第26話 解決

 冒険者ギルドの前で精霊を見える状態にする。細かいのはスルーで、人に興味があるか悪意があるものだけ。


 ちなみに俺に寄ってきた精霊には、俺の代わりに赤の1改めルージュと緑の1改めオリーブが家のほうに行くようお願いして回っている。おかげで平和、こんなことで精霊を使役することになるとは思ってなかったけど。


 特にギルドから出てくる奴らの頭に花はなく、普通。何人か本人は気づいてないようだが、精霊に懐かれまとわりつかれてる冒険者もいる。


 ギルドの問題が解決して、アッシュに新しい宿を紹介してほしいところ。金払えばギルドが生活や立ち回りをある程度サポートしてくれるはずなんだけど、まともなら。


「ノート」

冒険者ギルドに入ると俺の問題は解決した。ギルド内の酒場にアッシュの執事がいた。


 アッシュの呼びかけに立ち上がるノート。黒いスーツに銀の刺繍、片眼鏡という思い切りここで浮いた格好をしているのだが、追っ手は大丈夫なのだろうか? いや、上半身裸に真っ赤な毛皮羽織ってるのもいるから目立ってるというほどでもないのか? ブルドックみたいなトゲ付きのベルトしとるのもいるし。


 アッシュには執事と紹介され、俺も立ち居振る舞いから執事だと思ってるが、実際には既に数年前に引退して自由の身だそうだ。正しくはアッシュが陥れられる前に、先に代替わりさせられた、らしいが。


「アッシュ、待ち人と会えたのか?」

会えたのは見ればわかるが、他に名前を呼ぶ話題が思いつかなかった。


「アッシュ様、ご無事で」

ノートがアッシュに深々と会釈した後、俺に目礼を送ってきた。今名乗っている名前を教えたことの礼だろう。


 国を越えているけど、用心しておくにこしたことはない。大小様々な国が滅びては興っているかわりに、冒険者ギルドと商業ギルドは国をまたいでギルド間の繋がりが強い、どっちも所属してる者に移動が多いせいもあるだろうけど。


 国によってはころころ変わる王室うえより、ギルドのほうが強いところもあるくらいだ。ここみたいにダメダメなところもあるけど。


 ギルド内を見回すと、造花のような花を付けた男もいなければピンク頭もいない。どうやら一掃されたようだ。


「おう、ようやく来たな」

多分騒動の中心になったであろうディーンが来た。


「ゴタゴタに付き合わせた詫びに一杯おごらせてくれ。あんたらで奢るのもようやく最後だ。そっちは?」

「お初にお目にかかります、ノートと申します。数年前まで執事をしておりましたが今は息子に譲って冒険者になりました。アッシュ様にはご縁がありまして、押しかけ従者のような真似をしております」

一礼してみせるノート。


「まあ、二人も三人も一緒だな」

そういうディーンに酒場の端のテーブルに誘われ、酒を飲みながら話を聞く流れに。


 今日のディーンの肩には赤いトカゲがちょろちょろと行ったり来たりしてる。どうやらディーンも精霊に気に入られている一人のようだ。


「関係者にはみんな同じ説明してるんだが、妹は『精霊の枝』に連れってって精霊落としをしてきた。同時にギルドで多数の気絶者が出たんだが、今は落ち着いてる。大勢が倒れたんで隠しちゃおけねぇが、ギルドの恥になるからあんまり広めないでくれ」


「妹君はどうした?」

アッシュが聞いてるところにビールがきた。


 【鑑定】結果はグルートビール。材料はエン麦・小麦・大麦の麦芽、香りづけにヤチヤナギ。ホップじゃないんだ?


「下っ端からやり直し。ちょっと甘えたな根性直さないと受付には戻れねぇな。――精霊が起こす『いたずら』は誰の身にも起こることで、結果は様々だ。人が意図して起こしたものじゃなけりゃ、やり直す猶予ゆうよはもらえるんだよ」

俺が納得いかない顔をしていたらしく、ディーンが説明してくれる。


「精霊にとってはいたずらでも価値観がずれているせいか惨事になることもある。今回はディーン殿・・・・・という身内が・・・・・・気づいて・・・・対処したため、寛大な処置となったのだろう」

アッシュの言葉は、ディーンとピンク頭に配慮しているように見せて、俺や自分が関わっていることは言うなよとの釘さしのようだ。


 動いたのがディーンでなければ寛大な処置と周囲の理解が怪しくなるぞ、と。


 アッシュにはずれてる印象しかなかったが、頭は回る。仕事はできるけど、実生活がダメなタイプなのかな? 公爵だと買い物とか宿の手配とか全部メイドさんとかがやってくれそうだし、環境の違いだろうか。


「おう、わかってる。そうそう、アッシュの金はギルド経由で戻されるはずだから後で手続き取ってくれ」

そう言って、ディーンがジョッキを大きく傾ける。大筋の話が終わったということかな。ギルド内のことは触れ回るようなことじゃないだろうし。


 俺もビールを飲む。こっちでは甘酒みたいな穀物の残った酒は、保存食扱いの栄養源なので子供でも飲む。でも酒場で飲めるのは十五歳以上だ。こっちでは年齢をクリアしてるが、日本の記憶があるのでちょっと背徳感がある。


「そういえば俺も宿暮らしになった。一緒にいるとどうしても甘やかしちまうから、両親呼んで俺が家を出た」

ディーンが酒場のエプロンのお姉さんにおかわりを注文しつつ言う。


 両親、特に母親にピンク頭をビシバシに躾けてもらう方向だそうだ。もともと母親のしごきが嫌でディーンのところにピンク頭が転がり込んだんだそうだ。――ピンク頭、何歳なんだ?


「なかなかいい宿だから、今いるところがイマイチだったら紹介するぜ?」

「俺は色々つくるから借家にした」

つまみで出てきたのはチーズとナッツ。ナッツはちょっと湿気ってるので、せめてローストしてほしい。


「紹介してもらえるだろうか? 今いるところは居心地はいいのだが出ねばならん」

アッシュがディーンの誘いに乗った。


「早いうちに借家を探そうとは思っておりますので、二部屋、短期滞在でお願いできますか?」

ノートが笑顔を浮かべて補足する。


 ああ、アッシュが男路線で行くと風呂が井戸端とか色々問題が出てきそうだしな。人目を避けるなら借家の方がいいだろう、俺も同じ理由で借家だし。


 それにしても煮込む系の料理はあたりもあるが、他がイマイチすぎる。同じ材料でもちょっと手間かけたら美味しくなるのに。


 飯を作って人に食わせる趣味はないんだけど、微妙な料理を食べるたび、本当にこれをうまいと思っているのか問いただしつつ、比較対象として自分のうまいと思うものを食わせたくなる。


 特にこんな風に人と話しながら食事するとその衝動が強い。



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