第145話 資金
「ところで金色さんの眷属って上はカダルだったりするのか?」
誓文の時の様子からして、知っているとしたら金の方だろう。銀はなんかわなわなしてただけだけど、動けてたし。
「名前をお呼びいただいても結構ですよ」
ふふんという感じの金。
「誓文のサインに名はあるはずだが?」
ちょっと俺の記憶力をバカにしてる感じの銀。
「本当に名前を呼んでも大丈夫か? 銀色はともかく金色も?」
金の名前はアウロ、銀の名前はキール、思い出せなくて開き直ったわけじゃない。さん付なくしてやるぞ、こら!
たぶんキールが味覚がないのって、アウロに人としての部分を写され奪われて、欠けた部分が精霊化してるんだと思うのだが。
アウロの方が妖精だと言ったのはよく話すことも理由の一つだが、最初から精霊なら味がしなくても気にしないと思うので、キールの方は昔は味がわかっていたのだろうと予想した。
入れ替えられたのはキールもわかっている風だけど、いったいどういう付き合いなんだろうか。あと味がわからない程度の精霊成分ってどのくらいだろう?
「……まさか」
「どうした?」
思い当たったのかアウロが愕然とし、その様子にキールが眉をひそめる。
「あの場にカダル様が現れたのは、誓文のためではなく……」
「名前を呼ばれたいか?」
俺と同じ答えに行き着いたらしいアウロに問う俺。
「いえ。どうぞ私どものことは金銀とお呼びください」
「おい!」
ついてこれていないキール。
「じゃあやっぱりカダルの眷属か」
「はい」
今度はちゃんと返事が返ってきた。
「なんだ一体? 二人だけで進めるのはやめろ」
キールが拗ねた!
「キール、あの時カダル様が現れたのは誓文のためではなく、眷属である私、いや私たち――精霊とソレイユ様との契約のためだ」
「誓文に書かれたことを基礎として、かな? 俺が名前を呼んだら契約完了だな、たぶん」
精霊との契約は出会いも手順も様々だが、最後は必ず名前をつけるか、すでに精霊が捨て難い名前を持つ場合は名前を呼ぶことで縁が結ばれる。
「とりあえず家が建つまでよろしく」
考え込む二人をよそに、今度こそ鎧戸を開けて光を入れる。
その後、仕事の打ち合わせ。井戸がそろそろ完成することや設計図の説明、この島が俺の管理になっていること、島民には
「ああ、そうそう。これは二人が住むところを整える当座の資金とあとおやつね」
金の入った袋とクッキーの入った袋を取り出すと、キールがクッキーの袋を素早く受け取った。
「クッキーの出所を知るのは影狼ではなく貴方ですか」
ちょっとびっくりしている間に、アウロが金の入った袋を丁寧に受け取る。
生産者です。とりあえず黙っとくけど。
島民に紹介して、井戸と島全体の様子を確認して周り、ナルアディード本島に戻る。
アウロとキールはしばらく本島と行き来して、住処を整えながら大工を雇ったり建材の注文をしたりすることになるだろう。そのために商業ギルドに寄って、俺の代理人ってことで預金を動かせるように手配して本日は終了。
それにしてもネックは資材を運ぶ船だな。でかい船は入ってこれないから、どうしても運送費が割高に。当初の予定よりかなりかかりそうなんで、ちょっと頑張って稼がなくちゃいけない。
とりあえずランプをナルアディードで売って、あとはどうしようかな? 大量にある白色雁の羽根枕やクッションを処分するのも……いや、家が建ったら部屋のあちこちで使うな。
家に帰ってリシュを撫でながらいろいろ考える。手っ取り早く大金が入る方法はないもんかね?
じゃがいもを浸透させてからじゃないと、他の野菜は買い叩かれそうだし。トマトやキュウリを出すのは、じゃがいもで実績作ってからだよな。苺はそろそろ収穫できるしいけるかな? でもアッシュが好きで、菓子にけっこう使うからな。
売り出す時期やら作る手間を考えて悩みながら眠りにつく。
「おう、アメデオの野郎に剣売ったぞ!」
翌日、アホみたいな大金が懐に転がり込んできた。こんなにするんですか精霊剣? そしていくら溜め込んでるんだよ、金ランク!
「ローザが顔を青くしてたから、ありゃあ個人じゃなくてパーティーの活動資金に手をつけてやがるぜ。ザマアミロ! あー!! すっきりしたぁ!」
よっぽどうっとうしかったのか晴れやかな笑顔のディノッソ。
どうやらローザのパーティーはディノッソのことを諦め、そして資金調達のためにしばらく真面目に冒険者稼業に精を出すことになったようだ。
報酬のいい城塞都市に移動していった、これで平和になる!
ディノッソと朝っぱらから祝杯をあげて、喜ぶ。俺は酒じゃなくて炭酸水にライムを入れたやつだったんだけど。
悩みが二つも片付いてスッキリした!
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