ、この店の干し葡萄は粒が大きくて甘いぞ」
「む」
【鑑定】を使いつつ、安全に美味しいものを探す俺。一応、一粒味見させてもらってアッシュに勧める。
「あ、本当だね! 私も買っとこう」
クリスも一粒食って、購入を決めたようだ。
「カーン、この酒は薄めてない」
カーンは酒とチーズとナッツ類。周囲にいる精霊から、細かいのを取り込むことで活動しているので、そばにベイリスもいるしどうとでもなる。口から食うのは人間だった時の名残に過ぎない。酒もいくら飲んでも泥酔まではいかないそうだ。
ディノッソが選んでいたヌガーは、砂糖や水飴でナッツやドライフルーツを固めたもの。美味しかったら子供たちへのお土産に帰りに買うそうで、いろんな種類を少しずつあちこちで買ってた。お父さん、楽しそう。
買い物を終えて夕食。
玉ねぎの丸焼きの乗った皿に、暖炉で焼ける子豚から肉を切り落としてくれる。それとレバーを少々。
なお、レバーペーストと燻製を持って来てる模様。レモンを蜂蜜につけた物と、乾燥させたライムやら野菜も。
こっちの人の携帯食ってチーズや干し肉、ビスケットとかそんな感じ。かろうじて干しリンゴか。栄養偏りまくる心配しかなかったのだが、レバー食う習慣があれば、ちょっと安心? それはそれとして。
「豚肉、柔らかい!」
切り落とされた肉にちょっと塩を振っただけだが、すごく美味しい。
「この店は魔物の野豚の中でも二本ツノを使ってる。城塞都市の名物なんだよ」
ディーンが得意げに言う。
どうやらこの店のチョイスはディーンらしい。さすが肉マスター!
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