第8話 食べ歩き

 さて、夜になって店が閉まる前に食べ歩きをしよう。


 門前の広場から一本入った道で朝から日が落ちるまで露店が出ている。サラミやチーズを売る店、なぜか鈴を売っている店、古着、金物屋、鍋の穴を直す継屋など安価な品物を扱う様々な店が並んでいる。


 食べ物屋はパンにソーセージと玉ねぎやザワークラウトを挟んでくれるところが多い。あとは硬めのパンを薄切りにしたものを皿のようにして、上にチーズやハムを乗せたもの。


 パンだけが積み上がった店や、血でできた真っ黒いソーセージ、ナッツ類のタルト、干し林檎。麦から作ったらしい酒が売っているが決してビールとは呼べないもの、どっちらかというと甘酒? ちょっと麦の粒が残ってる。


 ソーセージやチーズを扱うところが多い、次点でハム。ソーセージはボツリヌス菌が【鑑定】で引っかかってくるが、どうやらよく焼いてくれるところならば大丈夫のようだ。


 詳細にみると大腸菌とかいろいろ出るのだが、てきめんに体を壊すものが簡易な結果には出るようだ。便利。


 【鑑定】に引っかからないところを選んで一個食べてみた。ちょっと脂っぽいかな? どうもこうカロリーを摂ることが目的みたいな雰囲気をひしひしと感じる。


 干した果物各種。一つ食べてみたけど酸っぱい、砂糖で煮てお菓子の材料にするか、肉と一緒に煮るのがいいかもしれない。


 黒砂糖も売っていた、型に入れて固めた大きな塊を叩いて割って売ってくれるようだ。塩も同じく、湿気で固まっているやつを砕いて売っている。量を計るのは天秤に分銅、レトロでいい感じ。


レトロと思うのは俺だけで、ここでは普段使いなんだろうけど。


 ちょっと身なりのいい家族の子供が、黒砂糖を買ってもらっている。


 人だかりができていたので寄ってみたら豚の丸焼きがでんっと据えてあって、削ぎ落としてはパンに挟んで売っていた。これは当たり! パンは残念な感じだけど。


 豚の丸焼きか〜、選択肢になかったな。食糧庫のものは部位ごとにお願いしちゃったけど、豚の半身の枝肉とかの方がよかったろうか? いや、毎回捌くの面倒だし豚はこっちで手に入れよう、森のどんぐりが餌にオススメみたいだし。


 色々食べたいけどやっぱり胃が小さくなってる。家に戻ろうとして、この時間に門を出入りする人はほとんどいないことに気付く。というか、門は閉まってでかい閂がしてあった。


 仕方がないので素泊まりの宿に戻って、家に転移する。明日は面倒でも一回戻って町から出る手続きをしよう。いや、魔物を狩ったら、売るためにまた町に戻ることになるのか。


 明日の予定はどうするかな。


 一応、ウサギ以外も狩ってみるか。ウサギ以外はちょっと奥に行かないと見つからない。奥に行くと見つけなくても見つかる状態になるっぽいけど。


 狼、熊、猪、狐、狸、猿など。――狸って昔のヨーロッパにはいないはずなので、やっぱりちょっと違う世界のようだ。一番多いのは小鬼と呼ばれる猿の魔物、単体では弱いが道具も使うし、群れるし、繁殖力も強い。


 ただ小鬼は肉も毛皮もイマイチで金にならない。冒険者ギルドのほうなら常時討伐依頼が出ていて、ツノを持っていけば金が出るんだが。襲った人間の装備を使っていたりするし、金物を巣に運び入れる習性があるので、いつも全く儲けがないわけでもないそうだけど。


 【転移】もあるし入るだけ入ってみようか。そう決めて風呂に入って寝る、すっかり早寝早起きだ。一通りの確認が終わったら、王都に行って本でも買おう。


 リシュをなでて眠りにつく。



 早寝しているためか、早朝に起きることが気持ちよくなってきた。眠っているリシュをなでて、無駄だと知りつつも【治癒】をかける。【治癒】は放っておいても自分の怪我や病気がちょっとずつ良くなる効果があるのだが、積極的に治すこともできる。少々気力を使うみたいなんだけど。


 ただリシュのこれは怪我でも病気でもなく、ただただ力を失い、存在そのものが薄くなっていることから来ているものだ。【治癒】は効かないと最初に聞いているのだが、なんとなくリシュが寝ている時にかけてみている。何度もかけるようなことはしないけど、本当になんとなく。


 起き抜けに牛乳を飲んで、朝飯の準備、ご飯に味噌汁、鯵の塩焼き――やっぱりぬか漬けつくろう。リシュの水を換えて、出かける準備は完了。


 森の端に【転移】し、すぐに【探索】をしながら森に入る。浅い場所は普通のウサギ、ツノウサギ。一度見たものなら直接見なくてもわかるようになっている。


 そういえばウサギはツノなしウサギの肉が一番高く、毛皮はツノありが高く売れた。そのせいで普通のウサギはどうやら魔物化するのを期待して放置らしい。他の魔物と違い、あまり脅威にならないせいもあるだろう。


 あ、この世界ちゃんとドラゴンやら一角獣やらもいる。それらもやはり魔物化するみたいだ。まあ、魔物化してもしなくても脅威な気がするが。


 今現在川の対岸にいるにいる熊だって、一般人には十分脅威だろう。


 この気配は熊、と。この系統で強い気配のを探せばいいのか。ウサギはともかく、魔の森と言われるほど魔物と会わない。わらわらいるのかと思ったがそうでもないらしい。


 下草や枝を払いながら進む。『斬全剣』便利! 島の時より格段に歩きやすい。山歩きした時にも思ったけど、体力強化がされているらしく疲れなかったし。


 夏だというのに、クリーム色のキノコが朽ちた木から折り重なるようにして生えている。【鑑定】すると美味しいキノコとのこと、当然採取。ついでにそばにあった緑が綺麗な草を【鑑定】するとポーションの材料になる薬草だった、これも採取。


 魔物はいるが、森自体は豊かだ。赤・黒・黄色のラズベリー、すっぱいスグリ、ちょっとえぐみがあるグミ。家にすぐ帰れること、十分休養がとれていること、荷物は【収納】できること。心の余裕のおかげか森歩きも楽しい。

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