第204話 気合声と賛美歌は一緒

「ば、ばかな。大木が……っ」

「緑の女神の地を荒らした……?」

「いや、女神がお与えにならねば、あの深さだ、かすめ取るにも枝が精一杯であろうが」


 こっちが風下なんで丸聞こえだ。もしかしてここの材木、所有権とかあったのか? でもなんか女神って――土偶ってそういえば女性だったな。見られたの面倒くさいな、と思いながら声の方を見やる。


 ドワーフ!!!!! いや、違うかもしれないけど、ずんぐりむっくりヒゲ! ドワーフ!


「精霊が引っこ抜いてくれたものだぞ」

「言葉が通じるだと!?」


 【言語】さんには大変お世話になっております。


「我は地の民、黒鉄の竪穴のガムリ」

「同じく、赤銀しゃくぎんの谷のグリド」

「同じく、硫黄谷のモリク」

最初に名乗ったガムリは黒髭、三つ編み。グリドは焦げ茶の髭で真ん中から左右に分かれて大きく弧を描く。モリクは茶色寄りの金茶、二人に比べて短めで普通に真っ直ぐ。


「ナルアディードのそばの島、ソレイユ。島の名前はまだない」

名乗っても平気かもしれないけど、念のため。


「長い者よ、お前は緑の女神に会ったのか?」

長い……、いやまあ俺も三人を見て、ずんぐりむっくりだと思ったし、自分の種族が基準で考えたらそうなるか。


 どうやらガムリがリーダーらしく、二人より前に出て俺に聞く。


「緑の女神というのが……焼いた土でできた人型ならば会ったな」


「おおっ」

「なんと、外の者が……。夏至でもなしに!?」

オーバーアクションドワーフ。髭で覆われてて小さな表情がわかりづらいから、大袈裟なのかな?


「それはまさしく女神の容れ物、中に女神がおわす」

神妙な顔で言うガムリ。


 速報! 土偶あれは着ぐるみ! やっぱり引きこもり?


「我らは毎年、夏至に女神に大地を一掴みささげ、枝を頂く。お前はどうやって巨木を得たか聞いてもいいか?」

「大地を一掴みって……」

周りを見る俺。あるのは歩いて来た荒凉たる風景。


「まさかここのか?」

土偶の好みからは程遠い、草も生えない土地。寒く、降雨量が少ないこともあるけど、岩だらけの土地だ。


「うむ。冬至の日に大地を一掴み得て、儀式を執り行い祈りを捧げしものだ」

「儀式と祈りで緑の生える豊かな土になるとかはないよな?」

中原には風の精霊が豊かな土を運んでくる。儀式やらに、気の持ちよう以外になんの効果もないとは言い切れない世界だ。


「そのようなことが起これば、ここはとうに他の種族が押し寄せていよう」

ですよね〜


「女神が好むのは木々の育つ豊かな土だ。捧げる土に何か指定はあったのか?」

過去のどこかで伝言ゲームにミスが発生している気配。


「……ない。それで最近は枝さえも下賜かしされぬのか……」

「ならばさもありなん、最近はここも苔さえ生えなくなったからの」

「これは急ぎ全ての穴蔵に伝えねばなるまい」

三人が口々に言う。


 穴蔵ってなんだろう? 村とか集落の意味で使ってるっぽい?


「長いの、礼を言う。ところでその木は何にするつもりだ?」

「家具とか扉、腰板だな」

床板もいけそうだ。だが、材木が乾くまでまだ先の話。


「加工する職人は決まっておるか?」

「いや、この湖の木を加工できる者が我らが他にいるとは思えぬ」

「そうじゃ、我ら以外はまともに斧を打ちおろし、のこを入れることさえできぬだろうよ」

話す順番はだいたいガムリ、グリド、モリク。後から聞いたらヒゲの立派な順に発言権があるっぽい。


「いや、もう枝落したし」


「ば、ばかな!」

「なんと美しい切り口!」

「本当じゃ!」


 またオーバーアクション頂きました。


「巨木、夢の巨木が……。だが、俺より切り口が美しい」

「せめて枝の加工を生きているうちに。しかし、俺の技術も及ばん」

「枝で戦斧の柄を……。でも、力不足」

打ちひしがれる三人。使ったのが『斬全剣』なもので……。


「どっちにしろすぐ加工は無理だろ。乾かすし」

「俺は乾かせる、乾かせるぞ! その巨木を乾かしてやろう、いや乾かさせてくれ! 俺の技術がどれだけか! その巨木に触れてみたい……っ!!」

ガムリがなんか五体投地状態で地面を拳で打つ。


「まあ、乾かしてくれるならありがたいけど」

「本当か!?」


 やめろ、ヒゲの親父が涙目ですがってくるな!


「ぬおおおおおおおおっ!!」

「黒鉄の竪穴のガムリ! 男を見せろ!」

「黒鉄の竪穴のガムリ! 地の民の力を見せろ!」


「ふぬうううううっ!!」

「黒鉄の竪穴のガムリ! もう少しだ!」

「黒鉄の竪穴のガムリ! あと二本あるが!」


 そういうわけで丸太の乾燥を頼んだのだが、うるさい。ドワーフって無口なイメージだったんだけどな。ああ、でも白雪姫の七人の小人もドワーフって言われてるのか。なんか納得。


 魔法……ガムリは技術と言ってるけど、視てると精霊が手伝って水を抜いている。しかもなんか唸り声と二人の応援の声に魔力が乗っているらしく、声が上がるたび精霊が力を貸す。声を面白がってるようでもあるけど。


 鍛治師とかで島にこないかなーなんて思ったが、勧誘はやめておこう。たぶんこれ、応援する仲間が多いほどいい仕事できるやつだ。


 『精霊の枝』や神殿で時々ある賛美歌みたいなもんか。あれも声に魔力を乗せる。見てくれだいぶ違うけど!!!


 根性で全部ひび割れもなく乾燥させて、最終的にぶっ倒れたガムリを二人が運んで行った。お礼に枝を一本ずつあげたらとても喜ばれた。この巨木を前に無欲だな、と思ったけど、一年の半分を費やすような儀式したあげくもらえない枝だった。


 息も絶え絶えなガムリに、黒鉄の竪穴まで案内するという石をもらったのでそのうち工房を見学させてもらおう。暑苦しい記憶が薄れたころに。


 一気に疲れたので、丸太や枝を【収納】して家に帰る。静かな時間をリシュと過ごしたい気分。

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